第59話 子は親に似る

「こ、これが……お前の家だというのか? クラウス」


「あらまぁ、掃除が大変そうね?」


 家に案内すると、両親は揃って口を開けて屋敷を見上げている。


 俺もセリアも両親を驚かしたかったのでこのことについては黙っていたのだ。


「ちょっと必要になったからさ、家を買ったんだ」


 俺がそう告げると、


「それにしたって……、うちの街の領主の館にも負けない広い庭と立派な屋敷じゃないか」


 父親は実家の街にある領主の館を思い浮かべる。何度か見たことがあるが、確かに言われてみれば同じくらいの広さかもしれない。


「他に買い手がつかなかったせいで格安だったんだ。お蔭で庭は整備が必要だけどな」


 今すぐにでもガーデニングパーティーを開ける領主の館と比べると、こちらの屋敷はまだ手を入れなければならない部分が多い。


 何だかんだあったせいで、屋敷までの通路と屋敷の周りの雑草を片付けるくらいしか整備が進んでいない。


「確かにそうね、屋敷は綺麗なのに庭が荒れ果てているのが凄いわね。これは手入れのしがいがありそうよ」


 せっかく王都に来たというのに、身体を休めることより庭を気にする母親。


「いや、そんなことをしてもらうために来てもらったわけじゃないんだけど……」


 母親に掃除をしてもらうことを懐かしいと思うが、せっかく王都にきたのだからもっと寛いでほしい。


「いいじゃないですか、兄さん。お母さんのしたいようにしてもらいましょうよ」


「やっぱり私の娘は解ってるわね」


 擁護するセリアに母親は抱き着いた。


「私も、学校がない日は来て、色々家事とかしているんですよ」


 セリアは嬉しそうにそう言うと、母親と庭の手入れについて話を始めた。


「立ち話も何だし、中にはいろう」


 いつまでもこのまま外で話していても仕方ないと考えた俺は、三人の会話を中断させると、ドアを開ける。


「はぁ……、外観の古さから中は老朽化しているのかと思ったけど、手入れが行き届いてるわね。クラウスが掃除できるとは思わないからセリア? それとも、誰か雇っているのかしら?」


 もちろんセリアが調度品を揃えたり細かい部分を掃除してくれているのもあるのだが……。


「まあ……雇っているというか」


 セリアが目で合図を送ってくる。


「紹介するよ。三匹とも出ておいで」


『ピィ!』


『…………♪』


『…………(怯)』


「「なっ! モ、モンスター!?」」


 両親がフェニとパープルとロックを見て驚く。


「安心してくれ、全員俺の従魔だから」


「いや、安心しろって言われても……お前……」


 困惑する父親に、目を見開いて固まる母親。


「とってもいい子ばかりなんですよ。おいで」


 そんな二人をみてセリアが声を掛ける。


『ピィ!』


『…………♪』


 フェニとパープルがセリアに近付く。


 フェニが飛ぶと両親が怖がる可能性があったので言い含めおいたからか、床を蹴りながらだ。


『チチチチチチチチチチチ』


『…………♪♪♪』


「こうして撫でてあげると気持ちよさそうに鳴くんです」


 セリアが嬉しそうな顔を見せると、警戒していた両親もフェニたちに害がないとわかってくれた。


「しかし、お前がテイマーになっていたとはな。今日は驚いてばかりだぞ」


 セリアの足元を抜けて俺の足にしがみ付いてきたロックを父親が抱き上げる。


『…………(困惑)』


 ロックはいきなりの事態に驚いて固まっているのだが、父親が頭を撫でると、


『…………(喜)』


 一瞬で安心したのか身体を委ねた。


「あらあら、フェニちゃんとパープルちゃんって言うの? 可愛いわねぇ」


 母親もセリアと一緒に二匹と戯れている。


 モンスターを従魔にしているということで、多少なりともおそれを抱く可能性を考えていたのだが、どうやら杞憂に終わったようだ。


「二人とも、三匹のことが怖いとか思わなかったのか?」


「「どうして?」」


 父親と母親、フェニとパープルとロックまでが一斉に首を傾げて俺を見る。


「セリアは事前に知っていたから順応したけど、モンスターを怖がる人たちもいるんだしさ」


 王宮内には反テイマー派閥もあるし、モンスターをおそれる人も決して少なくはないのだ。


 うちの両親がどっちなのか想像できなかったのだが……。


「まったく怖くないぞ」


「まったく怖くないわね」


 二人は間髪入れず返事をする。その理由を聞くと……。


「「だって、三匹ともお前(あなた)の家族でしょう? なら、俺(私)たちが怖がる理由がない」」


「こういう方々だと最初から分かっていたでしょう?」


 セリアが近付きながら溜息を吐く。


「確かに……そうだな」


 セリアにしろうちの両親にしろ、俺が大切に思っているものを否定するような者ではなかった。


「本当に、うちの家族は最高だな」


 そんな家族に囲まれて育ったことを俺は誇りにおもうのだった。

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