第36話 空の機兵ーエンプティー

 「させるか!」


 フードのそいつが投げたある物。奴の言う通りなら手榴弾か何か?

 何であれ、成瀬さんたちに近づける訳にはいかない。

 僕は投げれたその物に拳銃の照準を合わせ、一発の弾丸を放った。

 放たれた弾丸はそれ目掛け一直線に進行する。


 ガキン‼︎


 着弾したのを知らせる鈍い音が鳴る。


 「良し!」


 音の知らせから弾丸がそれを対処出来たのだ。と感じる。しかし次に僕の目に映ったのは、体験したことの無い有り得ない現象だった。

 弾丸を受けたそれは本来の軌道から外れた壇上のある場所に転がった。

 驚きはこの後だ。

 壇上に転がったチェスの駒ほどのサイズのそれは大きく形を変え、人型のモノになった。


 「何だあれ?……人形いや、機械か?」


 全長約二メートル前後、光を反射する金属製の真っ黒な身体、片手に持つ人くらいの大きな斧。駒のようなモノは、騎士と呼ぶに相応しい姿へと変わった。


 ガガガ‼︎


 軋むような嫌な音と鳴らしながら人形は首を動かし、成瀬さんたちの方を向く。

 まずい⁉︎

 人形の動きに対し、僕の頭の中でその単語が浮かぶ。直後、人形は成瀬さんたち方へ走り出した。

 速い!

 走り出した人形はあっという間に成瀬さんたちの下へ辿り着き、今にも両手に持った斧を振り下ろそうとしている。


 「継実ちゃん⁉︎」


 「成瀬さん!」


 チッ!こんなに早くは使いたくなかったのに、

 フードのそいつに苛立ちの表情を見せながらも僕は先ほどと同じように踵を二回鳴らし、成瀬さんの下へ飛んだ。


 ザン‼︎


 振り下ろされた斧は空を切り、壇上の床を大きく削る。

 発生した爆風と共に削られた破片が辺りに舞う。

 

 「大丈夫ですか。成瀬さん!」


 先に他のキャストを避難させていた成瀬さん。丁度最後の一人を見送っている時、人形の攻撃が迫っていた。

 そんな中、間一髪で僕は彼女を抱き上げ、壇上の後方へと回避することが出来た。

 攻撃を回避することに集中していた為、僕は成瀬さんの上に覆いかぶさる形になった。

 埃が舞う中、僕と彼女の眼が至近距離で合う。


 「はい、大丈夫です。ッ、灯さん!」


 問い掛けに答える成瀬さん。そんな彼女が視線を左に動かすと何かに気づいたのか?僕の名前を叫ぶ。

 成瀬さんの叫ぶ声に僕も同じよう左に視線を預ける。

 左を向くと何かがこちらに迫って来ていた。

 ……マジかよ!

 迫って来たのは、リボルバーの弾丸だった。恐らく最後の一発だろう。


 「成瀬さん、耳塞いで!」

 

 そう叫ぶ僕の声に成瀬さんは、自身の耳を塞ぐ動作に入る。

 重ねる形に成りながらも僕は空いている手で彼女の耳を塞ぎ、もう一方に持つ拳銃を迫り来る弾丸へ向けてトリガー放った。

 こちらから放たれた弾丸がリボルバーの弾丸と接触し、何処かへ弾かれる。

 間一髪だが、成瀬さんのお陰で対処できた。けど休んでいる暇は無い。僕は背後に残っている気配に対して叫ぶ。


 「彼女は僕が守るので、先に行って下さい!」


 人形の攻撃の瞬間、成瀬さんが守った女性だ。

 僕に叫ぶ声に戸惑いながらも「でも」と言う彼女に僕は「速く!」ともう一度、声を上げる。

 僕のその声には、焦りや怒りなどの始めとする様々な感情が混じっていた。その後も女性の戸惑いの気配はあったが、消えていく足音と共にその気配は徐々に無くなっていった。

 このかん、人形が次の攻撃に移ることは無かった。狙いはあくまでも成瀬さんか。

 僕はゆっくりと成瀬さんを立ち上がらせ、離れず背後にいるよう言った。


 「今といい、さっきといい、どんな手品を使ったか知らないけど、これで終わりだ」


 立ち上がり僕は視線をフードのそいつがいた方に直すと、そいつは空薬莢を捨てリボルバーのリロードを行いながらジリジリとこちらに迫って来ていた。

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