僕の隣には月がある
春羽 羊馬
第一章 僕と月
プロローグ
プロローグ1 海道 灯
〈デバイスから流れている放送〉
『現在
暗い。
この町の夜よりも真っ暗で黒い雲がこの空を
何処かへ飛ばされそうになるほどの強く激しい風が、真っ暗な空から降り続ける無数の雨が、俺の身体を痛めつける。
足元を見ても自分の影が映っていないのが分かる。試しに雨粒によって出来た水たまりを踏んづけた。が自分の姿は映らなかった。
映らない。この黒い空のおかげか?その事実を知って俺は、ホッとしていた。
何故かって?それは、
今、自分の顔を目にしてしまったら、これからやることに
歩き続けること数分。俺は、やがてとある場所でその足を止めた。
先ほどから耳に流れてきている激しい雨風の音。それとは別で今いる場所。その真下から雨とは違う別の新しい水の音が聞こえていた。
橋の柵から顔を出して下を覗くと川が荒々しく流れていた。
俺が今いる場所は、川に架けられたとある橋。
(もう、このあたりでいいか…)
俺は、ある場所を探していた。あてもなくただ…。
探し歩くうち頭の中は段々と寒い。痛い。苦しい。疲れた。もう嫌だ。そんな負の言葉の数々で埋め尽くされていた。でも、もう埋め尽くしていたそんな負の言葉の数々からも解放されると思うと、それだけで気は楽だった。
寒さで
荒々しく流れる川を柵の上から見下ろす。
ここから落ちれば確実に終わる。…俺は今どんな表情をしている?
解放される嬉しさだろうか?置いてきてしまった事を心配する悔しさだろうか?鏡の代わりにもならないこんな場所で、自分がどんな表情をしているか?なんて分かるわけもない。もうそんなことすらどうでもよかった。
…でも。たった一つ気がかりなことがあった。
柵から足が離れる。
俺の身体は一瞬の浮遊感に襲われた
音がした直後、渦巻く水が全身を襲う!
外の雨風よりも冷たい水が、じわじわと俺の身体と精神を蝕んでいく。徐々に全身を襲う水の冷たさは、苦しみへと変わっていた。
苦しみの中俺は、あてもなく手足ジタバタと動かした。
全身の感覚が段々と薄れていく。そんな俺の頭についさっきの記憶が
(…、…、…、大丈夫だったかな。初めて使ったから上手くできてるか分かんねぇや。)
頭の中で言葉は無くなる。いつの間にか身体と精神を支配していた苦しみは感じなくなっていた。
ふと。沈んでいく俺の身体が大きな影に捉えらていることに気づく。でも
!
真っ暗な絵を強い閃光が襲った。
僕の身体は、光に掴まれながら望まぬ方向へと進んで行ってるようだ。
進み切ったあたりで僕の耳に、
「君!大丈夫!」
と、呼ぶ声が聞こえた気がした。
その声は、本来聞こえてくるはずのない言葉。
僕は、初めて言葉を耳にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます