断章 狩るもの
灯たちが成瀬の護衛依頼を受けてから2・3日後のこと。とある公園のそのベンチに影が2つ。
「はぁ~あちー!」
着ている半袖の襟をパタパタと仰ぐ少年・
「そうだね」
聞旗が上げる声に隣でシャーベットアイスを齧るもう一人の少年・
広がる青空と太陽その下で、絶賛夏休み満喫中の2人。
学校内でも普段から一緒で今日も聞旗の誘いで創治と朝から遊んでいる。
「これ喰い終わったらどうする?」
左手に持つシャーベットアイスを齧りつつ聞旗が、このあとの流れについて口にする。
「あ~どうしよっか」
特に何も考えて無いのか?生返事する創治。
ピピピ!ピピピ!
言葉を交わす二人の間で突如電信音が鳴り響く。
「あ、俺だ」
突然の電子音にビックリしている聞旗の隣で創治がズボンのポケットから携帯端末デバイスを取り出す。
創治の視線がデバイスの画面に送られる。直後先まで楽しげな表情を見せていた彼の顔が少し曇る。
「…わりぃ、少し向こうで電話してくる」
聞旗に聞かれちゃまずいのか?そう口にして創治がベンチから腰を上げる。
「創治。…女か」
「ちげぇよ!」
電話相手の知らない聞旗が、いつもの乗りで創治を茶化す。それに対して創治は、割とマジの顔で否定する。
創治のその顔を眼に映しつつも聞旗は、「ごめんごめん。行ってら~」軽く返す。
聞旗とのやり取りを終え、創治はベンチから離れた位置にある電柱に寄りかかりデバイスに表示されている応答のアイコンをタップする。
「…コード:NULL Fです」
デバイスを耳にあて、Fは淡々とした口調で通話相手に応答する。
「…コード:No.13 ALです」
デバイスの音声から聞こえてきたのは、ALと名乗る女の声だった。
「マスターからの指示です。数日後に風鳥町で行われる新作アニメのイベントにて行き、そこに現れるルナ=アストレアという人物の捕獲を行ってください」
「…了解した。ちなみにそのイベントにはどうすれば参加できる?」
女の急な指示に反論することもせず、創治はただ指示に対しての疑問を投げる。
「具体的な方法はありませんので、そちらで探してください。もし当日までに方法が無い場合はご連絡ください。こちらでなんとかします」
「方法が無いって、それはあんまりじゃないか」
あまりにも無茶苦茶な指示にため息を零すF。
「それでは」
「あ、おい!」
ピー。ピー。
女が通話終了を口にする。それを止めようとFが声を上げるも時既に遅くデバイスは、通話終了の電子音を鳴らしていた。
「はぁ~マジかよ」
耳から離したデバイスを眼にしつつ創治が、愚痴を吐く。彼の視線がデバイスから反対の手に持っていたシャーベットアイスに向く。
「最悪奇跡使うか~。てか、アイス溶けてるし」
創治の視線の先にはさっきまでアイスがくっついていたで有ろう木の棒が、そして足元には水色の氷が溶け落ちており、すでにその周りを数匹の蟻が囲んでいた。
創治は残った木の棒をくわえ、聞旗の待つベンチまで戻り始める。
ベンチに戻ると俯く創治とは対照的な喜んでいる聞旗の姿があった。
「どうした聞旗。暑さで頭がやられたか?」
「あ、創治!電話はもういいのか?聞いてくれよというか見てくれ!」
創治の暴言さえ聞き流すほど聞旗は浮かれていた。
聞いてくれという聞旗の眼差しに打たれた創治が「なんだい」とめんどくさそうに聞く。
「当たったんだよ!チケットが、成瀬ちゃんが出るアニメのイベントの」
聞旗は嬉しそうにワクワクした目をしながら自身のデバイスに表示されているメッセージ画面を創治に見せてくる。
「…これって」
メッセージ画面の情報に目を通した創治が何かに気づき小さく呟く。そうそのメッセージの内容にあったイベントこそ、さきほど彼が電話で耳にしたイベントだった。
「これさ応募した本人に加えて一人友達連れてけるみたいだから。創治、この日暇なら一緒に行かね?」
「ああ、行こうかな」
連続して起こる奇跡なことに戸惑う創治
「おし、決まりな!楽しみだな~」
そう言いながら聞旗は、何度も当選メッセージを読み返す。
ただの公園のただ少年たちの会話。そこに灯たちへ新しい影が発生したことを彼らはまだ知らない。
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