第48話 物件を購入する
「それで、クラウスさんはどのような物件をお求めなのですか?」
サギンさんは眼鏡を輝かせると俺に希望する物件について聞いてきた。
「とりあえず、この二匹が成長してからも住める広さは欲しいですかね」
俺は同行しているフェニとパープルを指差す。
『ピッ!』
『…………!』
フェニが翼を広げ、パープルが羽根をパタパタさせながら返事をする。
フェニが翼を動かしたことで、火の粉が散り、風が起こった。
「なるほど、希少モンスターのフェニックスとレインボーバタフライと住む。レインボーバタフライの方は成長しても人間より大きくはなりませんが、フェニックスの場合はまだまだ大きくなります。そうなると、大きなドア、もしくは二階以上の建物でテラスから出入りできる家がよいかと思います」
サギンさんは俺が出した条件を満たす内容をつらつらと口にする。
確かに、この二匹は空を飛べるのでテラスから部屋に入るのは問題ない。
「あとは、大きな壁に囲まれている物件が良いかと思いますな」
フェニやパープルの希少性の問題もある。フェニやパープルを視認できる物件だと魔が差してちょっかいを掛ける者もいるかもしれない。
「その条件も追加でお願いします」
サギンさんに頼むと、彼は条件にあう物件をピックアップし始めた。
「テイマーギルドで確保している、従魔と住める物件はいくつかあります。冒険者ギルドに近く比較的安く購入できる物件もあるのですが、そちらは家が小さいため、クラウス様の希望を考えると提案できませんね」
その物件は小型の従魔を連れているテイマーが住むための家とのこと。
「そうすると、どの辺になりそうですかね?」
国家冒険者になってからは緊急招集もあるそうなので、出来るだけギルドに近い方が良いのだが……。
「大型物件となると、やはりこのテイマーギルドがある区画が良いでしょう。ここは国がテイマーのために空けている区画ですし、周囲に住む者も同じテイマー、もしくは関連施設で働いている者が多いので、トラブルもあまりありません」
近隣の住人が従魔に理解があるので、他の区域に住むよりもよいのだという。
この国のテイマーギルドはまだ百年の歴史しかない。
レッドドラゴンをテイムした人物が、国に多大なる貢献をし貴族に成り上がり、その時に従魔の有用性を説き、王都内に区画を整理したのが始まりだ。
なので、このテイマーギルドがある区画は、王都の壁の内側に農場・牧場があり、区画を囲む壁も分厚く高く、従魔も他の区画の人間も安心して暮らせるように作られているのだとか。
俺はサギンさんのその説明を聞き、冒険者ギルドからは遠くなるが、住むならここが良いと判断する。
「じゃあ、この区画内でお願いします」
「わかりました、それではいくつか条件にあう物件を御紹介させていただきます」
そう言って、彼はファイルの中から何枚かの紙を引っ張り出すと俺の方に向けてテーブルの上に置いた。
「今のところ、条件に合うのはこの三件ですね」
紙には物件情報がびっしりと書かれている。土地の広さや屋敷の間取り、どういった従魔向けの設備を備えているのかどうか。
どれも内容を読む限り素晴らしい物件で問題なさそうな気がする。横を見ると俺の真似をしたフェニとパープルが用紙を覗きこんでいた。
屋敷を隔てる壁も高く分厚いので、フェニやパープルを庭で遊ばせることもできそうだ。
考えていたよりも快適な生活ができそうな物件を、俺はアゴに手を当ててじっと見ているのだが……。
「この値段は流石に……」
これまでの人生で一度も目にしたことがない金額が書かれている。
それこそ、ハーブ収集などでは一生かかっても買えないくらいの金額だ。
「これらの物件は、とある貴族が建てたものですからな。このテイマー区画でも中心部近くにありますので、どうしても高額になってしまいます」
基本、王都の外周部が一番建物の値段が安く、城に近付く中心部に近い程高くなる。
それに伴い、住んでいる者も一般市民から商人、騎士や貴族などの上級国民となっていく。
テイマー区画とはいえそれは変わらないようで、魅力的な屋敷ではあるのだが逆立ちしてもそんな金額を用意することはできない。
「あっ、そういえば例の黒い粉、オークションで落札されましたよ」
係員さんが思い出したかのようにそう告げる。
「ああ、あれですか」
エルダーリッチを討伐した際に得た『レインボーバタフライの鱗粉』に『エルダーリッチの魔力』を吸わせた粉のことだ。
滅多に出回らないレア触媒ということで、販売をテイマーギルドに委託したのだが、このたび無事に売ることができたのだという。
「ちなみに、クラウスさんに入る金額はこちらです」
彼女からメモを受け取り眉をひそめる。販売で得られた金額もまともに働いて一生で稼ぐより多いのだが、屋敷を買うには桁が一つ足りない。
「これじゃあまだ厳しいですね」
条件的には欲しいのだが、手が届かないのであれば仕方ない。俺が諦めの言葉を吐くと、
「クラウスさんは国家冒険者であらせられますので、分割払いが可能では?」
サギンさんが首を傾げ聞いてきた。
「分割払い?」
「分割払いとは信用できる身分の方に貸し付けを行い、そのお金で欲しい物を買っていただく制度です。武器や防具などどうしても先に必要な場合、この制度を利用される国家冒険者の方もおりますな」
サギンさんは饒舌となり俺に分割払い説明をする。
「こちらの屋敷は確かに高いのですが、従魔が快適に生活を送るためには妥協できない部分かと。他にも狭い物件ならなくはないのですが、フェニックスやレインボーバタフライが成長した際に買い替えなければなりませんし、その手数料を考えると今のうちに買っておいた方がお得ですな」
「確かにその通りですけど、分割にしても支払えるかどうかがわからないと……」
話に聞く限り、毎月決まった金額を納めなければならないいのだが、その金額自体が高額なので何かあったときに困る。
「クラウスさんは現在、テイマーギルドにレアアイテムを卸しておりますよね? こちらの金額の三割を返済に充ててもらえれば十年程で完済することができますし、この先国家冒険者としての稼ぎを返済に充てれば決して不可能な金額ではございませんよ?」
確かに、俺は『フェニックスの羽根』やら『レインボーバタフライの鱗粉』を納めているので、他の人間よりも定期的な収入を確保できている。
「ちなみに、今は伯爵家になり上がっておりますが、テイマーギルドの創設者は、各方面に『レッドドラゴンの鱗』を売って収入を得て、貴族との間にコネを作り、今の体制を整えたそうです」
サギンさんのペースに巻き込まれつつある。流石はテイマーギルド屈指の不動産業者、こちらの欲しい物を察し実現可能な方法を提案してくる。その手腕は見事の一言に尽きた。
「……一度物件を見せてもらえますか?」
この場で断る理由が弱く、俺はそう答える。
その後俺は、半日かけて物件を見て回ることになり、その内の一件をフェニとパープルが気に入ってしまったので、契約を結ぶことになるのだった。
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