第7話 寂しさと影
「私は、!」
アストレアは、僕が逃げないように掴んだ手を離さないでいる。
目の前にいる彼女は、とても寂しそうな顔をしていた。綺麗な瞳がウルウルと震えている。そんな彼女の姿は、まるで自分を置いていく親を引き留める子供のように見えた。
「ルナ…」
耳に聞こえて来たそれが過ぎ去っていった。
あれ?僕、今声に出てた?
たった1秒?いや、それより一瞬の時間。僕の記憶が曖昧になっている。
目の前にいるアストレアに視点を戻すと彼女は、驚いた表情で僕のことを見ていた。
目に映る彼女から先ほどの寂しそうな表情が薄れており、代わりに信じられないモノを見たような?それをもう一度見られないだろうか?というような表情をしていた。
「…お兄ちゃん⁉」
僕を見つめるアストレアから言葉が落ちる。
いつの間にか彼女の手が、僕の腕から離れていた。離れた手が徐々に僕の頬に上ってくる。
ぐぅ~‼
アストレアの手が不思議と僕の顔に触れそうな時だった。この状況を壊す緊張感のない音が耳に入り込んできた。音の出どころを確かめる必要は無かった。
音は彼女のお腹からだった。
「あ、アストレアさん?」
僕の呼びかけに彼女の返事は無い。
「あー、え~と、僕お腹が空いたな~。ずっ~と寝てたからすっごくお腹空いてるな~」
僕は、鳴った音が自分のモノであるように気持ちを口に出した。
「ぷっ、あははは!」
アストレアさんが笑いだす。
「なんで笑うんですか?」
彼女の反応に僕は、心の中で段々と恥ずかしさがこみ上げて来た。
「ごめん。ごめん。そうだよね。お腹空いたよね」
笑いすぎて目から少しの涙を見せるアストレアさんと恥ずかしさで、まだ顔が赤い僕の目が合う。
「それじゃあ、行こっか」
アストレアさんが僕の手を掴んで歩きだした。手を掴まなくても僕はついて行くのにと思ったが、彼女のさきほどの表情を思い出すと車までたった数歩の距離でも掴んでいたい気持ちが少し理解できた。
駐車場に置かれた1台の車。所々に錆があり、年代を感じさせる1台だ。
後部座席に座ろうと後ろ側のドアに手を掛けた時だ。こっちと言わんばかりにアストレアさんが、助手席側の扉を開けた。
僕は彼女に流されるように助手席に座るよう車に乗り込んだ。乗り込んだことを確認すると反対側からアストレアさんが乗り込んだ。
「さっきは、 ね」
僕の耳のあたりを何かが、通り過ぎていった。
「何か言った?」
「ううん。何でもない。それじゃあ出発!」
そう言って車にエンジンが掛けられた。
車はアストレアさんの操縦のもと、病院の駐車場から広い道路へと走り出した。
そういえば
(アストレアさん。さっき僕のことお兄ちゃんって言ってたよな)
お兄ちゃんって誰?僕とその人が似てるのかな?
走り出した車の中で僕は、さっきのアストレアさんのことを考えだした。
車で移動すること数十分。
車のスピードが段々と落ちていくのが分かった。
「もうすぐ着くよ」
車内で他愛もない話やしりとりなんかをしている間に車は目的地に着くところだ。
アストレアさんが目的地近くの駐車場に車を止める。車から降りると反対側のドアから出てきたアストレアさんが、回り込んできて僕の手を掴む。僕は、また彼女に連れられるまま歩きだした。
少ししてアストレアさんが、とある店の前でその足を止めた。その店はレンガ造りで古風な雰囲気があり、僕の視線は店の大きな看板に送られていた。
【
アストレアさんに手を引かれ、僕は店の中へと入っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます