第37話 手詰まりの時間稼ぎ
「おや?よく見たら君、汗凄いよ。もう疲れちゃったのかい?さっさと彼女を渡せば、楽になれるよ」
形勢逆転で調子づいたのか?フードのそいつは陽気な声で、こちらをおちょくってくる。
「……ァ、……ァ、なに勝った気でいんだ。渡す訳ねぇだろ」
流れ出る汗に嫌悪感を抱き、全身を駆け巡る痛みに耐えつつ僕は、目の前にいるフードのそいつを威圧する。
「……灯さん」
肩で呼吸する僕を心配してか?この絶望的状況に恐怖を抱いてか?或いはその両方か?成瀬さんのか細い声が、背後から耳に流れ込む。
「大丈夫です。離れないで下さい」
荒く落ちる息を整えて視線をそっと成瀬さんのほうへ送る。
「無視……するなって、言ってんだろ!」
バアン‼︎
目を外した一瞬、僕のその行為が気に食わなかったフードのそいつが、またリボルバーのトリガーを押す。
一方、そいつの荒げる声で気づいた僕は、リボルバーの発砲音すぐに拳銃トリガーを引いた。
放たれた弾丸は衝突し、どこかへ弾かれていった。
大丈夫、まだ対応できる。
目の前で起きる現象。いやその現象を起こせることに僕は胸の内でホッとする。
相手がどうあれ、現状がどうあれ、今のところその全てに対応出来ているのは、華さんから借りた“ビジョン”と呼ばれるこの能力のお陰だ。と言っても二対一。
観客の避難にあたり現場を後にした特犯の方々。
先に逃したキャスト陣のことを頼んだ関係者エリアにいるルナ。
助けが来るにしても暫し先の話。さてこの状況をどう打開するか。
「なぁ、教えてくれよ。あんたの目的は、何で彼女を狙う」
時間稼ぎ
それがこの状況打開するために僕が出した答えだ。
フードのそいつが誰なのか?どうして成瀬さんを狙うのか?そんなことは僕が知り得る範疇じゃない。
何を聞き出そうが結果的には特犯の人たちがそいつに取り調べを行う。けど僕にはこうするしか無い。
疲弊していく体力、打開策すら浮かばない未熟な知恵、イレギュラーな人形の存在。
他にも訳は色々あれど僕は銃口をフードのそいつに、意識の一部を人形に向け、この時間稼ぎに乗って来てくれることに賭けた。
「……いいよ、答えてあげる。君と言うイレギュラーのせいで、さっきは少し焦ってちゃったからね」
形勢逆転によって余裕が出来たからか?こちらにリボルバーに銃口を向けたままフードのそいつは、僕の質問に答えると言った。
理解しているか?そうで無いのか?どちらにせよそいつが誘いに乗って来てくれたことに僕は、内心ホッとしている。
「目的から話そうか。オレの目的は……継実ちゃんの命を貰うことだ。文字通りにね」
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