第三節 舞台開炎
第21話 開炎準備中
”
地下二階地上三階建て客席数二〇〇〇を誇る大きな会場。
僕・
僕が助手席に乗る年代物の車が、僕の上司・ルナ=アストレアの運転のもと南風ステージ地下二階駐車場に到着した。
車から降りた僕は現在時刻を確認しようとズボンのポケットから携帯端末【デバイス】を取り出し、起動スイッチに触れる。
AM 9:55
デバイスには水色のデジタル文字で現在時刻が表示された。
既に開場準備が進行しており、楽屋にもそろそろイベントに登壇するキャストや関係者が入るころだった。
「時間通りだね。アストレア」
僕は振り返り車の運転席側に立つアストレアへ身体を向ける。
「当然!私を誰だと思ってるの」
「…秘密主義の命の恩人」
僕と同じ黒色のスーツ姿で片手を腰に当てカッコいい?ポーズをとる彼女へ、僕は皮肉を込めて返す。
帰って来たその言葉に自信満々な表情を見せるアストレアの顔が段々と沈んでいく。
「いや、あの、それはねぇ」
ルナ=アストレア 数日前に発生した嵐から僕を助けてくれた命の恩人。嵐の影響で一部の記憶に障がいが残った僕を傍に置いてくれる優しい人。ただ…、
つい先日、自身に舞い込んできた依頼の決定権を僕に委ねるというとんでもない行動に出たのだ。
理由を聞いても答えてくれなかった彼女に僕は今更ながら不信感を抱くようになっていた。
今も僕の返しにバグった機械みたいにぎこちない身振り手振りをしている。
「はぁ~、とりあえず関係者エリアの入口に行こう」
「うん!」
ぎこちない動きをしていたアストレアが僕の言葉で真剣さに戻る。
僕はデバイスをポケットに戻し、アストレアと共に地上一階にある関係者入口へ向かうため、この地下二階駐車場エリアの端にある非常用階段を上る。一応、エレベーターやエスカレーターもあるが使わないことにしている。もし万が一機械トラブルなどに巻き込まれでもしたら護る以前の問題だからだ。
階段を駆け上がり地上一階に辿り着いた僕らは、一階非常用階段の入口から離れた位置にある関係者のみと書かれた扉を視認し、扉のほうへ早歩きで進んで行く。
一階エリアは広く外と繋がる出入口前を通過する必要があった。現在一階には複数名のイベントスタッフが開場準備に取り掛かっていた。
彼らの中に予告犯の仲間もしくは協力者がいるかもしれない。
僕とアストレアは、彼らに違和感を与えないようにそれでいて足早にその場を通り過ぎて行く。通り過ぎる最中、僕らに気が付いた一人のスタッフが少し離れた距離から僕らに挨拶の声を送って来たので、こちらも元気の良い声で挨拶を返した。
扉の前に来た僕らは伸ばした手でゆっくりとドアノブを回し、関係者エリアの中へと消えていく。
「お、少し遅かったな。ボウズ」
関係者用通用口で待っていた男性が僕に声をかける。
紺色の制服に身を包む暗めな髪色のその男性。
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