第22話 『あとひとり』
「チームは最低四人から最大一〇人で組めるキュイ! 有名なとこだと、企業Vがユニット組んでそのままチーム登録してるキュイね。活躍に応じてチームボーナスがもらえるキュイ」
「ブロンズから導入されるチーム戦もやりやすくなる。ゲリラで組むとどうしても連携がとれないからな。また今回の我々のように、チームで声をかけてもらえることも多くなる」
グーリさんは意外に渋い声をしている。
「あ、あと、マイルームも部屋が増えるよ。大きなチームベースが拠点になるから、それぞれの展示とか、共有エリアでふれあいイベントとか。い、いろいろできる」
「まぁ、ベースの購入はそれなりにマニーがかかるけどねぇ。組むだけならタダだけど、ぶっちゃけベースがないとあんまりうま味はないかニャ~」
ビビりっぱなしのうさぎさんは、のんびりした子猫さんにまだ頭を撫でてもらっていた。
「ま、いろいろ言ったけどやっぱり一番は、ひとりよりも楽しいことキュイ! みんなとやれば配信にも幅が出るし、チームはいいものキュイ!」
「なるほど。私たちが組むとなると、あと一人足りないわけですか」
「うん、そうなるけど……ルー。きみはどうする?」
澄んだ瞳がルーちゃんを見つめる。惚気ていた顔が引き締まり、背筋がピンと伸びた。
「アタシがリーダーを務めるチーム・銀の牙の枠はあと一人。ルーを迎える用意はできているよ?」
胸を掴まれる気がした。
たぶん、カタナちゃんも同じだったんだろう。驚いた表情でルーちゃんを見ていた。
当たり前に、これからもルーちゃんはいっしょにいるんだと思っていた。でも、冷静に考えればぜんぜん当たり前じゃない。
だってわたしたちを繋げたのは、ルーちゃんが抱くユキノさんへの憧れ。
わたしと出会うずっと前から育んできた、大切な気持ち。
ルーちゃんと離れるのはものすごく寂しい。けれど、その選択を止めることはできない。そんな資格、わたしにはない。
「……せっかくだけど、お断りします」
絞り出した声は小さく震えていた。
『マジで?』
『最初は入りたいって言ってなかった?』
『ユキノ様に憧れてVになったのに?』
群れの人たちも驚いている。
けれど憧れの人と向き合う目はまっすぐで、とてもかっこよかった。
「いいのかい? 他のVが入ってしまうよ?」
「はい。ルーはお姉さまのチャンネルのリスナー、牙団員だったらそれでいい。ルーはいつか、ユキノお姉さまと戦いたいんです。チームの一員として守られるんじゃなくて、一人のライバルとして。ルーが成長した姿を、強くなった姿を見てもらいたいんです!」
周りの喧噪がよく聞こえた。
見つめ合っている二人の間に、どんな想いが交わされているのか。わたしには知りようがない。
「……わかった。強くなったね、ルー」
優しい瞳から深い母性が滲み出ていた。
「はい! でも、もっともっと強くなりますから!」
ユキノさんとルーちゃんは固い握手を交わし、お互いをライバルとして認め合った。
感動的な場面を前に目頭が熱くなった。
お世話になった先輩たちに別れを告げ、いろんなモフモフの背中を見送った。
「さっ、これから忙しくなるぞ! まずは」
「あの!」
ルーちゃんの声を遮った。今きっと、気持ちを切り替えようとしたはず。
でも、言わずにはいられない。
「ルーちゃん、カタナちゃん。わたしとチームになってください! わたしは二人といっしょにもっと強くなりたい。配信もしたいし、もっともっと楽しいことをしていきたい。だから、改めてよろしくお願いします!」
雰囲気や流れに任せちゃダメだ。
わたしたちが次へ進むなら、ちゃんと言葉にしないといけないんだ。
「……当たり前だろ。そっちこそ、あとから嫌って言っても遅いからな」
顔を上げると、気恥ずかしそうに顔を逸らす子犬少女がいた。
「私としたことが礼節を失念していました。こちらからも改めて。チームとして共に歩んでいきましょう、お二人とも!」
カタナちゃんが手を取って、三人がひとつに繋がった。
「こ、ここで盛り上がっても仕方ないだろ! あと一人入れなきゃ、チームも作れねぇんだから!」
照れ隠しで大きくなった声がかわいい。
「そうですね。闇雲に誘うわけにもいきませんから、なにか判断基準を設けませんか?」
「うーん、わたしたちの同期はどうかな? 頂上戦のだれかとか」
「それいいな。チームのコンセプトとしても売りにできる」
三人で近くのベンチに座って、ルーちゃんのウィンドウを覗き込んだ。
「暁明は……既存の中華チームに入ったか。料理系Vのチームみたいだな」
「万丈殿かスターバイン殿はどうでしょう?」
「こんな美少女ばっかのとこにオッサン入れてどうするよ! それにダンナはもう自分でチーム立ち上げてる。銀河警察も入って……だぁー! シャルル・マルル取られたかぁー!」
名前が上がるVたちは、すでに行動を起こしていた。
ルーちゃんが頭を抱えてカタナちゃんが唸る中、わたしは小さく手を上げた。
「あのぉ、わたし誘いたい人がいるんだけど……」
「だれだ?」
ここまで名前が上がらない理由はわかる。
だけど彼女なら、実力も人気も申し分ないはずだ。
「ルナちゃん」
カタナちゃんは「おぉ!」と手を叩いて目を輝かせてくれた。
ルーちゃんは案の定、嫌悪感丸出しの表情になった。
「……ひかるが連絡取れ」
なんとか絞り出した声は、強い歯ぎしりの隙間から漏れ出ていた。
ウィンドウを操作して、真新しいフレンドの名前をタップする。
「ごきげんよう、ひかるさん! わたくしになにかご用ですか?」
響き渡ったテンションの高い声が、通行人の足を止めた。
同時に、ルーちゃんの歯ぎしりがさらに強くなった。
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