第20話 戻ることの無い朝

 窓から差し込む朝日が部屋の中を照らし出す。

 目元に掛かった朝日に起こされた僕は、横になっていたソファの上で身体を起こす。

 眩しい光の跡を手で拭いつつ洗面所へ向け歩き出す。

 回した蛇口によって放出された水に手を伸ばす。夏もう中半で洗面台に打ち付けられる水はぬるかった。

 僕はその水を掬い上げ寝ぼけた自分の顔へ向け、2・3回当てていく。

 「…いよいよか」

 毛先や頬から水を滴り落とす僕の顔が、目の前に貼られている鏡に映し出されてる。

 零れ落ちるその声は、浮かない表情と合わさってより暗い色を感じされるモノだった。

 10日前、この事務所いえに舞い込んできたとある依頼。”成瀬なるせ継実つぐみを護衛”

 依頼を受けることになってからあっという間に10日が経過した。そう今日はその護衛しごとの日だ。

 この家に来てからまだ一か月も経過していない僕は、この10日間色々なことを考えていた。でもそんな僕なんかお構いなしにその日はやって来た。

 「…よし」

 両手で頬を思いっきり叩き気合を入れる。その衝撃で手や頬につく水滴が辺りに飛び散る。

 あれやこれやと考えても仕方がない。俺が苦しいことを考えてても意味は無い。今日一番苦しいのは成瀬かのじょなのだから。

 それから洗面所で軽く身なりの手入れを行った僕は、洗面所にあるドアノブに手をかける。

 ガチャ!

 ドアノブを回そうと力を入れようとした時だ。その前に反対側から力を入れられたドアが音を立て、ゆっくりと開く。

 「あ、…」

 開かれたドアの先にいたのは、この家の主・ルナ=アストレアだった。白のTシャツにパンツ一枚の姿で立つ彼女の姿を眼に僕は口から思わず声を漏らす。

 「あ、…」

 寝ぼけていてすぐには気づけなかったのか?僕の姿を認識した彼女が遅れて声を出す。

 「え~と、おはよう!」

 寝ぼけていた目が覚めたのか?彼女は僕に朝の挨拶を投げてくる。

 「おはよう。アストレア」

 アストレアの元気な挨拶に淡々と返す僕は、洗面所の入口に立つ彼女を避けリビングのほうへ。

 「早く顔洗ってきてね。…あと前も言ったけど、その恰好は目のやり場に困るから」

 アストレアへその言葉を残し、僕はその場をあとに。


 洗面所で朝のやり取りから少し。僕は今アストレアとともに彼女の運転する車で、護衛対象である成瀬さんが今日出席するイベント会場がある風鳥町へ向かっている。

 運転席に座るアストレアと助手席に腰を下ろしている僕の恰好はいつもと違っていた。あ互いに真っ黒なスーツでビシッと決めている。

 何でもこのスーツは戦闘用に作られたモノらしく。彼女曰く昔使っていたモノらしい。今日の仕事は命に係わることだからと押し入れから出したそうで…。

 しかしそのスーツの存在に僕の中で、また一つ彼女に対しての疑問が生まれた。

 このスーツ。アストレア用のがあるのは分かるけど、なんで僕のサイズピッタリのスーツが押し入れから出て来たんだ?

 この日のために作ったなら分かる。しかしこのスーツを初めて目にしたのは、つい昨日の夜でアストレアが押し入れから取り出すところもこの目でしっかりと見ている。

 いったいこのスーツは…

 スーツのことやアストレアについて考えてたいが、今仕事に集中しなければならない。

 僕は車内でアストレアと今日のイベントの流れなどを口頭で確認していく中、車は風鳥町へと入って行く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る