第38話 器と中身
「命を得て何をする?」
フードのそいつが口にした目的“文字通り命を奪う”ということ。
成瀬さんのと言う人では無く、命を狙う意味。
なぜ彼女の命なのか?僕も、恐らく成瀬さんも分からない。仮にただ命が欲しいのであれば彼女である必要とは……
フードのそいつの一言に頭の中であらゆる可能性を考える。
「何をするって、そんなの決まってる。オレだけの継実ちゃんを作るためだ!」
オレだけの……?
気分が良いのか?意気揚々と目的を告白するフードのそいつ。
「成瀬さんを作る?言ってる意味が分からないな」
垣間見え出すフードのそいつの危険さに僕は無意識のうちに拳銃を握る力を強める。
「君は自分だけの誰かを欲しくなったことは無いか?」
「……どう言う意味だ?」
「自分だけを見てくれる親、自分だけと遊んでくれる友人、自分だけに優しくしてくる異性。そんな存在に」
「……考えたこと無いな」
フードのそいつの質問に僕は淡々と率直な答えを口にする。
記憶を無くす前の僕ならいざ知らず、今の僕はそんなの考えたことが無い。
「そうかい。君はオレと違って人間関係が充実してるみたいだね。……羨ましいよ」
返ってきた答えが予想外だったのか?フードのそいつの語りの最後は小さくて、よく聞き取れなかった。
「だからオレは欲しいんだ。自分に優しくて自分だけを見てくる存在が!」
「その為の彼女の命か?」
「ああ、命さえ手に入ればオレの求める“自分だけの存在”が完成する。」
腹の内で沸々と煮えているであろう欲望を解放していくフードのそいつ。
「ふふ、さっきからこんなに喋ってるのに気づいてくれないなんて酷いねぇ、継実ちゃんは」
感情に身を任せた口調で欲望を口にしたかと思えば、今度はまた調子の良いような喋り方で成瀬さんに言葉を投げる。
後ろに立つ成瀬さんに視線を向けると、彼女は何のことか分からない。と言うような身に覚えが無い表情を見せていた。
「仮にも声優なら声だけで誰だか分かって欲しいものだね。オレだよオレ」
そう言いながらそいつは、自身が被っているフードの裾を両手で掴み後方へと下ろした。
「そんな……」
フードのそいつが顔があらわになる。目元に残ったクマ、雑に整えたような寝癖髪、パッと見の印象から十代くらいの若者のであることが僕には印象付いた。しかしあらわになったその顔に見覚えがあるのか?驚きで口元を手で覆い隠す成瀬さん。
「あなたは……
フードの名前であろう単語を口にする彼女が、僕の後ろでその身体を震わせていた。
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