僕の隣には月がある(※第二章準備中)

春羽 羊馬

第一章 僕と月

第一節 小さな灯と大きな影

第1話 あかりを消すために

 〈デバイスから流れている放送〉

 『現在 人工島じんこうとう花鳥風月かちょうふうげつ】では、大型の台風が直撃しております。この台風は、ここ数年と比べ最大規模のモノと観測されており、島に住みます皆様には、外出は控えていただきご自宅でゆっくりとお過ごしくださいますようお願い申し上げます。繰り返しお伝えします。現在 人工島【花鳥風月】では、大型の台風が直撃して・・・・・・』


 暗い。

 この町の夜よりも真っ暗で黒い雲がこの空をおおている。

 何処かへ飛ばされそうになるほどの強く激しい風が、真っ暗な空から降り続ける無数の雨が、俺の身体を痛めつける。

 足元を見ても自分の影が映っていないのが分かる。試しに雨粒によって出来た水たまりを踏んづけた。が自分の姿は映らなかった。

 。この黒い空のおかげか?その事実を知って俺は、ホッとしていた。

 何故かって?それは、

 今、自分の顔を目にしてしまったら、これからやることに躊躇ためらいが生まれてしまうのでは?と感じていたからだと思う。

 歩き続けること数分。俺は、やがてとある場所でその足を止めた。

 先ほどから耳に流れてきている激しい雨風の音。それとは別で今いる場所。その真下から雨とは違う別の新しい水の音が聞こえていた。

 橋の柵から顔を出して下を覗くと川が荒々しく流れていた。

 俺が今いる場所は、川に架けられたとある橋。


 (もう、このあたりでいいか…)

 

 俺は、ある場所を探していた。あてもなくただ…。

 探し歩くうち頭の中は段々と寒い。痛い。苦しい。疲れた。もう嫌だ。そんな負の言葉の数々で埋め尽くされていた。でも、もう埋め尽くしていたそんな負の言葉の数々からも解放されると思うと、それだけで気は楽だった。

 寒さでかじかんだ手で橋の柵を掴み、身体にある残りの力で自分を持ち上げ足を揺らしながらも柵の上にゆっくりと立った。

 荒々しく流れる川を柵の上から見下ろす。

 ここから落ちれば確実に終わる。…俺は今どんな表情をしている?

 解放される嬉しさだろうか?置いてきてしまった事を心配する悔しさだろうか?鏡の代わりにもならないこんな場所で、自分がどんな表情をしているか?なんて分かるわけもない。もうそんなことすらどうでもよかった。


 …でも。たった一つ気がかりなことがあった。


 柵から足が離れる。

 俺の身体は一瞬の浮遊感に襲われたのち、荒々しく流れる川に小さな水柱を上げ、「ドヴォン‼」と大きな音を立てた。

 音がした直後、渦巻く水が全身を襲う!

 外の雨風よりも冷たい水が、じわじわと俺の身体と精神を蝕んでいく。徐々に全身を襲う水の冷たさは、苦しみへと変わっていた。

 苦しみの中俺は、あてもなく手足ジタバタと動かした。

 全身の感覚が段々と薄れていく。そんな俺の頭についさっきの記憶がよぎる。

 

 (…、…、…、大丈夫だったかな。初めて使ったから上手くできてるか分かんねぇや。)


 頭の中で言葉は無くなる。いつの間にか身体と精神を支配していた苦しみは感じなくなっていた。

 ふと。沈んでいく俺の身体が大きな影に捉えらていることに気づく。でもまぶたは、ゆっくりと落ちていった。


 !


 真っ暗な絵を強い閃光が襲った。

 僕の身体は、光に掴まれながら望まぬ方向へと進んで行ってるようだ。

 進み切ったあたりで僕の耳に、


 「君!大丈夫!」


 と、呼ぶ声が聞こえた気がした。

 その声は、本来聞こえてくるはずのない言葉。

 は、初めて言葉を耳にした。

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