第33話 発砲音

 突如、舞台前に現れた謎の人物。頭から羽織っている黒いフードは足先まで伸びており、外からの僕たちにはそれが男なのか?女なのか?はたまた人なのか?すらそれが判別出来ない状況だ。

 ステージフロア脇・非常口付近で警戒に当たっている颯さんからの通信を耳にした僕は、すぐさま舞台袖ギリギリまで近づき懐に忍ばせておいた拳銃をそのフードへ向けて構えた。

 舞台袖で僕は例の予告犯を警戒していた。イベントが終了時間に迫るほど予告はただの悪戯だったのでは?本当に来るのか?と目の前にいるフードの存在を目にするまだは疑心暗鬼だった。

 決して警戒心を緩めていた訳じゃない。むしろ時間が経過するにつれ、持つ警戒心を強めたほどだ。舞台に立つ成瀬さんや彼女の周辺から一度たりとも目を離してなんかいない。けど気づけばあのフードはそこにいた。さっきからいた様に今も当たり前に舞台の前に立っている。

 構えている拳銃のフロントサイト越しにフードを観察しているが、今はまだ動かないでいる。フードを被っているせいで分からないが、そいつの首は少し上がっているのか?視線が成瀬さんたち舞台上に向けられているように見える。

 フードのそいつが会場に現れてたせいで、さっきまで盛り上がっていたイベントは一瞬にして鎮まりかえっている。

 成瀬さんや他のキャストに司会進行役の梅野さんそれに周りにいる観客たちも突如現れたそのフードの存在にどうしたらいいのか?不明な状況に陥っている。


 「誰、あの人?」

 「追加キャスト?」

 「ゲリライベントか?」

 「でもなんか変じゃね?」


 警戒から臨戦体制に移行している僕の耳には、いつのまにか観客席からのざわざわとした不安の声が流れ込んでいた。

 陥った不明な状況にどう反応すれば良いのか?分からないキャスト陣。それは僕がいる舞台袖でも同じで、現状の出来事にどうすれば良いのか?こんなイベントの連絡は無いのか?などとスタッフさんたちもてんやわんやになろうとしている。

 僕自身も拳銃を構えてはいるが、下手に発砲する訳にもいかない。初めて扱う武器に、初めての状況下、今はただ目の前の現状に嫌な汗を浮かべているしかない状況だ。

 フードのそいつが現れて数分、現状の沈黙を破ろうとしたのか?役割を全うしようとしたのか?進行役の梅野さんがフードのそいつに声をかけた。しかし・・・


 バキューン‼︎ ・・・・・・ガッシャン‼︎


 この場に似つかわしく無い耳をつんざくような轟音が響いた。音の発生源は舞台中央で、目を凝らすとフードのそいつが右手を上げており、その手にはリボルバー式の拳銃が握られていた。


 発砲音


 轟音の正体はフードの持つリボルバーからだ。発砲音の数秒後、キャスト陣後方の舞台上に何かが大きな音を立て落下した。

 僕はフードへ向けている視線を一度、その落下物へ向けた。

 落下によってか?周辺に光る何かを散らばせた黒く四角い物体。あれは・・・ライト⁉︎

 落ちてきたのは、ステージを照らすために天井に複数吊るされていたスポットライトの一つだった。

 マジかよ!フードが持つリボルバーにはそれほどまでの威力があるのか。じかに一撃でも受けたらと思うと・・・・・・本気でヤバい。

 落ちてきたスポットライトの残骸からヤバい状況だと言うことを理解した僕は、視線をフードのほうに戻した。

 視線を外していた一瞬、再びフードを見るもそいつはまだリボルバーを持った手を上げたままでいた。しかしさっきと違う新しい光景が舞台上に生まれていた。

 フードに声をかけた梅野さんが自身の頬に手を当てており、そこを見慣れた赤黒い液体が流れて落ちていたのだ。

 血液 それがポタポタと小さな音を立てる。

 発砲音と血。これ以上に人の恐怖心駆り立てるモノはないだろう。


 「キャー‼︎」


 舞台上の光景に恐怖を感じた誰かが声を上げる。その悲鳴はすぐに電波し周りの人間にも恐怖を与えた。

 会場に混乱が生まれる。


 バアン‼︎


 恐怖と混乱渦巻く会場に銃声がまた鳴り響く。

 

 

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