第四節 スリーポイント

第35話 探り合い

 「…あ、ヅぃ!」


 掴み取った弾丸が帯びていた予想以上の熱に驚きつつも僕は、それを人目の付かない場所へと放り捨てる。

 痛い。まだ弾丸の熱が手にある。軽く熱を冷ますようその手を二、三回振る


 「遅くなりました。けど、もう大丈夫です」


 目の前にいるフードのそいつに視線と銃口を預けたまま僕は、背後に立つ成瀬さんに安心させる言葉を投げた。


 「まだ蟲が一匹。…君、なんなの?」


 フードのそいつはターゲットの前に立ちはだかった僕に向けて呟く。

 僕は聞こえてくるその声に答えることはせず、ただそいつに送る視線一つで威圧する。


 「ここは僕が引き受けますので、皆さんは袖口を通ってここから避難して下さい」


 「でも君⁉︎」


 現状に戸惑いを見せる誰かが僕に疑問を投げようとしている。無理もない。けど今は説明している時間がない。


 「裏には僕の仲間がいます。後はその人に従って下さい。成瀬さん、すいませんが皆さんをお願いします」


 「……分かりました。皆さんわたしに着いて来て下さい!」


 お願いを聞いてくれた成瀬さんが他のキャストに声を掛け、舞台袖へと駆け出す。

 護衛対象である彼女と離れてしまうが、これでいい。

 僕とフード、互いに銃を所持しているここじゃあ流れ弾の危険がある。それにあの数を守りながらの会敵は情け無いことだが、僕には無理だ。

 幸い、舞台袖から続く先は関係者エリアだ。そこにはルナが待機してくれているし、一方的だが飛び出す前に連絡を入れてある。

 成瀬さんたちに関しては、ルナが対応してくれるから大丈夫だろう。問題はこっちか……

 視線と銃口を維持したままの一瞬、フードのそいつはリボルバーの射線をこの場を去る成瀬さんの方へ向けた。


 「オレを……オレを無視するなー!」

 

 バアン‼︎


 成瀬さんへ向け、フードが持つリボルバーが火を噴く。しかし僕はこの弾丸を読んでいた。


 バキューン‼︎


 放たれた弾丸が通る道筋に銃を動かし、やがて来る弾丸を狙い定め一発目の引き金を弾く。

 互いの弾丸が衝突し、それらは本来の道筋から外れる。


 「ふ、ざけんなよ……んなの、ありかよ」


 常識じゃ滅多にあり得ない現象にフードのそいつの顔が歪む。


 「ふざけんな?それはこっちのセリフだ!」


 フードのそいつが口にした言葉に僕は、怒りを募らせつつも冷静に返す。


 「ご丁寧に予告までして、なぜ彼女を狙う?」


 次々に引き起こされる想定外の事態にフードのそいつから余裕のようなものが無くなっていく。


 「狙う理由?君には関係無いことだよ。逆に聞きたいね、君こそ継実ちゃんのなんなの?」


 目的を答える筈もなく、逆に質問を返してくるフードのそいつ。

 継実ちゃん……か

 成瀬さんのことを名前で呼ぶってことはもしかすると……、引き出してみるか。


 「なんなの……か?そうだね。強いて言うなら“知り合い以上”ではあるかな」


 僕は挑発するように少し意地悪な笑みを浮かべ、フードのそいつからの質問に答えた。


 「君ねぇ、嘘は良くないよ。嘘は」


 そう言い、沸々と肩を揺らすフードのそいつ。

 嘘。……嘘か。

 護衛とその対象。嘘と言えばそうだし、違うとも言える。けどその反応でだいたい見えた。

 フードのそいつは成瀬さんに対して、周りのファン以上強い想いを持っているようだ。その気持ちは今回の動機にも強く出ている。

 ただ……問題はその動機だ。

 フードのそいつは何故、今回この行動に出たのか?考える中、再びフードの視線が成瀬さんたちの方へ向いた。


 「ふふ、逃すわけないだろ」


 「リボルバーは無駄だ。残りの弾丸も全て弾く、それにリロードもさせない!」


 さっきの発砲でリボルバーの残り弾数は恐らく一発。撃たせずタイミングを見て拘束すればこっちの勝ち。しかしそう思っていた僕が、今度は予想外の状況に陥る事になる。


 「オレの武器がなにもリボルバーだけなわけないだろ。……いでよ!エンプティー」

 

 そう叫ぶとフードのそいつは、ポケットから取り出した何かを成瀬さんたちが逃げる方へ投げた。

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