螺旋

北澤有司

第1話 人口限界

「人口限界が近づいています」

 息をのむ聴衆を尻目に、その男はモニターに映し出されたグラフの上昇曲線を指し示しながら饒舌に話し続けた。

「世界人口の増加率を下げなければなりません。人類の発展が今のまま続けば、我々が暮らすこの星はいずれオーバーヒートして、人が住めない環境になってしまいます。出生率を下げ、将来的には人口をコントロールする必要があります」

一呼吸おいて、男は最後のセリフをゆっくり吐き出した。

「地球はあなた方が思っているほど大きくはないのです」

世界最大級の企業経営者にして世界有数の資産家と言われるその男が話を終え、聴衆による万雷の拍手が後に続いた。


 テレビの真ん前でその放送を聞いていた少年は、一人呟いた。

「何を言っているんだ、この人は。それならば地球を大きくすれば良いだけじゃないか。僕がやってみせる。僕なら、…できる」

廊下を挟んだ隣の部屋から声がした。

「デーヴ、おやつよ。あなたの大好きなドーナッツを作ったわ。キッチンに食べにいらっしゃい!」

大好物であるクルーラー型菓子の名前が挙がったのにもかかわらず、テレビ画面を凝視し続ける少年の耳に、母親の呼び声が届くことはなかった。

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