第34話 三度の予告と三回の制限
再びステージ内で響き渡るリボルバーの轟音。二発目の発砲音に観客達の混乱の手足が止まる。
視線の先で立つフードのそいつは、右手に構えているリボルバーを天井に向けている。
「
男?
フードのそいつが初めて口を開いた。耳にしたその言葉の音は低く、面倒くさがり屋のような脱力的なものが感じられた。
「いるんでしょ政府の犬?時間あげるからその五月蝿い蟲、追っ払ってよ」
そう言って、フードのそいつはリボルバーを持つ手をくるくると回す。
政府の犬?・・・特犯のことか。
銃声と共にフードのそいつが放った言葉を了承したからか?数秒後、入ってきた通信は颯さんからの「ステージ内で警戒に当たっている隊員に通達する。非常口から外に向けて、観客の避難行動に当たれ」と指示するものだった。
イヤホンから流れ出る颯さんのその声から僕は、苦しさのような感情が感じた。
特犯の誘導の下、ステージ内からぞろぞろと避難していく観客達。不安な表情を浮かべたままこの場を去る観客達の姿を僕は、何もせずただじっと舞台袖から見守るしか無かった。
「じゃあ次は、継実ちゃん以外の皆さんに下がって貰いましょうか」
観客の避難が終わる頃、壇上に上がっていたフードのそいつはリボルバーで成瀬さん以外のキャスト陣を差し、この場から下がるよう指示する。
フードのそいつの狙いは、あくまで成瀬さんと言うことか。
突然現れたフードのそいつから観客同様に、この場を下がるよう命令されるキャスト陣。観察する限り彼らは、目の前で行われている観客達の避難や想定外の事態にどうすれば良いのか分からず、頭が混乱しているようだ。
それもそうだ。予定外の出来事に対して動ける奴なんてそういない。彼らの様な普通の人たちなら尚更・・・。
フードのそいつが現れてから未だ動く事をしない僕はキャスト陣の様子を見守る中、予告犯の命令に対して反応を見せる者がいた。
「ちょっとアンタ!なんなの急に現れて、どう言うつもりか知らないけど、
フードのそいつの言葉に反応したのは、先ほど僕が成瀬さんと話をしてた時に彼女を呼びに来た二人組の女性の内の一人だった。
その女性はリボルバーを持つフードのそいつに臆すること無く勇ましい姿を見せ、成瀬さんを守るように彼女の前に腕を伸ばす。けれどその女性の行動に僕は、かっこいいよりもバカ野郎と頭の中で怒鳴っていた。
武装している相手に対して、下手な攻撃姿勢は火に油だ。そんなことを考えていると・・・
バアン‼︎
三度目の銃声がステージ内に響き渡った。
銃声の主は当然のごとくフードのそいつが持つリボルバーであり、フードのそいつにキャスト陣含め彼らの視線の先にいるのは、抵抗を見せたあの女性だった。
「五月蝿いな〜、用があるのは継実ちゃんだけなんだよ。アンタらは邪魔だって言ってんの」
自分が放ったリボルバーから上がる煙越しに女性を見ながらフードのそいつは、また脱力感のある口調で告げる。
頬を掠めたのか?女性は自身の頬に手を当てる様子を見せる。
「分かったらほら、さっさと下がった下がった。予告三度まで、次は当てるよ」
そう言って、キャスト陣を追っ払う様な手振りを数回すると握り締め直したリボルバーを彼らに突きつける。
今度は本気で当てる気だ。下手したら死人が出る。徐々に怯えを見せるキャスト陣にフードのそいつが口にするその言葉の重さを感じる。
フードのそいつとキャスト陣の距離はたった数十センチほど。
リボルバーの残り弾数はリロード抜きにして恐らく三発。けど僕がいる舞台袖からフードのそいつまでは距離がある。
残りの弾丸全てを防ぐには、トリガーが引かれるコンマを見極めなければならない。
・・・無理だ。僕には、
歴史的に英雄な存在ならいざ知らず、今日初めて銃を握った僕にそれが出来る訳がない。
目に見えて対抗出来る手段があるのに、それが意味をなさない現状。・・・けどここから対抗出来ない訳じゃない。
「三回。それが今、君が耐えられる限界の数だ」
二日前、華さんに言われた忠告が頭に過ぎる。
考えていても仕方ない。それにそもそも使うつもりだったんだ。タイミングが予想より早いだけだ。
心の中でそう決心した僕は次のフードのそいつの行動に備え、舞台袖から壇上に飛び出す構えに入った。
「下がる気無しか。・・・もういいや消えちゃいなよアンタら」
怯えを見せながらもその場を動こうとしないキャスト陣に痺れを切らしたフードのそいつ。
「最初はアンタだ」
成瀬さんの前に立つ女性にその手のリボルバーを向ける。
トリガーの指が掛かる。
・・・今だ!
リボルバーから再び弾丸が放たれる一瞬、僕は片足の踵を二回鳴らし舞台袖から姿を消した。そして次の瞬間・・・
「なっ⁉︎」
突然の状況に驚きを見せるフードのそいつ。
僕はフードのそいつの前に姿を現すと同時に放たれた弾丸を掴み取った。
周囲の視線が突如として間に現れた僕に向けられる。
「・・・灯さん」
後ろで僕の名前を呼ぶ成瀬さんの声が聞こえる。
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