断章 痕跡
花月橋の入口側で、黒塗りの車が一台止まった。
車から降りて来たスーツ姿の男が2人。バタン‼と、車の扉が勢いよく閉める。
「ひっろ!」
橋の下を見下ろした1人の男性が、おもわず口にした。
その言葉を発した男性の傍にもう1人の男性が近づく。口にくわえた煙草にポケットから取り出したライターで火をつける。
ぷは~。と灰色の煙が男の口から吐き出された。煙は風に乗り、隣にいる男の前を通り過ぎる。
「ちょっと先輩!煙!こっち来てます。あ~眼鏡が」
煙を散らすよう顔の前で手を仰ぎながら、空いてるもう片方の手で胸ポケットからクロスを取り出した。
かけていた眼鏡を外し、クロスで拭いていく。
「仕方ねえだろ。車ん中じゃ、吸えねんだから」
男は、正当な理由を口にしながらまた灰色の煙を吐く。煙は風に流され、また男の眼鏡を曇らせる。
かけ直した眼鏡が再び曇り、不満げな表所を出しながら再び眼鏡をクロスで拭く。拭きながら煙草を吸う男の反対側に回り込む。
拭き終えた眼鏡をかけ直し、クロスを胸ポケットにしまった。
「で、マジでここからアイツ探すんですか?」
眼鏡の男は、橋の下の光景を目にしながら煙草をふかし続ける男に聞く。
「そうだ。昨夜から海道灯のデバイス反応がここで止まっている」
煙草の男は、左腕に着けている腕時計型デバイスから空間に投影されているデータを確認しながら答える。
男たちの眼に映る橋の下の光景は、緩やかに水が流れる川。だが川の至るところには、大きな木の枝や粗大ゴミが固まっていた。
いつもは綺麗な花月川が、昨日の嵐で影響で一時的に水位が上がり、今ではこのありさまだ。
「上に頼んで川の整備時間ずらして貰ってる。とっとと見つけて、ずらかんぞ」
「了解」
煙草の男は、デバイスで投影していたデータを閉じ、橋の下の川へと降りていく。眼鏡の男もその後に続く。
「俺はこっち。お前はあっちな」
煙草の男が、後ろ指す。眼鏡の男は、指されたほうに向かって歩き出す。やがて位置に着き、お互いに川の中を捜索し始めた。
~数十分後~
「だぁー!見つかんねー!」
ひっくり返したゴミを背に、腰のベルトに脱いだ靴を紐で結び付けて捜索をしていた眼鏡の男が、声を上げる。同時に振り上げた手に付着していた泥が、眼鏡に飛ぶ。
「あ、眼鏡に付いた」
手に付いていた泥を一度川で洗い流してから眼鏡を外すと胸ポケットから取り出したクロスで、眼鏡のレンズに付いた泥を拭き始める。
捜索を始めてから一度も拭いていなかったため、眼鏡のフレームにも汚れが付着していた。
綺麗に拭き終わり、眼鏡をかける。
「お!綺麗に見える。やっぱ見えるってのは良いことだ…ん?あれは」
眼鏡を綺麗にし、見えるということに喜びを感じていたところだ。レンズ越しに男は、小さな光を目にした。
「あれって?もしかして。試してみるか」
男は、眼鏡のフレームに備えられているスイッチを押した。すると眼鏡のフレームから小さな光があったところへ一直線に赤い光が伸びた。
男が持つそれはただの眼鏡じゃない。眼鏡型に造られたデバイスだ。
男は、赤い光の線が差す先へ数歩進み小さな光の主を拾い上げた。
「ビンゴ!…だが」
男が拾い上げたのは、半分に割れた板状の機械だった。
デバイスだ。
デバイスには、通話を始めとした様々な機能があり、その中には見える赤外線とい機能がある。緊急時での機能なためあまり使用されないが、今回のこの男たちのように紛失したデバイスの捜索などで活用できる。ただデバイス間に障害物があると通信は機能しない。
「うんとも、すんともか。はぁ~、とりあえず戻るか」
割れたデバイスの動作確認するも反応は無かった。
男は、割れたデバイスを片手に煙草の男がいるほうへと歩き出した。
「先輩!見つけました」
眼鏡の男は手に持っていた割れたデバイスを煙草の男目掛けて投げった。
投げ出されたデバイスが空中で弧を描いた。
煙草の男は、落ちてくるデバイスを難なく片手でキャッチした。
「ん?これは」
男は、キャッチしたブツを確認する。
「デバイスです。恐らく海道のかと」
チャポン、チャポン、と川を大股で歩く眼鏡の男が、近づきながら予想する。
「ヤツは?」
煙草の男は、手にしたデバイスを観察しながら聞く。
「それがその状態ですし、流されたんじゃないんですか?」
割れたデバイスの液晶に男の顔が映る。
「……戻るぞ」
煙草の男は、デバイスをポケットに仕舞い車のほうへと歩き始める。
川から出て眼鏡の男は、腰に巻いておいた靴を履き直し車のほうへ歩く煙草の男の元へ駆け寄る。
眼鏡の男が横目に煙草の男を見ると、まだ口に煙草を加えていた。
「先輩。それ何本目すか?」
「…手」
眼鏡の男は言われるがまま、手を出す。
煙草の男は一度足を止めると、先ほどデバイスをキャッチした手とは逆の手を出す。その手に握られていたブツを差し出された手の平に置く。置き終えると煙草の男は、歩くのを再開した。
眼鏡の男の手には、くしゃくしゃにされた小さな紙製の箱が置かれた。
それを目にした眼鏡の男の頭の中で、一部の記憶が映像のように流れた。
「先輩?俺これ十二時間ほど前に綺麗なものを見た気がするんですけど。なんなら今日ここ来る前に残り1/4くらい入ってたの見たんですけど?」
「知らね」
少し離れた所から煙草の男が返事する。
その反応に眼鏡の男は、声に若干の怒りを乗せ、煙草の男の後を追う。
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