第10話 選択
ヨハン・シュトラウス2世の「どうぞごひいきに」でパーティは締めくくられた。
デイヴィッドと僕は別室のバーでスコッチを空けながら、今日のこの時について語り合った。
「ここに来て、パーティに出席して良かったよ」
デイヴィッドはほのかに頬を紅潮させながら熱っぽく語った。
「そうか、それは誘った甲斐があったというものだ」
僕は素直に返事をした。
「これからの人生を考える上で、いるものといらないものがはっきりしたんだ」
「そうか、例えばどんな?」
「先ず、華美な装飾はいらない。美しい物が身の回りにあるのは良いが、数式のようにシンプルである方が好みなんだと気が付いたよ。装飾の為だけに存在するものは、僕の興味をそそり得ない」
「それを僕の前で言うのかい?我が家に対する冒涜としか捉えられないのだがな」
僕は苦笑した。
「すまない。でもジョナサン、君だってわかっているんだろう?」
デイヴィッドの問い掛けに僕は無言で答えるしかなかった。
「それは置いておくとして、食事や音楽、その他諸々。少人数の招待客に絞り、調査に基づいて徹底的にサービスしていく。男爵の段取りは完璧、且つ、素晴らしいものだった。あれは見習わねばなるまいね」
「ありがとう。父にはデイヴィッドが喜んでいたと伝えておくよ。ところで、いらないものの想像はつくんだけど、いるものに区分されたのは何なのか、教えてもらっても良いだろうか?」
僕の問い掛けにデイヴィッドは笑みをつくった。
「いずれわかるよ。それよりも、君の父上には研究者になると言ってしまったんだが、別の道を模索することになるかもしれない。それには君のアドヴァイスが必要だ。これからもよろしく頼む」
カラン…。手にしたグラスの中で、氷の音がした。それを潮に彼は立ち上がった。
「では、酔っ払ったから今日はもう寝ることにするよ。良い晩を」
ただ一人の友人は僕を残して部屋を出て行った。
デイヴィッドが欲しいと思ったものについて、僕には想像がついていた。妹のニカが彼に手を差し出した瞬間の、彼の瞳に起きた変化を僕は見逃さなかったからだ。そして、我が父が早々と背中を向けたことによって見落とした事象にも僕は気が付いていた。そう、ニカの瞼は義務をこなすだけの普段のダンスの時よりも、わずかに広く見開かれていたのだった。
さて、格の違いを見せつけて単なる小道具に仕立て上げるつもりの父と、それをきっかけに新たな道を選ぼうとし始めた友人。僕の前にも先の見えない二つの分かれ道が現れた。どちらを選ぶべきか、己が年齢の1.5倍の長きに渡って熟成されたラフロイグの香りを味わいながら、僕は考え続けた。
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