第14話 オーク討伐

 王都に到着した翌日の朝、俺は武器と防具に身を固めると宿を出た。

 王都の宿は高く、ただ宿泊するだけでもハーブ数枚の稼ぎが飛んでいく。


 これは、王都と俺が住んでいた街の物価が違うからなのだが、あらかじめ用意していた旅費は一ヶ月分ということで、このまま何もしなければ十日後には活動ができなくなってしまう。


「さて、今日からは一人か……」


 ここまで同行したセリアも、パープルもこの場にはいない。

 セリアは学校に入学してしまったし、パープルはテイマーギルドに預けてきたからだ。

 何せ、今日から俺はCランクモンスターの討伐を行わなければならない。

 移動の最中は馬車に置いていけば問題なかったのだが、ソロとなると自力で素早く動けないマジックワームは足手まといになりかねない。


 それならばと、レポートの結果を確認するために預かるという申し出に甘え、今のうちに資格条件を満たしてしまおうと考えた。


「確か、北の門から出た先にある平原でトロルが稀にいるんだったかな?」


 昨晩、テイマーギルドの係員さんと話をしていて、俺が冒険者を続けるための経緯について語った。その時に国家冒険者の受験をしたことを告げると、情報をくれたのだ。


『王都北門から出て真っすぐ北上すると平原があってそこにゴブリンやコボルトやオークの他にトロルも生息しています』


 彼女はこうも続けた。


『その先にある森には、レアな植物が生えてるんですけど、その分出現するモンスターも強いので、あまり立ち入るのをお勧めはしません』


 とも。


 そんなわけで、俺は係員さんの言葉に従い、とりあえず北上してみることにしたのだ。



「とりあえず、今日のところは下見だな。まずはこの平原のモンスターとどれだけ戦えるかやってみないと……」


 父親に鍛えられたお蔭で、俺のステータスは若干伸びていた。



クラウス:人間

性 別:男

年 齢:16歳

称号:女神ミューズの祝福

筋 力:D

体 力:D

敏捷度:D

魔 力:E

精神力:D

幸 運:G

状 態:健康

スキル:『孵化』

付 与:【魔力増加(小)】

テイミング:『マジックワーム』


 『筋力』『体力』『敏捷度』がそれぞれDとなっているので、今の俺はDランク冒険者ということになる。

 基本的に、念じて浮かぶこの「ステータス」で出てくる基準はモンスターランクや冒険者ランクとも一致しているので、トロルのCランクというのは俺にとって格上の相手ということになる。


「それにしても、魔力が上がったのはこの『付与』とかいう『魔力増加小』のお蔭だよな?」


 パープルと従魔契約をした際、能力が付与されたらしいのだが、確かにその後、孵化を行ったところ、あまり疲労しなくなった。

 もしかすると、俺が『孵化』させたモンスターと従魔契約をすると、相手の力の一部がこちらに『付与』されるのではないかと考えるのだが、まだ検証段階なので確定はできない。


 無計画に孵化させたところで飼えないし、飼ったところでハーブの消費量が増えてしまう。そうなると目標金額を稼ぐことができなかったという事情があった。

 ひとまず、無事にセリアを入学させることができたし、こうして冒険者としての期限を一年もらったのだから、しばらくは様子を見つつで構わないだろう。


 ここは王都で、テイマーギルドもあるので、何かあったら係員さんに相談することもできる。


 俺は北門を出ると、モンスターとの戦闘をするため平原へと向かった。






「はっ!」


『ゴブウウウッ!』


「やあっ!」


『ガルゥ!』


 平原に出てから半日が経過した。


「はぁはぁはぁ……今日はこんなところかな?」


 地面にはゴブリンとコボルトの死体が横たわっている。


「しかし、半日探し回って結局この二匹だけとはな……」


 出発前に確認したところ、常設の討伐依頼の金額は街のそれと変わっていない。

 ゴブリンはハーブ1枚と同じ、コボルトはハーブ2枚分。つまり、合わせれば今日一日分の宿代は確保できたことになるのだが……。


「俺の感覚がマヒしているのか、モンスターよりハーブ集めの方が効率がいい」


 平原は広く、半日動き回ってもモンスターをほとんど発見することができなかったのだ。

 よくよく考えて見ると、王都までの二週間の馬車での移動期間中、モンスターと遭遇した回数は両手の指より少なかった。


 王都周辺は定期的に兵士が巡回しているので治安も良く、あまりモンスターがいないのではないかと考えられる。


「せめて、一人でオークを倒せるか確認くらいはしておきたい」


 滞在二日目ということもあるのだが、早い段階で自分の能力を把握しておきたい。

 その後、諦めることなく平原を探索していると……。


『ブヒフフフフフ』


 はち切れそうな筋肉に皮鎧と石の斧を持ったオークが一匹現れた。


「待ってました!」


 俺は右手を開閉し、ズボンで汗を拭うと剣を抜く。


『ブヒイイイッ!』


 俺が構え始めるよりも先に、オークがドスドスと足音を立ててこちらへと突進してきた。

 その動きは遅いのだが、重量が乗っているので正面から攻撃を受け止めるのは得策ではない。


『ブヒイイイイッ!』


 突っ込んでくるオークの動きを見切った俺は、横に身体を滑らせると、その勢いを利用して剣を横に走らせた。


『ブアッ!』


 皮鎧に阻まれ、浅く肌を斬りつけただけとなる。鎧が破損し、露出した肌からは血が滲み落ちている。


「流石は同格扱いだけある。これまでと手ごたえが違うな……」


 俺がオークと戦ったのは、王都までの移動中に二度ほど。

 どちらもサポートだったのだが、前衛を引き受けた戦士は重い一撃でオークの脳天をかち割っていた。


「落ち着け、俺。一人だからってやることが変わるわけじゃない」


 高鳴り始める心臓を御し、正眼に剣を構える。


『ブヒイイイッ!』


「見えるっ!」


 相手の動きに合わせて、より有利になるように立ち回る。

 俺はオークが右手で斧を振り下ろす瞬間、左に避け、右腕に傷をつけて斧を落とさせた。


「いける!」


 必ずしもすべての戦闘で使えるわけではないが、戦闘とは相手の戦力を削ぐことだ。

 利き手を傷つけ、武器を手放させ、足を傷つけ、逃亡を不可能にする。

 決して一撃で勝負を決めようとはせず、最終的に地に足が立っているのが自分であればよい。


 俺はこれまでの経験からそう結論付けると、じわじわとオークの行動力を削いでいった。


「はぁはぁはぁはぁ」


 目の前にはオークが横たわって倒れている。


 手足に傷をつけ、片目を奪い、最後には心臓を剣で貫いた。


「……やったな」


 初めて一人で戦った割りにはよくやれた方だ。

 オークの攻撃を一つも掠らせることなく、怪我すらしないで一方的に倒して見せた。


「これで、今日の収入は黒字だな」


 オーク討伐の収入はハーブ十枚――銅貨十枚分となる。今日だけで四日分の滞在費を稼げたので、この先王都で冒険者を続けていく大きな自信となった。


「とりあえず、経験を積みつつあわよくばトロルと対決かな?」


 俺は段取りを決めると、今日は宿でゆっくり休もうと、王都へと戻って行くのだった。


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