第24話 隙間越しの観察
楽屋前に着いた僕ら。
着いてからすぐ松原さんの手が楽屋の扉へ伸びる。
「ちょ、何してるんですか⁉」
松原さんの行動にあり得ないものを目にしたのか?思わず声を上げる颯さん。直後、はっと我に返る颯さんが両手で自分の口元を押さえる。
「作戦内容言いましたよねぇ」
颯さんは口元を押さえていた手を下ろし、松原さんへ疑念の目を向けつつ気持ちを吐露する。
「ああ、聞いてるよ」
颯さんからの問に躊躇いも無く即答する松原さん。
耳に入って来たその回答に颯さんが、また大きなため息を零す。
松原さんの思わぬ行動に頭を抱える颯さん。そんな彼らを僕とアストレアはどうすればいいのか分からず、横からただ見守るしかなかった。だが実際、颯さんが焦っていることのほうが分かる。
今回の作戦【成瀬継実さんの護衛】において僕らは、キャストや関係者とあまり関わってはいけないことになっている。理由としては余計な不安要素を生まない為らしい。
僕ら以外で今日この作戦を知っているのは、マネージャーの未島さんに現場指揮を担当する方・それとイベントにて上映されるアニメの監督さんくらいだ。関係者エリアを出入り出来るのだって、僕らがその監督さんの知り合いというていで話が通っているからだ。ちなみにアストレア・松原さん・颯さんは監督さんで、僕だけ成瀬さんの友人枠ということになっている。…なんで僕だけ?いや何となく理解はしてるけど。
「じゃあ、何でここに?」
扉に触れたままの松原さんにアストレアが疑問を投げる。
「…ちょっとな」
そう言いつつ扉を少し開けた松原さんは、その隙間から楽屋内の様子を覗う。
気づかれていないのか?そのうち松原さんが手だけをこちらへ向け、見てみろ。と言うように手招きをする。
その手招きにまず興味を持ったアストレアが、そんなアストレアの止め役とまだ聞いてない頼みを聞くために僕が、もうどうにでもなれと頭を掻く颯さんが、皆同じように扉の隙間から顔を出し室内を覗き込む。
楽屋では数名のキャストが各々の形で待機していた。備えられたお茶を口にする人、楽しく談笑する人たち、緊張する仲間を励まし合う人たち。
え~と成瀬さんは、
僕は室内の端から端までを見渡し彼女を探した。
「わー、なんかすごいね。やっぱりオーラがあるっていうか」
「今日って、何人だっけ?」
「キャストさんは、男性3人の女性4人で全部で7人です。忘れないで下さいよ」
「わりぃわりぃ、」
上下からがやがやと喋り声が聞こえているが、僕の眼には鏡の前で腰を下ろす彼女の姿を捉えていた。
「松原さん。それで頼みごとってのは」
「ん⁉ああ、海道くん?今の成瀬ちゃんを見てどう思う」
徐々に大きくなりつつある会話の中、僕の声に松原さんが返す。
「どうって、あんまり気分が良いようには見えません」
彼女を視界に留めつつぱっと見の印象を口にする。
「ちなみになんだが、さっきのリハーサルは観たか?」
下から聞こえてくるその声に僕は続く。
「…見ましたよ。2階席の見回り中に」
まぁそのせいで遅れたのはあるけど、質問に答えつつも仕事を残した罪悪感に少し心を落とす。
「どうだった」
一瞬、室内から視線を感じた。が今はそれを気にせず松原さんとの会話を続ける。
「上手くは無かったと思います。笑顔ではありましたけど分かる人には分かる暗い表情でした。たびたびトークが途切れる場面もありましたし」
……
淡々と口にする僕の回答に誰も…反応しない。
「僕なんか変なこと言いました?」
「いや」
僕以外の3人が息の合ったように首を傾げる。
「でだ海道くん。例の頼み事だけど、君には今から成瀬ちゃんと話しをしてきて欲しい」
一瞬の沈黙のあと、松原さんから頼み事を僕は耳にした。
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