第14話 『結果発表!』

 勝者、ワンワン・ルー!

 勝者、海月カタナ!

 

 ワールドクロックは深夜を、高らかなアナウンスは二人の勝者の名前を告げた。


 連戦を戦い抜いた二人は宣言通りの全勝で終えてみせた。

 アリーナカフェのテラス席に集まり、みんなで健闘を称え合う。もちろんコラボの枠で配信中だ。


「二人ともお疲れ様! すごかったよー!」

「ありがとうございます」

「さーて集計に入ったな。カタナは余裕だろうし、ルーも他が大番狂わせしてなきゃ大丈夫なはずだ。ひかるは……正直ギリギリだろうなぁ」


 ルーちゃんの尻尾が小さく揺れた。


「でも、やれることはぜんぶやったもん。わたしひとりじゃ、今月に一〇〇位以内だって目指してなかっただろうし。どんな結果でも後悔はないよ!」


 嘘なんてない心からの言葉だった。

 アリーナデビューがこんなにも劇的で刺激的なものになったのは、他でもないルーちゃんのおかげ。こんなにも楽しくて充実してたのは、間違いなく二人のおかげだから。


 だからもし頂上戦に残れなくても、全力で二人を応援するんだ!


「そっか……ランキング集計発表までの生配信! さくらメイトも群れたちも友クラゲも、運命の瞬間までいっしょに過ごしてくれよなっ!」

『もちろん!』

『遠吠えの準備完了!』

『いい結果をお待ちしています』


 どのコメントからも、わたしたちに負けないくらいの緊張が伝わってきた。


「来たっ!」


 ウィンドウの通知がやけに大きく見えた。

 思えばそれぞれで見ればいいのだけど、つい三人でルーちゃんの画面を覗き込んだ。


《ルーキーランク最終結果》

 一位、ルナ・ローズガーデン

 二位、海月カタナ

 三位、シャルル・マルル

 四位、ロード・オブ・グロリア

 五位、万丈気炎

 六位、ワンワン・ルー

 七位、暁明シャオミン

 八位、超銀河警察スターバイン

 九位、キャット・アワー

 十位、桜色ひかる……


 自分の目を疑った。

 何度も何度も見ているうちに、涙で視界が歪んできた。そのうち堪えきれなくなって、胸の中に膨らんだものを放りだした。


「「「やったー!」」」


 三人同時に満点の星空へ叫んだ。

 握手をして抱きしめ合って、ルーちゃんなんて頭を撫でてほっぺにキスまでしてくれた。


「と、とろけるぅ」

「馬鹿っ! お、お祝いのテンションでやっただけだ! 二度としてやらねぇ! でも……よくやったぁ!」

「えぇ、本当に。全員トップテン入り、本当にめでたいです!」


 コメントもお祭り騒ぎで、スパチャが見たことないほど飛び交った。

 慌てるわたしと煽るルーちゃんのとなりで、冷静なカタナちゃんが止めなければすごい額になっていたかもしれない。


「みなさん落ち着いてください。本番はこれからのはずです。頂上戦の組み合わせを見ましょう」

「そうだった。金に目がくらんで忘れてた」

「ルーちゃん、いつかBANされても知らないよ?」


 再びウィンドウに注目して、対戦相手を確認する。


《海月カタナVS超銀河警察スターバイン》

「名前も見た目も強者の予感。気合いを入れなければいけませんね」

「そうか?」


《万丈気炎VSワンワン・ルー》

「万丈のダンナか。相手にとって不足はねぇ!」

「がんばって、ルーちゃん!」


《ルナ・ローズガーデンVS桜色ひかる》

「えっ」

「あっ」

「うーわ」

 

 盛り上がっていた気持ちが一気に冷えた。

 よりによって一位の人と!


「あ、あの。わたし、この人のこと詳しく知らないんだけど。どんな人なの?」

「ルナ殿ですか。一位の座に相応しい実力です。私も一度敗北しましたし」

「カタナちゃんが?」

「はい。パフォーマンスを使わないまま押し切られました」


 血の気が引いた。カタナちゃんを相手に、パフォーマンスを使わずに勝つ人がいるなんて。


「ルーは認めねぇ」


 不機嫌な顔のルーちゃんが、軽蔑の視線をウィンドウに向けていた。


「こいつが今のルーキーランク一位だなんて、ルーは認めねぇよ。カタナみたく素が強いわけじゃない。金にものを言わせてるチートヤロウ。見た目も中身もいけ好かねぇ、自称薔薇の女王だよ」

『気持ちはわかるけども』

『言いすぎで草』

『デビューしたての頃に完封負けしてるからなぁ』


 リスナーからも衝撃的な情報が届けられた。

 ルーちゃんが一撃も与えられなかったって、どういうことなの?


「とにかく!」


 嫌な記憶を思い出させたリスナーを叱り飛ばして、ルーちゃんがわたしの肩に手を置いた。


「やるからには絶対に勝て! ルーが持ってる情報ぜんぶやる! ぶっ倒せ!」

「そうですね。私たちの仇討ちをしてもらましょう」


 夜に映えるドレスがふわりと揺れて、カタナちゃんも微笑みかけてきた。


「ガ、ガンバリマス」


 大きすぎる二つの期待から目を逸らし、開かれたままのウィンドウを見つめた。


 自信に満ち溢れた高笑いが、今にも聞こえてきそうだった。

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