第39話 三度目
「久しぶりだね継実ちゃん」
フードを下ろし顔を見せたその男は、優しそうな笑顔を浮かべ、リボルバーの無い空いている手を僕の後ろに立つ成瀬さんへ振る。
「成瀬さん、彼は?」
目の前に立つ男を知っているのか?背後で肩を震わせている成瀬さんに、僕は視線を向ける。
成瀬さんは、片根への恐怖心のようなものを浮かべながらもゆっくりと口にした。
「彼は
そう答える成瀬さんの目元には小さな雫が浮かんでいた。
「嫌だな〜そんな昔のこと引きずってるなんて、それにあの時の事なら謝ったでしょ」
聞こえていた彼女の言葉を訂正するかのように、片根はその時の言葉を並べる。
片根の言葉に恐怖心が増したのか?僕を掴む成瀬さんの力がより強くなる。
「ふぅ〜、そもそも君が二年前の告白に応じていれば、こんな事にならなかったのに」
一息零しつつ片根は、呆れたような口調で語る。
「二年前?」
「あー、知らないよね君は。そうだね、特別に教えてあげるよ」
僕の知らない二人の時間。不憫に感じたか?気まぐれか?お構い無しに片根は、その二年前の出来事について語り出す。
「小学生の頃だ。ふと気づけば、オレは彼女に恋していた。それまで何にも無かった。ただのクラスメイトの彼女に」
詩的に語りながら壇上を歩き出す片根。
「当時のオレは少々ヤンチャ者でね。恋心が芽生えてからは、気を引きたいが為に彼女へ意地悪するようになった」
「だからあの台詞を吐いたのか?」
気分よく壇上を歩き回る片根を僕は、その視線と銃口で捉え続ける。
「それは知ってるんだ。……まぁ、いいや」
俯き何か口にする片根。しかし発せられたそに言葉が僕の耳に流れては来ない。
「オレだってずっと意地悪して訳じゃない。成長に合わせて接し方だって気をつけた。……なのに!」
壇上を歩き回っていた片根の足が止まる。
「アイツがオレと彼女を遠ざけた!そのせいで、掴んだ告白のタイミングでも望む結果が得られなかった。アイツが、あの女が、」
ステージ全体に響き渡るほどの叫び声を上げる片根。まるで苦しみのあまりで血反吐を吐くようなその有様。
「”天野燈“あの女がオレの未来を崩した!」
立ち止まりグルっと
「……けど、もうあの頃とは違う。今のオレにはあの人から貰ったコイツらがある」
力強く発せられる片根の言葉で、傍に立つエンプティーがその手の斧を構え、戦闘体勢に入る
天野燈に、片根の言うあの人?
視線の先に立つ片根に、斧を構えるエンプティー、それらに集中しつつ僕は、頭の中に入り込んでくる情報に意識を割く。
「そろそろお終いにしようか、まだ話していたいけどあまりお喋りしてると……ね♪」
……ダメだ!情報が足らなさすぎる。
”もう少し時間を稼ぎたい“こっちの気持ちとは裏腹に片根は話を切り上げ、目的を果たすためリボルバーに引き金を引く。
バアン‼︎
激鉄の音を合図に、エンプティがその斧を僕らへ振り下ろす。
っ、考えてる暇も無い。
向かってくる弾丸、降りてくる強大な刃。それらに対し、僕は借り物の力”ビジョン“によって強化された動体視力を活かした。
向かってくる弾丸にはさっきと同じように拳銃の弾丸をぶつけ、背後に立つ成瀬さんを脇に抱え
直後、強大な斧の刃が空を切り壇上の床を抉ったであろう音が、背後で轟くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます