第2話 灯の存在

 真っ暗だ。黒よりも黒く真っ暗な絵。その絵に白色のインクが落ちた。その白色のインクは、朝日あさひの様に暖かく段々と広がっていった。

 僕のまぶたが、ゆっくりと開いた。

 黒い絵に落ちた白色のインクは、天井に貼られている電気の光では無かった。

 白色のインクの正体は、部屋の窓から差し込まれた外の光だった。

 太陽の光

 その光は、眩しくも心が落ち着くような暖かいものだ。

 

 「ふぁ~~」

 

 気の抜けた欠伸あくびが、口かられる。

 まだ頭がぼやけている。それでも起きようと僕は、手で目を軽くこすり、部屋の柱に掛けてある電子時計を確認した。

 時刻は丁度8時半を指すところだ。

 

 (ん?なんだこれ)


 自分の口元に何かが引っかかっているのに気づき、それを外した。

 僕の口に着けられていたのは、空気を通す穴の開いた緑色の透明なマスクだった。外したマスクは、ベットに置いた。

 僕は寝ていたベットから降り、部屋の中を見渡した。が、特にめぼしいものは無かった。一つ挙げるとすれば僕を助けてくれたという人が、まだ居ないということくらいだ。

 部屋の散策をしていると、段々と僕の耳にゴロゴロッとタイヤの回る音が聞こえてきた。

 音は、僕のいる部屋の前あたりだろうか?止まった。

 コンコンコンッと3回ノックが鳴ったあと部屋の扉が、ゆっくりと開いた。


 「失礼致します。海道さん起きていらっしゃいますか?」


 「え~と…おはようございます」


 部屋に入って来た人に僕は、少し遅れて挨拶した。

 白い服を着たその人。一目で看護師だと判断した


 「おはようございます海道さん。測定をしますので、横になっていただけますか?」


 「…はい」


 僕は、その看護師の指示に従いベットで横になった。

 横になるとその看護師は、手際よく測定を開始した。体温・血圧・脈拍と順に調べられた。

 測定を終え看護師は結果を確認し、「特に問題はありませんね」と僕に言う。

 測定器具を持ってきた台車に片付ける。それを終えると看護師の女性は、僕のほうを向き直した。


 「海道さん。今から幾つか質問しますので、範囲で正直にお答えください」


 「初めに、あなたのお名前は?」


 看護師の質問に僕は返す。


 「僕の名前は、海道かいどうともりです」


 僕の回答に看護師の表情が、一瞬変わったように見えた。


 「次に、ここがどこだかわかりますか?」


 「…病院ですか?」


 看護師の表情に変化は無い。

 

 「では。あなたは、花月川はなつきがわで何をしていましたか?」


 (?)


 「……分かりません」


 僕の答えに看護師は、「分かりました。ありがとうございます」と返した。その時の看護師の表情にも特に変化は、見えなかった。


 「それではのちほど検査を行いますので、もうしばらく部屋でお待ちください」


 「それでは失礼いたします」


 質問を終え、看護師が部屋を後にする。僕は…


 「あ、!」


 僕の声に反応して、看護師が振り返る。


 「何か?」


 「……え~と。すいません。なんでもないです」


 「…?」


 看護師は、疑問を持った表情をしたが、すぐその表情を戻し一礼。そのまま部屋を後にした。

  看護師が去った後、僕は考えていた。一つ気になることがあったからだ。先ほど声を上げたのもそれが理由だ。ただあの看護師やこの病院が、どういった裏を持つか分からないからひっこめた。

 ただ気になることは、あの看護師は何故


 「なんで僕が名乗る前に僕の名前が、って知っていたんだ?」


 その謎が僕の中で生まれた。

 あの看護師が言ってた検査まで、まだ時間がある。僕は、その疑問について考えようと思ったが、僕は、この部屋にまた足音が近づいているのに気づいた。そして…


 コンコンコンッ


 扉に、また3回のノックが鳴る。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る