第25話 パープルに起きた変化
北の森に行った翌日、俺は西門を出ると数時間ほど進んだ先にある沼へと来ていた。
沼のところどころに草が生い茂っていてその上だけは歩くことができるのだが、目を凝らしてみても沼の深さはわからないので、足がつくくらい浅い場所もあれば底なし沼もあるのだと聞く。
そんな中、俺とパープルは足を踏み外さないよう慎重な足取りで前に進んだ。
「とりあえず、目的のモンスターはどこだ?」
先程から、周囲を小型の飛行モンスター【ミニフライ】が飛んでいる。羽根がわりと硬くて、突撃されると肌に少し傷がつく程度なのだが、名前の通り小さいので補足することが難しく、周囲を飛び回る厄介なモンスター。
湿地帯にはいると寄ってくることで有名で、このモンスターのせいで無傷で戻れないことが多いので、冒険者の間では嫌われている。
一応、ミニフライ避けのお香もあるのだがそれなりの値段がするので俺は使っていないのだが……。
『…………♪』
――シュ! シュッ! シュシュッ! シュバッ!――
先程からパープルが糸を伸ばし空を飛ぶ【ミニフライ】を捕獲して食べている。草食系かと思っていたのだが、意外と雑食だったらしく驚く。これはテイマーギルドに報告しなければいけないな……。
そんな訳で【ミニフライ】もパープルを脅威に思ったのかあまり近付いてこなくなった。
厄介な案件が一つ取りのぞかれたので、俺は安心して湿地帯を歩き回っていると、
『ゲェェェェェロォォォォォ!』
沼から水飛沫が立ち、巨大なモンスターが姿を現した。
紫色をした身体の表面をぬらぬらとした粘液が覆っている。
【ポイズントード】と呼ばれるCランクモンスターで、この湿地帯でもっとも厄介な相手だ。
「よしっ! こいつだ!」
今回、俺は【ポイズントード】の討伐のためにここを訪れたのだ。
『ゲェェェェェロォォォォォ!』
現れるなり、ポイズントードは身体をのけ反らせると何かを吐く動作をする。
「毒液か!?」
咄嗟にそう判断した俺は、相手の動きを見極めると横に飛んで避けた。
避けた地面に生えている草が湯気を立て萎れていく。
「やっぱり厄介な相手だな……」
まだ距離が離れている。俺は右手を前に出すと、
「『フェニックスフェザー』」
『ゲロロロロロロロロロッ!?』
炎で出来た羽根が飛び、ポイズントードを直撃する。心なしか以前撃った時よりも威力が向上していた。俺は太陽剣を抜くと、ポイズントードに止めを刺すために距離を詰める。
『……ゲロォ』
最後の悪あがきかポイズントードは申し訳程度の毒液を飛ばしてきた。
「『浄化の炎』」
今度は避けることなく『浄化の炎』を目の前に展開した。すると毒液は一瞬で蒸発してしまった。
「こういう使い方もできたか……」
どうやら浄化の炎はすべての不浄を焼き尽くすらしく、毒に対しても有効なようだ。
毒をおそれる必要がなくなり、俺は安心してポイズントードの攻撃を見切ることができる。
元々『フェニックスフェザー』で弱っているということもあってか、俺がポイズントードを討伐するのにそう時間はかからなかった。
「それにしても、パープルのお蔭で随分と助かったな」
『…………』
ポイズントードの討伐を終え、一息吐いた俺はパープルへと話し掛ける。
「パープル?」
口から大量の糸が出て身体を囲い始める。今まで出していた糸とは違う、透明度の高い――まるで【クリスタルハーブ】のような……。
「お、おい……。パープル。どうしたんだよ?」
俺が呼び掛けている間にも、パープルは糸を吐き出し続けると、あっという間に糸で全身を覆い隠してしまった。
「どう……でしょうか?」
急いで王都に戻り、テイマーギルドに駆け込んだ俺は、パープルの容態について係員の人に訊ねた。
「何分、マジックワームをテイムしたのはクラウスさんが初めてなので……何とも……」
透明な糸とはいえ何重にもなっており、中のパープルの姿は朧げにしか見えない。
「とにかく、一度預からせてもらえませんか? こちらの方で、過去に似たような事例がないか調べてみますので」
係員さんのその言葉に、
「俺にも手伝わせてください!」
「えっ? でも、調べるのに何日かかるかわからないんですよ?」
「パープルの身に何かあったらと思うと、家に帰っても休めないんです」
そのくらい大したことではない。今もパープルが苦しんでいるのではないかと考えると気が気ではなかった。
「クラウスさんにテイムされて、パープルちゃんも幸せですね」
係員さんはそう言うと俺を安心させるように笑って見せた。
「そんなことはないと思いますけど……」
思えば、田舎の街にいたころからパープルには助けてもらってばかりいた。
これは恩返しなので、そのように言ってもらえるようなことではない。
「こうなったら、人を増やしましょう。職員に伝えて全員で原因を調べますよ」
テイマーギルドにはモンスターとの共存を望む人たちが集まっている。
係員さんが一声かけると、多くの職員さんが集まり、パープルの身に起きている原因について調べ始めるのだった。
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