第23話 『譲れない戦い』
「うわぁ~、すごい」
思わずため息が出る。
アリーナサーバー内には、近未来的でかっこいいベースエリア以外にも様々なコンセプトが存在している。水の都や空中都市、サイバーパンクなどから、各地域の伝統的な街並みを再現したものまで様々だ。
わたしたちはその中で、中世ヨーロッパを再現したエリアに来ていた。
「宮殿だよね? ものすごい豪華」
そびえる建物は汚れを知らない真っ白な外壁と金の装飾を太陽に見せつけて、堂々と建っている。
何部屋あるのかわからない窓の数と広すぎる庭園が、敷地面積をちょっとした学校よりも広くしていた。
「これは見事。庭の花々も無料のものだけでなく、課金アイテムや限定カラーのものまでありますね。互いが互いを引き立て合い、とても美しい」
「ふんっ!」
わたしたちがちょっとした興奮を覚える中で、ルーちゃんだけ過剰な猫背で周囲を睨んでいた。
目移りする庭園を進んでいくと、噴水が虹を描く開けた場所へ出た。
となりには大きな日傘と、テーブルと椅子。そして、優雅に紅茶を嗜む女王様がいた。
「ごきげんよう! ようこそおいでくださいました! 改めまして自己紹介を。わたくしが薔薇の女王、ルナ・ローズガーデンですわぁ!」
『ようこそ、お客人』
『歓迎致します』
『紅茶はいかがですかな?』
スカートをひるがえした派手な挨拶。リスナーの人たちも、親衛隊としての設定と世界観を忠実に守っている。
「急にごめんね、ルナちゃん。あの、今日は話が」
「まぁまぁ、このわたくしに立ち話をさせるおつもり? 遠慮なさらずこちらへ。お茶会をしながら、お話致しましょう? ひかるさん、カタナさん?」
ウィンドウを操作して出てきたティーセットは、二つしかなかった。
「……おいっ、露骨に無視すんな」
不機嫌を隠そうともせず、ルーちゃんが低い声で唸った。
「……あら、いらしたの? 小さくて見えませんでしたわ」
「ちょ、ちょっと」
止める間もなく、二人ともドスドスと近づいていった。
「貴女はお呼びでなくてよ。せっかくの庭園が犬臭くなってしまいますわ」
「はんっ! 好きでこんなとこ来てねぇよ」
「あら、でしたら帰ってけっこうですわよ? チーム結成はわたくしたちで致しますわ」
あぁ、また飛び散る火花が見える。
「……ふ~ん、断るんじゃなくてルーを排除するのか。必死だなぁ? どうせオリジナル・ウェポンとかリアルお嬢様に引かれて、だれからも声がかからねぇんだろ? 接点のある同期はみんなチーム入ってるもんなぁ?」
下からえぐるように煽るルーちゃんは、なんだかすごくイキイキして見えた。
「……どうしてピンポイントに傷を突いてくるのかしらねぇ、このバカパピィは」
ルナちゃんは平静を装って腕を組んでいるけど、たわわに実ったものがぷるぷると揺れて潜んだ怒りを教えてくれている。
「ひかるさん、カタナさん。貴女たちは問題ないのだけれど、この子犬がいけませんわ。他の方に致しません? シャルル・マルルさんとか」
「その話は終わってんだよ、ばーか」
「……仮にも話を持ってきたのはそちらでしょう。人にものを頼む態度ってのがわかっていませんわね?」
あ、マズい。ルナちゃん限界だ。
『女王陛下に無礼な』
『あ? ワンワン・ルーにそんなの関係ねぇよ』
『なんて品のない人たち』
『おれらのことか? なんて失礼な人たちでしょうザマスぅ!』
リスナー同士でも喧嘩が始まってるし、もうどうしたらいいの!
「お、落ち着いてくださいお二人とも!」
たまらずカタナちゃんが間に入ってくれた。
よかった。いつも冷静なカタナちゃんなら、この場も上手く収めてくれるにちがいない。
「こういうときは決闘です! 現実世界では禁止されていますが、ここはバトル・アリーナ。使わない手はないですし、口喧嘩よりもわかりやすい!」
ダメだ!
この子ってばバトルジャンキーだった!
「カタナの言う通りだな。んじゃ、ルーが勝ったら文句言わずに大人しくチームに入れ。あとルーを怒らせた罰金な?」
「いいでしょう。チームに入ることは認めて差し上げますが、わたくしが勝ったら敬意を払って敬語で接してもらいますわ」
「あ、あの、一旦冷静に」
「「バトルライブ・スタート!」」
有無を言わさず、二人のバトルが始まってしまった。
もうひかる知らないっ!
「お二人とも。互いのリスナーも白熱しておりますので、今回はパフォーマンス禁止とさせていただきます。ですが、どちらが勝ってもチームメイトになるのです。ここで後腐れなく、スッキリさっぱりさせてください!」
「なんでカタナちゃんまでノリノリなの……」
ステージは荒野。
障害物の少ないシンプルな地形で、スピード特化のルーちゃんにも範囲攻撃が得意なルナちゃんにもメリットがあるステージだ。
「いいぜ。こんなとこで群れの財布を減らす必要ないもんなぁ」
「こちらこそ、子犬相手にパフォーマンスは無用ですわ。わたくしのブロンズランク初戦、あのときのように圧勝で飾ってみせますわよ」
挑発的な高笑い。一方で、ルーちゃんは目を光らせてほくそ笑んだ。
「へぇ~、初戦ねぇ?」
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