第22話 二次試験突破
「クラウスさん、その頭の上に乗っているのは何でしょうか?」
王都の冒険者ギルドに戻ると、受付の女性が俺の頭を指差す。
『ピィ?』
フェニは自分のことかと返事をした。
「この子はフェニックスのフェニです。テイムしました」
周囲から見られている気配がする。
王都に戻り、ここに来るまでの間、散々見られ続けたので慣れたものだ。
「いや……どうして、フェニックスをテイムできたのでしょうか!?」
普段は冷静な受付の女性も、流石に想像外の事態に驚いている。
ここに来る前にテイマーギルドに立ち寄りフェニの登録をしたのだが、その時にも同じような反応をされている。
「ちょっと収集依頼で街の外に出てたんですけど、その時にたまたま孵化したばかりのフェニックスの卵がありまして、目が合ったら懐いてくれたんです」
そう言って右腕を伸ばしフェニの首筋を撫でてやる。害がないことを周囲に示す目的だ。
『チチチチチチチ』
フェニは気持ちよさそうな鳴き声を出した。
「可愛い……いいなぁ」
「運がいい野郎だぜ、フェニックスの卵だと?」
「ボイル伯爵家のドラゴンみたいなものだろ。あいつ一生安泰だな」
後ろで冒険者たちがヒソヒソと話しているのが聞こえる。
「それより、リストにあった【スカーレットダイヤの原石】納品お願いします」
俺はさっさと目的を果たすことにしようと思い、カウンターに原石の入ったリュックを乗せる。
受付の女性はリュックの入り口を開けるとギョッとした顔をした。
「しょ、少々……お待ちくださいね」
真剣な顔をしながら、原石を取り出し始めた。
数分程経ち、リュックの半分の原石をトレイに並べた彼女は、
「こちらで引き受けられるのはここまでになります。残りはお持ち帰りください」
そう言ってリュックを返してきた。
「全部買い取っていただけないんですか?」
てっきり全部買い取ってもらえるものだと考えていた俺は、彼女に聞いてみる。
「あのですね、これ滅多に手に入らないレアアイテムなんですよ?」
受付の女性は溜息を吐くと説明をし始めた。
「今回、依頼主から大量の発注があり、装飾ギルドに泣きつかれたので受けましたけど、滅多に見つからない原石なので必要数確保するのを諦めていたくらいなんです。まさか、こんなに持ってくるなんて思ってませんでしたよ」
どうやらこちらの感覚がマヒしていたようだ。よく考えて見ればCランクアイテムというのは滅多に入手できないからこそ、そのランクなのだ。
火山洞窟の溶岩傍にはまだまだ転がっているとはいえ、誰も知らなければ収集できるはずがない。
「おそらく、またそのうち依頼が入ると思いますのでその時まで取っておいてください」
返されてしまったが、レアアイテムということで無駄にはならないだろう。
俺は受付の女性のアドバイスに従い保管しておくことにする。
「そ……それでは、こちらが報酬となります」
他の職員が報酬を運んできた。
俺は今回、そうとうな量のスカーレットダイヤの原石を納めたからか、金貨が数枚混ざっている。これまで生きてきた中で、金貨など見たこともなかったので俺は緊張しながらそれを受け取った。
「それじゃあ、俺はこれで……」
周囲の目を気にしつつ、早くその場から立ち去ろうとしていると……。
「あっ、クラウスさん。お待ちください!」
「まだ何か?」
受付の女性に呼び止められてしまった。
「御提案があるのですが、聞いていただけないでしょうか?」
彼女はチラリと俺の頭上に視線を向けるとそう言った。
「提案ってなんですか?」
「クラウスさんは現在、国家冒険者の試験を受けている最中。間違いありませんよね?」
「ええ、先程納めたスカーレットダイヤの原石も、その試験課題のために取りにいったんです」
俺は彼女の言いたいことがわからず、とりあえず正直に答えておいた。
「そちらのフェニックスの……各部位はスカーレットダイヤの原石など及びもつかないレア素材となります。フェニックスは幻獣と呼ばれる存在ですので滅多に素材が市場に出回ることはありません。おそらく最低でもBランク以上の価値があります。羽根だけでもお譲りいただけないかなと……」
確かに、フェニックスはSランクという世界にほとんど生息していない、それこそドラゴンと肩を並べる希少種だ。
その素材は超高級品として扱われていて、単純に金を詰めば入手できるものではない。
「もし、提案を受け入れてくださるなら、冒険者ギルドから買い取り依頼を出させていただきます。そうすれば、クラウスさんも二次試験を突破できるのではないでしょうか?」
「確かに……そうなんですけどね……」
残り二週間のところで、現在、課題を満たしているのは今納品したスカーレットダイヤの原石のみ。
後二種類のレアアイテムをこれから探してこなければならない。
受付の女性の目に熱が籠っている。何としてもここで契約を成立させたいのだろう。
「でも断ります」
「な、何でですか!?」
「俺はフェニを大切な家族だと思っているので、家族の身を切ってまで合格したいと考えていないからです」
確かに、国家冒険者の資格を得ることは父親との約束だ。
だけど、俺が国家冒険者を目指したのは、父と母とセリア。大切な家族に笑顔でいて欲しいからなのだ。
そしてそれはフェニや、今もテイマーギルドに預けているパープルにも言えること。
彼女が目で訴えかけてくるのだが、俺は真剣な表情を浮かべ逸らさずにいる。ここだけは絶対に守るつもりだからだ。
「はぁ……どうやら意思は固いようですね。残念ですが諦めることにしま――」
受付の女性がそう言っている最中、フェニが俺の頭から降りカウンターに着地した。
『ピィ!』
フェニは俺の方を向くと鳴き声を上げ何やら主張してみせる。
そして、クチバシで自分の羽根を数本毟ると……。
『ピピピ』
カウンターに置き、クチバシを使って俺の前に差し出してきた。
「フェニ、これを使えって言ってるのか?」
『ピッ!』
羽根を広げ返事をする。どうやら今の会話を聞いていて、自主的に羽根を提供してくれたようだ。
「えっと……これで大丈夫でしょうか?」
俺は改めて受付の女性に確認する。彼女は間近に立っているフェニに視線を向けていたのだが、俺の言葉にハッとすると……。
「あっ、はい。問題ありません! 直ぐに受付の処理をしますのでお待ちください」
そう言ってフェニの羽根を受け取るとパタパタと動き出した。
しばらくして、手続きを終え戻ってくる。
「それでは、こちらが追加の報酬になります。それと、二次試験突破おめでとうございます」
追加の報酬を差し出した彼女は笑顔でそう告げる。
「それと……これはお願いなのですが……」
「何ですか?」
もじもじしながら彼女は言った。
「フェニちゃんを撫でさせてはもらえないでしょうか?」
「フェニ、良いか?」
『ピィ!』
確認を取ると、どうやら問題ないらしい。
フェニは受付の女性に身体を寄せるとじっとする。
受付の女性は緊張で腕を震わせながら手を伸ばしフェニの頭を撫でた。
「あ、暖かくて柔らかい。凄く触り心地が良いですね」
「ええ、夜に抱いて寝るととても気持ち良いんですよ」
旅の最中、一緒に寝ていたことを思い出す。
「ふふふ、可愛いですね」
『チチチチチチチチ』
撫でられて気持ちよさそうにするフェニを見て、アパートに戻ったらフェニを堪能しようと考えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます