第52話 ロック

「兄さん、お帰りなさい」


 ガルコニア鉱山から二日かけて戻るとセリアが出迎えてくれた。


「セリア、来てたのか?」


 この時間は学校のはずではないかと首を傾げ彼女を見る。

「今は試験休み期間ですから」


 表情に出ていたらしく、彼女は俺の疑問を解消してくれた。


「それが、今回の収集品ですか?」


 首を伸ばし荷台を覗き込むセリア。


「随分と大量ですね、流石兄さんです」


 手放しで褒めてくれるのはいいのだが、


「兄さん、何かあったんですか?」


 俺の微妙な様子を感じ取ったのかセリアは聞いてきた。


「実は、こいつを拾ってきたんだ」


「あら、可愛い」


 俺はロックを手のひらに乗せるとセリアの眼前に差し出した。


 ロックはスカーレットダイヤの原石を守るようにガタガタと震えている。


「ひとまず、鉱石を仕舞って馬車を返したら行くところがあるから、フェニとパープルを見ててくれるか?」


『ピィ!』


『…………♪』


「戻ってきたらまた出掛けるなんて、忙しいですね』


 ゆっくり休むこともできない俺に、セリアは同情の目を向けてくるのだった。



「なるほど、それでまた、新しいモンスターを拾ってきたわけですか……」


 係員さんは俺の説明を聞くと、カウンター上にいるロックを見た。


『…………(汗)』


 ロックは意外と俊敏な動きで走ると俺の手の陰に隠れてしまう。


「私も、テイマーギルドで働いているので結構な事例を知っていますけど、クラウスさんほど毎回新種のモンスターをテイムしてくる人、他にいませんよ?」


「そうなんですか?」


 俺は係員さんの言葉に首を傾げる。


「そもそも、テイマーになる方々は、運よく野生のモンスターを手懐けるか、産まれたばかりのモンスターと一緒に生活して仲良くなって従魔にしているのがほとんどです。野生のモンスターを手懐けられる人なんて本当に極僅かなんですけどね……」


 俺と彼女は新たにテイムしたロックを見る。


「これまでのテイマーギルドの歴史で、最も多くの従魔を従えたのは、ギルド創設者であるリント・デ・ボイル様で十七匹となっております」


「その方は確か……」


「ええ、ボイル伯爵家を興したお方でレッドドラゴンをテイムした方ですね」


 現在の王国でテイマーの地位を確立し従魔の有用性を示した偉大なる先人だ。


 周囲に猛反発されながらも今のテイマーギルドを作り上げたという話を聞いて以来、俺も尊敬をしている。


「彼もなぜかモンスターに好かれる方だったらしく、しょっちゅう外に出てはモンスターを拾ってくるので当時の職員は苦労したそうです」


 係員さんは口元に手をあて笑うと、当時の笑い話を語ってくれた。


「もしかして……」


 思い当たる節がある。俺は口元に手を当て考えた。


 女神ミューズは過去にも優秀な人物に力を分け与えたことがあると言っていた。リント氏も俺と同じ存在だったのではないだろか?


「クラウスさん?」


 係員さんが首を傾げ俺を見ている。


 俺は思考を切り替える。この件については後で調べよう。


「それで、ロックも従魔登録できますか?」


 先に元々の目的を果たすことにした。


「それは勿論大丈夫ですよ。当ギルドはモンスターと人間が仲良く暮らす世界を作るのがモットーです。どのようなモンスターでも受け入れます」


 それこそが、リント・デ・ボイルの願いであるとばかりに係員さんは言った。


 俺は早速書類を埋めていく。


 三度目ともなれば慣れたもので、テイムしたばかりということもあってか書けることも少なく、意外とあっさりと書き終えた。


「それでは規定通り、ロックちゃんが問題ないかこちらで調査をするため数日預からせてもらいますね」


 係員さんがそう言ってロックに手を伸ばすのだが、


『…………(汗)(泣)』


 ロックは俺の腕をよじ登ると首の裏に隠れてしまった。


 岩だけあって重たいのかバランスを崩して落下しそうになったので、慌てて手で受け止める。


「あの……どうしましたか?」


 ロックから不安そうな感情が伝わってくる。


「どうやら、置いて行かれるのが寂しいらしいです」


 ガタガタと震えているので怯えが直接首に伝わってくる。


「あらまぁ」


 テイマーギルドの人たちはモンスターにも理解があるのでおそれる必要はないのだが、今日初めて鉱山から出て人が暮らす街にきたロックには、新しい環境が不安で仕方ないのだろう。


「うーん、でも検査は受けていただかないといけないのですが……。どうしましょう?」


 係員さんも悩んだ様子を見せると俺に聞いてきた。


 職務なので、ロックの検査をしなければ正式に従魔と認めることはできない。


「あの……俺も一緒に泊まり込んでもいいですか?」


「それは構いませんけど、フェニちゃんやパープルちゃんは大丈夫なんですか?」


「今は妹と一緒にいるので大丈夫だと思います」


 セリアはほぼ毎日、学校が終わると屋敷まで通ってくれており、フェニやパープルも彼女に懐いている。


 今は試験休み期間だと聞いているので、誰かに屋敷まで伝言を頼めば大丈夫だろう。


 俺はセリアへの伝言と、いくつかの手続きを行うと、係員さんとともに従魔の飼育施設へと向かった。

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