第28話 警備依頼

 パープルが進化した翌日、俺は北門を出ると平原へと向かった。


 今日の目的は進化したパープルの強さの確認と、フェニや俺と連携できるかどうかについてだ。


 平原にはゴブリン・コボルト・オーク、たまにトロルが沸く程度なので危険は少ない。


 ここ数日、建物内に籠っていたし、フェニやパープルの散歩も兼ねればよいかと考えていたのだが……。


『ピィッ!』


 フェニの放つ【フェニックスフェザー】がゴブリンの身体を貫く。


『…………##!』


 パープルが糸を吐きコボルトに巻き付けて上空に持ち上げてから地面へと落とす。


「俺の出番がない……」


 空を制するこの二匹に索敵で勝てるはずもなく、モンスターは発見されるなり倒されていく。


 流石はSランクとAランクだけはある。まだ成長途中だというのにDランクモンスターを寄せ付けもしない。


『ピッピッピ!』


『…………♪♪♪』


 飛んで行ってはモンスターを発見して狩りまくっている。このままでは平原周辺のモンスターは全滅してしまうのではないか?

 敵ながら、この二匹に目を付けられたゴブリンやコボルトに少し同情していると……。


『ピ?』


『…………』


 俺が見守っていると、二匹は何かに気付いたように動きを止める。そして俺の方を見ると、フェニとパープルはそれぞれ足と糸で掴んでゴブリンとコボルトを運んできた。


「もしかして……くれるのか?」


『ピィ!』


『…………♪』


 猫がネズミを捕えてきたかのような様子で、二匹はつぶらな瞳を俺に向けてくる。

 その目が「褒めて褒めて~」と訴えかけていた。


「ありがとう、フェニもパープルも偉いぞ」


 太陽剣を鞘から抜き、ぐったりとしているゴブリンとコボルトに止めを刺す。

 戦闘でのやり取りではなく、二匹が狩ってきた獲物の最後だけをもらったという点に若干の後ろめたさを覚えた。


 剣を鞘にしまうと、二匹が揃って頭を差し出してくる。

 俺は両手でフェニとパープルの頭を撫でてやると、


『チチチチチチチチチチチチ♪』


『…………♪♪♪』


 気持ちよさそうな鳴き声を出した。


 俺はフェニとパープルが満足するまで撫で続けながら、


「この二匹が成長したら勝てるやつっているのか?」


 遠い将来、自分よりもはるかに強くなるであろうことを考えるとワクワクするのだった。





「それじゃ、フェニもパープルも良い子にしているんだぞ」


 テイマーギルドで二匹を預かってもらう。この後向かう先に一緒に連れて行くことができないからだ。


『ピィ!』


『…………$』


 フェニもパープルも任せろとばかりに元気な様子をみせた。


「フェニちゃんもパープルちゃんもとても大人しいですからね、安心してお預かりすることができますよ」


 係員さんが笑顔でそう言った。


「数日の間よろしくお願いしますね」


 俺は彼女に頼むと、テイマーギルドを後にするのだった。






          ◇





 キラキラとしたシャンデリアの明かりが降り注ぎ、床にはレッドカーペットが敷かれている。


 大理石のテーブルの上には白磁の皿が重ねられ、豪華な料理が溢れんばかりに用意されている。

 ここは、城にある貴族のみ借りることが許されているパーティー会場で、中にはセリアと同い年くらいの男女が正装をしている。


 周囲の壁には警備員の証である首飾りを身に着けた人間が立ち、不測の事態が起きないように見張りをしていた。


「兄さん、ここにいたんですね」


 俺が周囲を観察していると、セリアが話し掛けてきた。

 彼女は淡い黄色のドレスを身に着け髪を後ろで纏めている。首にはスカーレットダイヤの首飾りを身に着けており、周囲の人間も心を奪われたように彼女を目で追いかけている。


「まあ、これが仕事だからな」


 俺は首に掛けている警備証を右手で弄りながらセリアに答えた。


「それにしても、パーティー会場の警備とはな……」


 今日、俺がここにいるのは警備員として雇われているからだ。

 もっとも、パーティーなので普段通り冒険者の格好をしていると雰囲気が損なわれるということで、貸し与えられたスーツに身を包んでいる。


「もしかして……嫌でしたか?」


 セリアが不安そうに俺の顔を覗き込んでくる。


「別に嫌じゃないさ、俺にはない発想だったから感心していただけだし」


 先日、俺はセリアに「推薦人が集まらない」と話をしたのだが、その返答としてパーティー会場の警備の仕事を紹介されたのだ。


「参加者の血縁なら素性も確かなので警備で入れますし、兄さんが上流階級の人と話す機会を設けられればと考えたんです」


 確かに、普通に冒険者をしていた場合、上流階級の人間と接触する機会はそうはない。

 せいぜい、護衛依頼を受けたり、レアアイテムを納品した時に少し話ができるかどうか程度なので、そこから推薦人になってもらう言質をとるには時間が掛かる。


 このパーティー会場にいるほとんどの人間が、上流階級の子息女なので、ここで上手く話を繋げることができれば、一気に推薦人を集めることができるかもしれない。


 セリアの提案はとても理にかなっていた。


「セリアのお蔭で助かってるよ」


 一瞬右手が動き、いつものように彼女の頭を撫でてしまいそうになるが、今はセリアも着飾っているし俺は警備中なので踏みとどまる。


「私も、兄さんが見ていてくれたら安心してパーティーに参加できるので」


 セリアは昔から人見知りしていたので、こういう大勢の人間が集うような場所は苦手なのだろう。

 ホッとした表情を浮かべていることから、俺を兄と慕ってくれているのがわかる。


「ちゃんと見てるから、安心して交流してくるといい」


 俺がセリアを見守るような目で見ると、


「はい、では、行ってまいります」


 彼女は安心した様子で賑わう会場内へと向かっていった。



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