第31話 映し出されるリアル
「会場にお集りのお客様にお知らせします。まもなく新作アニメ【竜騎士の少女】第一話の上映を開始致します。お立のお客様に関しましては、速やかにご自身の席にお戻りになりますようお願い致します」
ブーー!
イベントスタッフによるイベント開始前の注意放送が開場内に響き渡る。それから数秒後、メインステージ内でブザー音が鳴り響き天井照明の明かりが落ちる。イベントが始まる合図だ。
ステージ背景に巨大モニターが展開され、モニターから発せられる液晶の光が真っ暗な会場を照らす。その光はステージ袖に僅かばかり差し込んでいた。
僕・海道灯は今、特犯の松原さんの指示によってステージ袖その奥で待機している。
ステージ袖にはスタッフ用の小さなモニターが置かれており、それには上映中のアニメが流れていた。
上映されているアニメに少し興味があった僕は、警戒態勢を意識しつつ近くにいたスタッフさんにモニターをみる許可を取った。スタッフさんは何の戸惑いも無く「構いませんよ」と了承してくれた。
スタッフさんに「ありがとうございます」と一言残しつつ僕は、視線をモニターのほうへ移した。
開始数分が経過したアニメは現在、主人公と思われる制服姿の少女が謎の部屋に迷い込みそこで一人の青年と出会ったところだった。
進行する物語に惹かれながらも時折耳に入ってくるイヤホン越しの通信に応える。
「こちら松原、作戦時間10分経過、異常なし」
「こちら颯、同じく異常なしです」
「こちらルナ、同様に異常なし」
「海道です。僕のほうも異常ありません」
周囲に視線を配りスタッフさんに正体がバレないよう通信する。
「動きはまだない。引き続き警戒しろよ」
「「「了解」」」」
松原の指示に颯さん、アストレア、僕が冷静に返す。
しばらく周囲の音や空気に警戒するも異常は見られなかった。僕は再び傍に置かれているモニターに視線を落とした。
任務に集中している間も物語は容赦なく進行している。自宅の戻ったのであろう少女の傍には、いつの間に小さなキャラクターがいた。そのキャラクターはぬいぐるみのような可愛い見た目ながらその見た目に似つかわしくない低い声で喋っていた。
(なんだこのキャラ?)
そんなことを思いつつ主人公の少女の声に耳を傾ける。彼女の…成瀬さんの声だ。
少女が口にするセリフの端々から成瀬さんと会話したついさっきの記憶が戻ってくる。
笑う少女。驚く少女。緊張感のある少女。
巨大な敵を前に足を震わせるも少女がぬいぐるみのようなキャラと共に立つ。
『レーム、行くよ!”覚醒”』
モニターに映る少女が決意に満ちた表情でそのセリフを口にする。
アニメ終盤が進行していく中、警戒態勢の僕の耳にふと喋り声が聞こえてきた。声は徐々に僕のいるステージ袖に近づいてくる。
僕はイベント開始時より更に警戒態勢を強めた。理由は声の主が彼ら・キャスト陣及び関係者だからで、アニメの上映終了後に行われるトーク時間に入るからである。
関係者エリアとステージ袖を繋ぐ出入口に視線を向けていると暫くしないうちに出入口のドアノブがゆっくりと回りだした。
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