第13話 選択

 「どうする?この依頼受ける?」


 ルナは僕にだけ聞こえる声量で耳元にささやく。

 ルナの。彼女のその言葉の意味が分からなかった。僕はルナの手伝いでこの場にいる。だからこの依頼を受けるか?なんて決定権なんて持ち合わせてなかった。

 隣で顔を近づけているルナから僕は、目の前にいる成瀬さんへ視線を戻す。

 俯いていたはずの成瀬さんと僕の眼が合う。彼女は顔を上げ、その目に僕の姿を映していた。


 (僕は……、)


 こと。絶対に失敗することの出来ない依頼。考えただけで精神にくる重圧は相当なモノだ。

 失敗しても次また頑張ればいい。そんなことは通用しない。失敗は最悪の結果が確定する。この間までやってたゲームのようにコンテニューは存在しない。

 僕は瞼を閉じた。頭の中では色々な未来けつまつが溢れ出ている。


 (…ダメだ。どの未来も)


 溢れ出る予測映像にバツを付けていく。

 ふと、頭の中で声が聞こえて来た。


 (……ああ、そうだよな)


 聞こえて来た声が誰のモノか分からなかった。がその声のおかげで僕は決断する。


 「ルナ。受けようこの依頼」


 瞼を上げ、真っ直ぐな視線をルナへ送る。

 僕の言葉にルナは一瞬、なぜ?と聞く様子を見せたがコクリと頷いた。


 「この依頼、私たちギルドも引き受けさせて頂きます」


 ルナは椅子から立ち上がり、未島さんたちに依頼を受けることを伝えた。


 「じゃ、俺も」


 ルナの隣に座っていた男性がルナの言葉に相乗りするように手を上げ、依頼を受けると口にした。

 この人は一体?最初の2人と同じ紺色の制服を身につけているから同じ職の人なんだろうけど。顔を見ようにもその人は帽子を深く被って分からなかった。


 「皆さん。ありがとうございます」


 ルナとその男の人に未島さんは頭を下げる。

 立ち上がっていたルナと紺色の制服を着た男性が椅子に座り直す。

 全員が依頼を受けることが分かったことで未島さんは、当日のイベントについて説明を始めた。

 イベントは、ちょうど1週間後に開催される新作アニメの試写会。

 開催時間は昼の1時。内容はイベント開始直後に最新アニメの1話を公開。アニメ放映後、成瀬さんをはじめとした数名のキャストや監督によるトークショー。終了時刻は2時から2時半を予定している。とのこと。


 説明を聞く限りでも予告犯が狙える隙は沢山あった。アニメ上映中の舞台裏やトークショーの際に客席からの乱入。それ以外にも様々なパターンが。


 (どうすれば…)


 イベントの進行内容に頭を悩ませる。


 「了解しました。1度支部に戻って、幾つか対策案を検討してみます」


 「よろしくお願いします」


 先ほどはやてと呼ばれていた紺色の制服を着た若い男性がそう言い、彼と彼が支部長と呼ぶ男性が席から立ち上がり移動を始めた。

 頭を悩ませてもしょうがない。対策を練るため未島さんに一声を掛け、僕とルナも仕事場へと動きだす。

 部屋を出る際、後ろから「よろしくお願いします」と未島さんの言葉を背に受け取る。

 僕の手が部屋のドアノブにかかる。その時だった。


 「あの!」


 その声に振り返ると成瀬さんが僕らの元へと歩み寄っていた。

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