第6話 ヒトの優しさ

 検査を終え部屋に戻って来た僕は、ベットに腰を掛け一息ついた。

 部屋に戻ってくるまでの道中どうちゅう館内を少し見たが、僕以外の患者がいる気配は無かった。

 さっきまでいた検査室と僕のいる部屋までは、曲がり角はあるものの同じ階だったため、この建物が何階建てなのか?どこの病院なのかも分からなかった。


 「お待たせー!」


 部屋の扉が勢いよく開き、アストレアさんが戻って来た。


 「じゃ、行こうか」


 「……どこに?」


 僕は今、病院の前にいます。

 (どうしてこうなった?)

 アストレアが部屋に戻ってくるなり「じゃ、行こうか」と言い、どうしてそうなったのか?と事情を聴く前に、流れるように私服に着替え病院の外に出たところだ。1人で部屋を出たところ看護師と鉢合わせしたが、「お大事に」と言われただけだった。

 (……退院ってことで良いんだよね?)


 「とりあえず行くか」


 病院の前で立ち尽くして居ても仕方ないので、アストレアが待っている駐車場まで歩くことにした。

 駐車場まで行くと一昔前ひとむかしまえの車が、一台止まっていた。近くで準備をしていたアストレアが、近づいてくる僕に気づき手を振っている。


 「待ってたよ~。さぁ、乗って乗って」


 アストレアが自分の車に乗るよう促す。そんな彼女を前にして、僕は少し考えてしまう。

 ルナ=アストレア。彼女は、偶々たまたま僕を見かけて助けてくれた命の恩人だ。そうただの恩人なんだ。

 恩人だからって普通ここまで、他人のことを思ってくれるものだろうか?

 1日にも満たない時間だが、彼女が優しい人なのが分かる。けどだからってその優しさに甘えていいのだろうか?

 いつの間にか僕の視線は、アストレアから地面のアスファルトに向いていた。アスファルトに残った水たまりが、うついている僕を鈍く映す。

 

 「ありがとう」


 そんな言葉が落ちた。

 僕の言葉に彼女が反応したのが、分かる。


 「ここまでで大丈夫だよ。これ以上君に迷惑をかけるわけにもいかない。あてはないけど、とりあえず残った記憶で何とかしてみるよ」


 勢いに乗った筆のように僕の口から言葉が流れる。

 言ったことは、嘘ではないけど本心ではある。彼女は、優しい人だ。でもその優しさに甘える続けるわけにはいかない。

 地面に向けた視線を彼女に向けること無く僕は、その場で振り返り背を向け歩きだした。

 !

 歩き始めた足は、一歩目で止まった。

 右腕から体温が伝わってくる。冷たい体温が、

 自分の右腕に視線を送ると、誰かが掴んでいた。その手は力強く振り解くことも出来ないほどに。僕の腕よりも細く白い手が。


 「……自分のことを迷惑だなんて思わないで。私は、」


 振り向くとアストレアがいる。彼女の綺麗な目に僕が映ってる。そして僕の目に映っている彼女は、とても     だ。

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