第19話 クラウスの今の実力

「久しぶりの外の空気は美味しいな」


 俺は身体を伸ばすと周囲を見渡した。

 東門から出て向かうのは歩いて数日程の場所にある鉱山だ。


 目的のレアアイテムの一つ【スカーレットダイヤの原石】これを入手するつもりなのだ。

 第二試験終了まで後三週間。きつい日程ではあるが、まだ可能性がある以上足を止めるわけにもいかない。


 カードで調べたところ、このアイテムは火山口手前の鉱山で入手できるということなので、他にめぼしいアイテムもなかったので取りに行くことにした。


『ピィー♪』


 俺の頭に乗りながら、フェニが機嫌のよさそうな声で鳴く。

 フェニにとって初めて見る外の世界なので、楽しそうだ。


「しかし、まったく疲れないな……」


 先程から、やや早足で……ともすれば走るくらいの速度で移動しているのだが、まったく疲労を感じることがない。

 これはおそらく、フェニと契約した際に得た【自動体力回復(中)】の効果なのだろう。


 今朝起きた時にもステータスで確認したが、状態が『過労』から『万全』へと変わっていた。

 どうやら寝ている間に体力が全快してしまったらしい。


「このペースなら一日で鉱山までたどり着けそうだぞ」


『ピィ!』


 早く依頼をこなせば、早く王都に戻ることができる。

 まだレアアイテムを一つも納品できていないので、時間があるに越したことはない。


 まだ余裕があると感じた俺は、さらに速度を上げた。





 街道を走って数時間が経過したところで、俺は足を止める。

 それというのも、目の前に敵の姿を確認したからだ。


「ここで、トロルが出るのかよ……」


 二ヶ月前なら歓迎できたのだが、いまさら出てきてももう遅い。

 街道を塞ぐように三匹のトロルが立っていた。


 移動速度が上がれば広範囲を移動することになるので、その分敵との遭遇も多くなる。このタイミングでというのはなかなかの偶然だが仕方ない。


「放置しておいて次に通る人が被害に遭ったら可哀想だし、討伐するか」


 戦ったのは今から二ヶ月前。それも他の護衛の人たちとの連携をとってだ。

 一人で三匹ものCランクモンスターとの戦闘をやったことはないのだが、今の俺は不思議と落ち着いている。


「いくぞ、フェニ。振り落とされないようにしろ」


『ピィ!』


 剣を抜き、地面を蹴ると俺はトロルへと接近した。


 ――ザンッ!――


 肉を斬る感触が手に伝わってくるのだが、斬り込みがやや浅い。


『グオオオオオオオオオ!』


 トロルが棍棒を振り下ろしてきたので横に避け距離を取った。


「流石に、一人だと以前のようにはいかないか」


 以前討伐した時は、護衛のサポートということでリーダーの指示に従い、相手の戦力を削ぐことに徹していた。

 トロルの注意は護衛リーダーが引き受けてくれていたので、全力で斬りつけることができたのだが、今は俺しかいないので注目が集まってしまっている。


 その上、トロルの数も多いので、同じように立ち回るわけにはいかないのだ。


「だけど、あの時の俺とは違う」


 この試験の間、毎日モンスターと戦ったり森に籠ったりしていた。

 さらに、フェニと契約したことによって得た力もある。決して無理な戦闘ではないと考えている。


「あれ……使ってみるか」


 距離を取った俺は、剣を地面に突き刺し、右手を前に出して構えると……。


「【フェニックスフェザー】」


 炎の羽根が中空に生まれ、トロルたちへと飛んでいく。


『『『グオッ!?』』』


 まさか魔法が飛んでくると思っていなかったのか、トロルは驚き声を上げた。

 羽根がトロルの身体中に刺さり燃え始める。


 この魔法は、フェニと契約したからこそ使える固有魔法なのだが、俺自身まだ魔法を使い始めたばかりなので威力がそれほど高くない。

 だが、トロルたちの意表をつくことはできたようで、連携が乱れていた。


『ピイッ!』


「お、おい! フェニ? 何を?」


 俺の頭から、フェニは飛び立つとトロルの背後へと回り込んだ。

 翼を広げ優雅に旋回をしており、俺もトロルも一瞬フェニへと注目する。


『ピーーーーーーイッ!』


 ――ゴオオオオオオオオオオ――


『『グアッ!?』』


 フェニは口から炎を吐き出し、トロルの背中を焦がす。威力はそれほどではないのだが、の場の二匹が振り返り、ターゲットをフェニに移した。


「チャンスだ!」


 どうやら、フェニなりの援護のつもりらしい。

 空を制するフェニに対し、トロルは攻撃手段を持っていない。


 だが、一方的に攻撃されてちょろちょろされることが癇に障ったのか、完全にフェニに視線が向いている。


 俺は今のうちに、こちらを向いているトロルに接近すると、ふたたび剣での攻撃を開始した。


 トロルが振り下ろす棍棒に合わせて利き腕を斬りつけ武器を落とさせる。

 目が合った瞬間に右手を突き出し、火玉を作り出すと射出して両目を焼く。


 返す剣で脛を斬り、身動きを取れなくした。


 ここまでの動きを数秒でやり遂げた。


「凄い、身体が自由に動く」


 これまでの戦闘で学んだ動きに新しく加わったスキルのお蔭で選択肢は無限にある。


『ピイッ!』


 戻ってきたフェニが頭の上に収まると、


「これなら負ける気がしない!」


 俺は、考え付く限りの行動パターンを試しながら三匹のトロルを圧倒するのだった。


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