第20話 火山洞窟

 周囲に人の気配はなく、そこらにトロッコや手押し車、シャベルやツルハシなどが転がっている。

 ここ【ガルコニア鉱山】は既に放棄されてしまった鉱山だ。


 全盛期には多くの工夫が働いており賑わいをみせていたのだが、どこからともなくモンスターが出現するようになってから、発掘どころではなくなり、人々も撤退してしまったのだという。


 そのせいかここを訪れるのは、危険を覚悟で鉱石を発掘する人間や、俺みたいに誰かの依頼で収集にくる冒険者くらいだ。


「ひとまず【スカーレットダイヤの原石】はどこにあるのか?」


 このスカーレットダイヤというのは硬度が高く、加工にとても手間がかかる宝石だ。

 今回の依頼は装飾ギルドからで、何でもとある貴族の娘のデビュタントのドレスに着飾るのに必要らしい。


 そんなわけで、俺は原石を求めて鉱山の入り口を通り、中へと入って行く。






「フェニのお蔭で明るいな」


『ピィ!』


 褒めると嬉しそうにバサバサと羽根を広げた。


 鉱山の通路は思っているよりも広く、足元には壊れているが線路があった。トロッコを動かすための線路だ。

 おそらくこれに沿って進めば奥まで到達できるのだろう。


 フェニの身体から放たれる橙の輝きのお蔭で周囲の様子が見える。松明を持たずにすむことで両手も空いている俺は、いつでも武器を抜けるように警戒をしつつ、線路を辿っていく。


 その間、周りの壁を見るのだが、特に原石の輝きもない。

 この辺は、全盛期に掘りつくされてしまっているので期待するのが間違いだろう。


 どんどん奥へと進んでいく。特にモンスターと遭遇することはないのだが、少し気温が上がったような気がする。

 俺が得ている【火耐性(極)】のお蔭か、暑さには強くなっているのだが、俺が肌で感じるということはそれなりに暑いのではないか?


『ピィィィ♪』


 フェニも羽根を震わせ、気持ちよさそうな鳴き声を出している。

 しばらく進んでいくと……。


「なるほど、こういう場所に通じているわけか……」


 坑道を抜けると、そこは火山洞窟だった。

 ところどころでマグマが吹き出し、蒸気が漂っている。


 視界の先を見ると揺らぎが見え、そうとう高温なのだということがわかる。

 先程までの坑道とは違い、洞窟の中は広く探索するのに不自由しない程度に地面もあり、先の方まで地続きとなっている。


『ピッピッピ♪』


「あっ、フェニ!」


 フェニが俺の頭から飛び立ち、洞窟内を飛び回る。ここは高温なので、普通の人間にとっては常にサウナの中にいるような地獄なのだが、フェニにとっては快適な場所のようだ。


 フェニはマグマの滝まで行くと気持ちよさそうにマグマを浴び始めた。


「流石はフェニックスだな……。あの高温をものともしないなんて」


 俺は苦笑いを浮かべながらフェニのいる方へと向かっていると……。


「ん? これって、もしかして……?」


 足元に転がっている、赤く輝く石が目についた。


『Cランクアイテム【スカーレットダイヤの原石】を収集しました』


 坑道を通り火山洞窟に到着するまで数時間、これまで探していた苦労は何だったのかというくらいあっさりと目的のレアアイテムが手に入ってしまった。


「どうして拾いに来ないんだろうな?」


 こんなに簡単に手に入るのなら誰かが回収していてもおかしくない。そんな疑問が浮かんだが、おそらく拾いに来れないのだろう。

 火山洞窟内部はそうとうの高温なので立っているだけでも汗が流れ体力を消耗してしまう。


 俺みたいに【火耐性(極)】でもなければマグマを横にして平然としていられない。

 なおかつ、ここにはモンスターも湧くはず。暑さと危険と得られる報酬を天秤にかけるなら、冒険者も他の依頼に行くに違いない。


 そのことに気付いた俺がマグマ付近を探ると、回収できずに放置されている【スカーレットダイヤの原石】がごろごろ転がっている。


「これなら、一人で必要分集められるんじゃないか?」


 依頼詳細を読むと依頼元からは「可能な限り沢山の原石を」と言われているらしく、それだけデビュタントのドレスに懸けていることが窺える。


「よし、これ以上は入らないな」


 リュックに詰めるだけスカーレットダイヤの原石を詰め込んだ俺は、切り上げ時と判断するとフェニを探す。

 しばらく目を離していたフェニだが、どうやら一通り散歩を終えたのか翼をはばたかせて戻ってきた。


「もう満足したか?」


 戻ってきたフェニはクチバシに何やら咥えている。どうやら剣のようで、鞘から見える部分は豪華な装飾が施されている。


『ピィ!』


 フェニは返事をすると、鞘からクチバシを離し、その剣を俺の前に置いた。

 どうやらお土産にくれるつもりのようで、つぶらな瞳を俺に向け誇らしげな様子をみせる。


「ありがとうな」


『ピィ♪ ピィ♪ ピィ♪』


 アゴを撫でると気持ちよさそうに目を閉じすり寄ってくる。まだ生まれてからそれ程経っていないのに、随分と懐いてくれたものだと思う。


 俺はそんなフェニが愛らしくてしばらくの間撫で続けたのだが、いつまでもこうしていることはできない。

 ひとまず、王都に戻ろうと考え、フェニがくれた剣に手を伸ばすと……。



『Sランクアイテム【太陽剣】を収集しました』


 魔導具が震え、そのような文章が表示されるのだった。



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