第30話 総員!配置に着け

 成瀬さんとの話を終えた僕は、イヤホン通信で再び松原さんに呼び出されていた。

 「海道 灯、戻りました」

 関係者エリアにあるゲストと書かれた扉を3回ノックし、部屋の中へ入って行く。


 関係者エリアの廊下の明るさとは違いゲスト用の部屋は薄暗く、部屋の中央に設置された長机からは青い光と共に電子モニターが展開されている。その机の周りを数名の人が囲っていた。

 「こっちだ」

 机を囲んでいた人の一人。部屋に入って来た僕に気づいた松原さんが”こっち”っと中央の机に来るよう手招きしている。その指示に従うように松原さんの元まで足早に近づく。

 松原さんたちと同じように僕も机を囲む一人になる。左側には松原さん・右隣にはアストレアが、対面には颯さんが立っている。

 「成瀬ちゃん、大丈夫だった?」

 「うん。もう大丈夫」

 隣に立つアストレアが僕に聞いてくる。

 成瀬さんが、彼女の心が大丈夫なことに自信を持って返す。僕の返事にアストレアは、「そっか…」っと安心したような表情を見せる。

 アストレアが見せるその表情に疑問を持ちつつも僕は、左側から来る視線が気になっていた。

 「…松原さん、どうしました?僕に何か付いてます?」

 アストレアから松原さんのほうへ視線を向ける。聞くも松原さんは、じっと僕のことを見つめている。

 疑うような探るような目が僕に突き刺さる。

 「いや、なんでもない。そんじゃ、始めるぞ」

 僕を見ていた松原さんの目が部屋全体に向けられる。視線が離れたとはいえ向けられていた目に疑問は残るけど僕はその疑問をすぐ払った。今は作戦に集中だ。

 「現在時刻1時10分を過ぎたところ。予告犯はここまで動きを見せていない。ここからは予定通り作戦Dでいく」

 松原さんの口から作戦内容が全体に伝えられる。

 ここまで動きを見せていない予告犯。それにより用意していた作戦はイベント前の襲撃を予想したCまでが現段階で破綻している。

 ここからはイベント最中を想定した作戦が展開される。

 特犯の皆さんの考えではイベント最中、予告犯が現れるであろう箇所は観客席と予測した。そのため予告犯の対処はメインステージで行われる。

 「配置については変更なく。左右にある一階非常口に俺と慎平が、アストレアは裏の関係者エリアを、そして海道くん君は…彼女をすぐ助けられるよう舞台袖で待機だ」

 「はい!」「了解」「了解」

 僕・颯さん・アストレアが力強く答える。

 「他メンバーは各階で警戒・対応に当たってくれ!」

 「了解!」

 各々の任務に沿った格好をした特犯のメンバーが答える。

 「作戦開始時刻1時35分。観客に気づかれるぬよう各々メインステージの暗転と同時に各員配置に着け、依頼人及び観客の安全第一だ。全員気合入れていけ!」

 松原さんの鼓舞に特犯の士気が上がる。気のせいか?部屋の温度も僅かばかり上がっていった。

 

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