断章 鳥の眼の瞬き

 速い。

 目の前に映ったその現象は、少なくとも俺・松原まつはら意識いおにはその言葉を凌駕するほどのものだった。

 何が起きたのかって、1秒いやそれより一瞬で、それまであそこに居なかったアイツが海道かいどうともりが今、あそこに立って彼らを守っているいるんだ。

 突然現れたフードを許さないと言う様な覚悟の眼でアイツは立っている。

 正直なところ不安だった。戦闘経験が無く訓練もここ数日やって来ただけとルナから聞いていたから。

 数時間前、アイツを楽屋に置き去りにしていった時だ。アイツについてルナから聞いたのは、


 「ルナ、アイツはできるのか?」


 「できるのか?か、ん〜どうだろう」


 「どうだろうって、お前の連れだろ」


 「灯くんが出来るか?どうか?なんて私にも分からないよ。訓練したのもここ数日だけだからね〜」


 「ここ数日って」


 「・・・けど」


 「けど?」


 「大丈夫だ!って思えるんだ。なんでだろう?やっぱり似てるからかなあの人に」


 感情を、表情を、浮き沈みさせながらもルナは、ふと笑顔を見せる。


 「あの人って〜と、もう何十年も前に亡くなったお前のマスターの事か?」


 「うん。考え方とか、見方とか、特に優しいところとか」


 一瞬、寂しそうな表情を浮かべるもアイツに対する想いがルナの明るくする。


 「だから大丈夫だよ。それより私ら私らでやる事やろ〜」


 そう言って先を歩くルナ。その後ろ姿はまるでこの先にある楽しみを待つ健気な子供の様だ。

 それから暫くして楽屋からアイツが戻って来た時、所々で見えていた不安な様子が無くなっていた。

 覚悟を持った頼れる仲間とあの時俺は感じた。そしてその姿が今、あの場に立っている。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る