第19話 上が考えること

 「それでは当日よろしくお願いします」

 長い会議が終了した帰り際に颯さんがその言葉を口にした

 彼のことその言葉をしっかりと受け取った僕とルナは、風鳥支部を後にすることに。来る時一緒だった松原さんは、まだ用があるとかで残ることになった。

 僕らは、外の駐車場に止めて置いたルナの車に乗り込む。エンジン音が鳴り響きルナが踏みしめるアクセルによって車が発進する。車の行き先は、自宅兼事務所がある鳥花ちょうかまち

 太陽の姿は既に無く、町は街灯によって照らされていた。

 暗い街中をそれぞれ目的地へ向け人々や車が行きかう様子を僕は、車の窓から眺める。

 「…知ってたの?」

 薄暗い車内で視線を窓の外に送ったまま僕は、ボソッとそれを口にした。

 「え、」

 僕からの突然の呼びかけに不意を突かれたルナ。

 「今日、ルナは依頼を知ってたの?」

 「…どうして、」

 僕の疑問に質問で返すルナ。

 「正直、馬鹿げてると思ったから」

 車内の静かな空気が変わる。でも僕は続ける。

 「今回の依頼は、成瀬継実さんを守ることだ。なのにルナの仕事を手伝い始めたばかりの僕に決定権を握らせるのはルナらしくないと思ったから」

 最初の会議で何でルナは、僕に決定権を握らせたのかずっと疑問だった。短い期間だけどルナがこの仕事にどれだけ真剣なのか。それは彼女の表情を見て、理解しているつもりだった。けど今日のこれは彼女…ルナらしくない。

 「……」

 沈黙。背中から感じたそれがルナの答えだと僕は捉えた。

 それから車内は僕が作ってしまった嫌な空気で一杯で、自分で作っておきながら居心地が悪かった。

 それから家に着くまで僕とルナの間で会話が発生することは無かった。そんな車内での時間を長続けさせたいのか?帰りはやけに赤信号が多かった。



 「行ったみたいですね」

 支部長室の窓越しから一階を見下ろしていたはやて慎平しんぺいが、駐車場から車道へと出ていく一台の車を確認する。

 「…そうか」

 颯の報告に支部長席で背中を預けているこがらしは、静かに返す。

 「なぁ、もういいだろ用ってなんだよ」

 支部長席の前で待ちくたびれた様子の松原が、とっとと要件を言うよう凩に催促する。

 「松原さんに同意したくありませんが、支部長、彼らに聞かれたくない事とは」

 颯も視線を窓から傍にいる凩へ向ける。その言葉を耳にした松原が、颯へ向け睨みつけるような視線をすぐさま送る。

 「さっきの青年についてだ」

 ゆっくりと口を開く凩。

 「さっきの?海道くんのことですか」

 「ルナが助手とか言ってたボウズのことか。それがどうした」

 颯と松原は予想していなかった内容に疑問の表情を見せる。

 「今から見せるもんは、他言無用で頼む」

 凩は、引き出しから一枚の書類を取り出しそれをデスクの上に置く。

 すぐさま出された書類に目を通す2人。徐々に颯と松原の表情に険しさが見え始める。

 書類には政府依頼書と書かれており、少しの依頼文と写真がクリップで止められていた。


 【政府依頼書:下記1名の青年を捜索中。確保はせず発見しだい早急に本部へ報告せよ。対象者氏名:天道てんどうともり。中央都市名家の1つ天道家長男】

 

 写真には見覚えのある青年の顔写真が写っていた。

 さきほどの会議で凩、颯、松原の3名も見た人物。現在”海道”と名乗っているその青年が。

 「…支部長はどうするおつもりですか?」

 颯は、ある点に疑問を持た様子ながら凩に質問する。

 ある点。それはという単語だ。最初の会議で眼にしてから報告するタイミングは幾らでもあった。この書類を僕らに見せるということは、支部長はまだ本部に報告していないとみた。

 「今回の件が片付きしだいだな」

 颯の問に凩は、一息いれつつ答えた。

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る