第10話 月が導く先

 アストレアに言われ、車の中で待つこと数分。

 車の扉が勢いよくガチャっと開く。戻ってきた彼女が、車に乗り込み運転席へ座る。


 「お待たせ!」


 「お帰り。少し長かったね?」


 会計を済ませるだけ。華さんたちと話しをしていたとしても戻ってくるのが少し遅いと感じた僕は、隣にでシートベルトを締めているアストレアに聞いた。


 「あ、うん、ちょっとね。…」


 言いかけたアストレアの言葉が止まる。

 気になったので、彼女の顔に視線を移すとアストレアは、すっごい嬉しそうな顔をしていた。


 「どうしたの?」


 「いや~なんか今の「お帰り」が嬉しくて、つい」


 エンジンが掛かりハンドルを握られた。やがて彼女にアクセルが踏まれ、車は前進する。


 「アストレアさん。これ…」


 「ルナ!そう呼んで」


 アストレアを呼び話の内容を口にしようとした時、それを遮るように彼女が言う。


 「…ルナさん。今これ何処に向かってるの?」


 「うん?私の家だよ」


 「家か。そうか。え⁉家?」


 運転してる彼女に再び視線を送った。

 赤信号が見え、車が一時停止する。さっきまで笑顔を見せてたルナは、真剣な表情を見せる。


 「灯くん。君の記憶は今すごく曖昧な状態なんだ。そんな状態の君を1人にすると何が起こるか分からない。関わった以上ここで君を1人にすることは、私には出来ない。だからこれから私と一緒に住んで貰います」


 いきなりのことで空いた口が塞がらなかった。

 一緒に住む?僕が?ルナさんと?

 予想していなかった情報が頭に流れて来た。頭を悩ませる僕を置き去りにするように、再度アクセルが踏まれ車が前進しだす。



 車が走り続けること数十分。

 スロープを下り、地下駐車場へと進み壁際のエリアに車が停車された。


 「着いたよ!」


 車から降り、ルナの後について行く。

 停車したところから少し歩くとエレベーターがあった。

 エレベーターに乗り込みルナが、タッチパネルで2階を押す。ゆっくりとエレベーターの扉が閉まる。

 チン!

 機械音と共にエレベーターの扉が開いた。

 エレベーターから降りると一直線先に1つの扉があった。

 扉の目の前に立つルナ。彼女は、ポケットから取り出したデバイスで扉の鍵を解除した。


 「さぁ、入って、入って!」


 「お邪魔します」


 ルナに手招きされ、僕は部屋の中へと足を踏み入れた。

 部屋の廊下を歩き、リビングのような部屋に着く。

 僕の後ろから歩いてくるルナ。部屋に入り、僕の前に彼女が立つ。


 「改めまして、私の名前はルナ=アストレア 今日からよろしくね」


 彼女は満面の笑みで、改めて僕に名前を名乗った。


 

 



 


 


 

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