第3話 接触

 ビュッフェでトースト、そして、ソーセージとスクランブルエッグを受け取り、デイヴィッドは食堂の席に着いた。

 昨日は脳内実験の最後で邪魔が入り、想定していた目標に到達することができなかった。19年間の人生で初めてと言えることに、デイヴィッドがやや不機嫌な表情で黙々と食事を進めていると、彼の手元が暗くなった。何事かと顔を上げた彼の眼前には、片手に皿をもう一方の手にはコーヒーを持って不機嫌の元凶が立っていた。

「デイヴィッド・ライフィールド君、昨日は痛い思いをさせてすまなかった」

軽い笑顔を口元に張り付けて、こげ茶色の髪と同じ色をした瞳を持つ男は言葉を発した。

「君は昨日に続いて二度目の邪魔を僕に対してするつもりなのかな?」

いつもの皮肉、思考の妨げになりそうな対象を追い払うための決まり文句を発したデイヴィッドだったが、意に反して、相手はデイヴィッドの正面に皿を置き、席に着いた。

「トースト、ソーセージ、スクランブルエッグか。校内一有名な君にしては少し侘しい気がするんだが、節約しているのかな?野菜は食べた方が良いぞ」

そう言う相手の皿は主に穀物と野菜で占められている。宗教的戒律を持つ人間特有の選択をデイヴィッドは見て取った。

「炭水化物、タンパク質、脂質をバランス良く取っているだけだ。特に卵は毛細血管を新鮮に保ち、思考を柔軟にするのに役立つ。他人にとやかく言われる筋合いはない。それはともかく、僕は邪魔をするなと言ったつもりだったんだが、君には理解できなかったかな?」

「僕は君に痛い思いをさせた。それは謝る。だが、最初に邪魔をしたのは君だよ」

「は?何を言っているんだい?僕の脚に躓いて思考実験を中断させたのは君じゃないか?」

デイヴィッドは人生で初めて、思い通りにならない相手を前にしていることに気が付き、苛立ちを覚えた。

「君の立場からしたらそうなのだろう。だが、そもそも僕の通り道を塞いでいたのは君のその長い脚だ。だから最初に邪魔をしたのは君の方なんだよ。そのことを咎めることなく、痛い思いをさせたことに対して謝意を示している僕の方が、どうやら人間としての器が大きいようだね」

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