第76話 ルシアと再会

「やあ、一週間ぶりだね、クラウス君」


 目の下に隈を作ったレブラントさんが話し掛けてきた。


 ここは彼のギルドマスター室で、現在の俺は彼に相談を持ち掛けている最中だった。


「いえ、こちらこそ貴重な時間を頂き申し訳ありません」


「それで、相談というのは?」


「マルグリッドさんから、屋敷を買ったのならお披露目パーティーをやるように言われまして……」


 ことの経緯を話して聞かせる。


「なるほど、肉の味についてか……。まさかそっちに食いつくとは思わなかった」


「なんでも、キャロルが一役買ってるようです」


 後見人に食事に招待されるたび「クラウスの家の肉はもっと美味しかった。雑味がない美味しさだけ味わえる。生でもいけた」などと吹聴していたのだと知った。


「そんなわけで、パーティーを開かなければならなくなりました」


 庭の整備が終わっていなければまだ断れたのだろうが、逆にタイミングが悪くそこは解決してしまっている。


「貴族の中には面倒くさい連中もいるから大変だぞ?」


 俺が頭を痛めていると、レブラントさんはさらに追い打ちをかけてくる。


「……どうすればいいですかね?」


 仮に俺が自力で何とかしようとしたところで、ノウハウもないので確実に失敗する。


 レブラントさんはアゴに手を当て少し考えた。


「そういうのが得意なところに頼むことくらいかな? パーティー代行を請け負っている商会もあるはずだよ」


 貴族から商人のパーティーまで請け負っているようで、なまじ自分たちでやろうとするより安定した楽しさを提供できるのだという。


「一度使ったことがあるが、中々の手腕だった。紹介状を書いておこう」


「お願いします」


 俺はレブラントさんから紹介状を受け取ると、早速その店に向かった。






 レブラントさんの紹介状を持った俺は、商業区を訪れていた。


 ここは娯楽街となっており、酒場やカジノなど、娯楽施設が多く存在している。


 そんな一角にある店に入ると、俺は受付を訪ねた。


「すみません」


「はーい」


 奥から返事が聞こえ、若い女性が出てきた。


 現れた人物を見て驚く。


「クラウス君!?」


「どうして、ルシアが?」


 出てきたのは、国家冒険者試験の際行動をともにしたルシアだった。


「だって、ここ私んちだもん」


 腰に手を当てたルシアは当然とばかりにそう答える。


「まさか、紹介状をもらった先がルシアの実家だったなんて……」


 おそろしい偶然もあるものだと俺が驚いていると……。


「それで、一体何の用なのかな?」


 ルシアは首を傾げると俺が訪ねてきた理由を聞く。


 どう説明しようかと悩んでいたが、彼女にならそのまま要望を告げても構わないだろう。


「実は今度屋敷でパーティーを開くように命令をされていて、人員もノウハウもないんだ。だからパーティー代行の依頼をしようと思ってるんだ」


 俺が正直に困っていることを告げると、ルシアはアゴに手をあて考える。


「なるほど、クラウス君が国家冒険者になったことはロレインから聞いて知っていたけど、そんなことになってたんだねぇ」


 つい最近、ロレインにあっているので伝わっているとは思っていたが、妙に楽しそうだ。


「ルシア、どうした?」


 そんな会話をしていると、奥から中年の男性が出てくる。ルシアの父親らしく、愛嬌がある目元が似ている気がする。


「君は……ルシアのボーイフレンドかね?」


 目付きが鋭くなった。どうやらあらぬ誤解を受けているようだ。


「彼女とは以前、護衛依頼で知り合っただけでして……」


「ほら、話したじゃん。アカデミー試験で凄い人がいたって」


 ルシアも口添えをする。


「それなら、まあいい」


 ルシアの父親はそういうと引き下がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る