高熱で死にかけている時に女神から『孵化』のスキルを授かった俺が、なぜか幻獣や神獣を従える最強テイマーになるまで

まるせい(ベルナノレフ)

第1話 気が付けば目の前に女神がいた

 目の前には霧が漂い、足元がふわふわしている。

 熱くも寒くもなく音すらしないこの場所に、気が付けば俺は漂っていた。


「意識はありますか、クラウス?」


 いつの間にか、目の前に女性が立っていた。

 眩しい光を身にまとった、この世のものとは思えない美貌と肉体をもつ……。


「私はこの世界を司る、女神ミューズ。あなたは現在、死の淵にいるのですよ」


「あ、あなたが……女神様!?」


 あまりに突然の言葉に驚いた。女神ミューズというと、善神として崇められている存在で、世界中の人間が信仰している対象だ。

 俺が住んでいる街にも教会があるし、成人の儀式のおり、祈りを捧げたこともあった。


「ど、どうして……女神様が、俺なんかの前に?」


 生まれてから16年、自慢ではないが平凡な人生を送ってきた。目立つような悪事を働いたこともなければ、世界を救うような偉業を達成したこともない。


 女神がその姿をさらすのは、世界を救った英雄、神託を受ける聖女など、高貴な身分の者に限られている。


「実は、今あなたが死にかけているのは、私のせいなのです」


 ところが、女神ミューズは申し訳なさそうな顔をすると、そう告げてきた。


「説明をしていただいてよろしいでしょうか?」


 流石に聞き流せないので聞いてみる。


「私は世界の均衡を保つため、様々な調整をしているのですが、最近、魔境でモンスターが活性化していて、バランスが崩れていることを察し、人間に力を授けることにしたのです」


 女神ミューズは説明を続ける。


「本来なら、この世界の王族や貴族、才能あふれる者に力を与えるのですが、間違えてその力をあなたに与えてしまったのです」


「それは……どうなんですかね?」


 俺としてもいきなり力を与えられたと言われても困惑してしまう。


「私が与えた力は、本人の潜在能力を拡大して引き出すもの。王族などであれば相当強い能力に目覚めることが期待でき、モンスターを討伐し、バランスを保つ計画でした。ですが、それだけの力となると負荷も大きい。クラウス、あなたの器ではそれを受け止めることができなかったのです」


「つまり……その結果、俺は死にかけていると?」


 俺が確認すると、女神ミューズは頷いた。


「そっか……、俺死ぬんですね」


 両親と、妹のセリアの顔が浮かんでくる。これまで大切に育ててもらい、懐いてくれた。

 最後の言葉をかわすことなく死ぬことになってしまい、悲しみが押し寄せた。


「いえいえ、死にませんよ?」


 ところが、女神ミューズは手をパタパタと振ると笑顔を見せた。


「私も間違いで人間を殺してしまうのはしたくありませんから。私の力で器を大きくしましたし、修復もしておきましたから」


 腰に手を当て「えへん」と胸を張る女神ミューズ。その可愛らしい態度に、こんな時だというのに可愛いと思ってしまった。


「だとすると、どうして俺の前に現れたのですか?」


「確かに死にはしないのですが、蓄えていた力をほぼあなたに使ってしまったので、新しく力を蓄えるまで時間がかかるのです。もし可能ならその力を少しでも世界の役に立てていただけないかなぁと思いまして……」


 後ろめたそうな表情を浮かべている。話が本当なら、世界の危機が迫っているのだろう。


「わかりました、出来ることがあるならお力になると約束しますよ」


「本当ですか、ありがとうございます!」


 女神ミューズは俺の手を握ると目をキラキラ輝かせた。


「うっ……」


 視界がぼやけ、意識が混濁し始める。


「安心してください。今、あなたの家族が薬を飲ませたので、意識を取り戻そうとしているんです」


 女神の姿が十にも二十にも見えふらつく。


「いいですか、クラウス。目覚めたあなたにはスキルが備わっています。それを使って――」


 声は聞こえるのだが、これ以上意識をたもつことができない。俺は、女神ミューズの言葉を最後まで聞くことなく意識を落とした。

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