第40話 神クラスの奴隷商人なので、最高の奴隷達と大災害を発見します!
「いない……」
夢の中で謎の骸骨仮面から言われた言葉。
― コリーを、助けて ―
サクリの街で出会った物乞いのコリーを探しに昨日と同じ場所に向かったけれど、コリーはいなかった。
いや、コリーどころか、物乞いの子達が一人も……。
「イレド様、そのコリーという娘はどこかに移動している可能性は?」
「ゼロじゃない。だけど」
ヴィーナの言葉を聞きながら僕はどこかで無事に居る事を祈る。
だけど、
どうしても、コリーを探さなきゃいけない。
そんな気がして、僕は徹底的に周辺をみんなと探し回る。
だけど、いない。
一体どこに? 何の当てもなくどこかへ行くような子だとは思えない。
「おお、昨日の兄ちゃんじゃねえか」
声を掛けてくれたのは昨日の屋台のおじさんだった。
「おじさん、朝も仕事を?」
「まあ、飯時は全部店を出すようにしてんだよ。ちょっとでも稼がねえと。って、ああ、そうそうあの昨日の赤毛の子から伝言頼まれてたんだった」
コリーから?
「『奴隷としてみんな纏めて買ってくれる優しい人が現れて、すぐに出ないといけないから、話出来なくてすみません』ってよ! よかったよなあ、奴隷とはいえ、買ってくれるヤツが現れて、あとは少しでもいい待遇でありゃいいんだが……」
奴隷。
物乞いよりはいい暮らしの可能性はある。だけど、何故あんな幼い子達を? コリーだけならまだ分かる。だが、小さい子を育てるほどの余裕のある奴隷商人がこの辺にいるのか?
起きるとしたら何故? そして、コリーを助けてという言葉がなぜ奴隷神図が書き換わるきっかけになったのか。
コリーと大災害に何の関係が? 彼女達のギフトはそこまで特殊なものではなかった。
ダンジョン。
ダンジョン? 何故今思い浮かんだ? ダンジョンがどうした? サクリの街でダンジョンの話と言えば、Bランクダンジョンが、魔物がいなくなってDランクに落ちた話くらいしか……。
……何故、魔物がいなくなった?
何故?
何故?
何故?
「イレド様。イレド様は、一人ではありませんよ」
ヴィーナに声を掛けられハッと気が付く。みんなが心配そうにこちらを見ている。
一人で考え込みすぎてた。
僕は、一人じゃない。
僕には
僕の言葉を聞いてくれるみんなが。
「ごめん、ラブ、リオ、ビスチェダンジョンから魔物がいなくなる理由は何だと思う?」
「第一に、冒険者達が間引きで狩り過ぎることです。過去の記録からおよそ6割がこの理由です。第二に、何かしらの原因によるダンジョン自体の魔力枯渇。3割。他にあり得るのは、魔物自体が何かに怯え隠れて出て来なくなる事でしょうか」
ラブの記憶力はとてつもない。たわいもないような事も覚えていてくれる優しい子だ。
「そうだね、魔物を狩りすぎることはあると思う。ただ、その場合は、ある程度待てば生まれてくるけどね」
「ダンジョン自体の魔力枯渇は特殊な個体が生まれるか地震によってダンジョンの魔力の流れが変わるのが原因だろうけど。そこまで大きな魔力の流れがかわった感じはないわね~」
リオの経験談は重要だ。そして、ビスチェは魔力視点での意見をくれる。
「ジェル、アリエラ、キヤル、アクア。子供の奴隷の使い道って何がある?」
「う~ん、アタシは流石にこれは反対だけど、特殊な性癖カナ」
「残念ながら、弱者に暴力を振るう為に買う人間もいます」
「育成機関で特殊な教育を施すのであれば、幼い頃から買う可能性はありますが、能力次第です」
「売りたい人はいっぱいいますが、買いたい人はあまりいないと思います」
それぞれが奴隷として暮らしていた子達の意見。
どれもあり得る話だけど、どれもピンとこない。
「あの、主殿」
サジリーが手を挙げて発言許可を求める。
「なに、サジリー」
「この話も、大変醜悪で主殿の耳に入れるのも憚られるのですが……生贄の可能性もあります」
生贄。
何かの代償に?
「古き時代には、奴隷を集め、殺し、こぼれ出てくる命の魔力で何か大きな魔法を使おうとしていた例はいくらでもあります」
「命の魔力か……死んだら人が軽くなる。そこには目に見えぬ臓物、魔臓があって、そこに溜めていた魔力が全て失われるからとは言われているが」
スコルがもじゃもじゃ頭を掻きながら思考を走らせる。
「けど、今はそこがポイントちゃうやろ。もし、その子達が連れ去られたとしたらどこにおるか、や。勿論、それを知る為にも理由は考える必要はあるけど」
ティアラもせわしなく歩き回り、考えを深めている。
「イレド様、もし、本当に彼女達が奴隷になったとしたら、イレド様のスキルで探すことは出来ませんか?」
「あ……」
可能性はある。僕のスキルは奴隷特化型だ。
もし、彼女達が奴隷契約を結んで奴隷となっているのなら……。
「ビスチェ! 僕を空に連れて行ってくれ!」
「はい~!」
雲に乗ったビスチェに抱えられて僕は空高く宙を舞う。
「広く広く視るイメージ……。神スキル【
僕はいつもの詳細な情報を見るための狭く深く視るやり方ではなく、広く浅く視る方法で、サクリの街を視る。
「え……?」
「どうされました~? イレド様」
「ちょ、ちょっと待って」
動揺する心を押さえながら周辺を見回す。すると、北に奴隷が、居た。だけど、
「ビスチェ、下りて! すぐに!」
「は、はい~!」
ビスチェの急降下で地面に降り立つ。
僕の視たものを聞こうとみんなが集まってきている。
「奴隷が、いた……」
「え? あ、ああ、まあ、それはそうだよ、ご主人様。ボクも昨日見たよ。ここサクリでも」
「違う……ここには。なんで、こんなにいっぱい? リオ! 僕を連れて北へ向かって!」
「え? う、うん! わかった!」
リオは僕の剣幕にびっくりしながらも僕をのせようと屈んでくれている。
「イレド様!」
「止めるな! 行かないと!」
「止めません! ですが、冷静になってください。話は移動しながら聞きます。急ぎであれば、サジリーとリオ、アクア、キヤル、機動力のある奴隷を向かわせますので。まずは、冷静に」
みんなが、僕を心配そうに見ている。
そうか、そうだよね。また、一人で突っ走るところだった。
違うだろ、僕にはみんながいる。
「わかった……ごめん。だけど、時間がないのは本当だ。一旦状況を移動しながら説明する。リオやっぱり頼むよ! 北の洞窟に向かう!」
「うん、乗ってご主人様!」
申し訳ないけど、僕の足ではみんなに敵わない。リオに運んでもらう。
「ラブ、私をお願いします。アリエラはビスチェが、ティアラをキヤルお願いします! サジリー、アクア、ジェルは先行できるように前に! さあ、向かいましょう!」
ヴィーナの指示で流れるように準備が始まり、足が遅いチームは背負ってもらって僕達は動き出す。
「お、おい! 兄ちゃん! 大丈夫か!?」
屋台のおじさんが何がなんだかという顔でこっちを見ている。
近くの街で起きた大災害で家を失った親戚を預かって頑張って働いているおじさん。
この街には家族を、仲間を守るために、必死になって戦っている人がいっぱいいるんだろう。
守らなきゃ。
「おじさん! 大丈夫! 絶対大丈夫だから!」
「……分かった! 終わったら串食いに来いよ! うまいの用意しとくからよ!」
僕はおじさんのその言葉にちょっと笑って、そして、お別れした。
「で、イレド様どういうことでしょうか?」
ラブに背負われながら聞いてくるヴィーナ。
何人かは背負っているにも関わらず僕が走るよりも断然早い。
勿論、スキルのお陰もあるけど。
奴隷達の走力、脚力や持久力を高めるスキル。
それを掛けた奴隷達は軽快に駆けている。
「まず、北の洞窟に、異常な数の奴隷が居る」
「子供たち、だけではないのですか?」
「サクリの街も視てみたんだ。そしたら、奴隷がほとんどいなかった」
異常なレベルだ。それこそ、昨日、ほとんど真っ直ぐ宿に向かっていても、何人も奴隷を見かけた。なのに、さっきは家の中にいる奴隷が十数人程度だった。
多分、連れていかれている。
「そして、居ないといえば、魔物の居ないダンジョン。でも、居ないんじゃなくて、隠れてるんじゃなくて、隠されている、もしくは、押し込められているとしたら?」
「え? 何の為に?」
僕を乗せたリオが聞いてくる。普通ならあり得ない。何の得もない意味の分からない行動だろう。
「ただ、押し込められた魔物はそこでどんどん増えていく。そして、もし、仮に、生贄を使った魔法が魔物を呼び出す召喚術だったとしたら」
魔物自体を増殖させ、さらに、魔物を呼び出せば一気にダンジョンは飽和状態になり、恐慌に陥るだろう。そうなれば、魔物達は外へと飛び出し、餌である魔力を持つ人間へと向かうだろう。
「人為的
「そもそも、
「去年のも意図的に起こしたっちゅうわけか……」
これは飽くまで現状を見て立てた予測だ。
だけど、これは……!
「ご主人様! 洞窟が見えたよ!」
「突入する! 先頭はサジリー! 極力戦闘は回避! 奴隷の保護が優先! だけど、みんなが僕は一番大切だ! 命は大事にしてね……」
そう言うと、みんなは優しく笑ってくれたけど、誰も返事をしてくれなかった。
僕だってそうだ。
それでも、コリー達が理不尽に命を奪われるのは我慢ならない!
そして、みんなを犠牲になんかしたくない!
我がままでもいい! 僕は夢を見るんだ!
絶対に助ける! その為に、生きるんだ!
「聞け! 命令だ! 絶対に助ける! そして、助かれ! 死んだら絶対に許さない!」
みんなの瞳に強い意志が宿ったように見える。
生きよう、みんなで、
「行くぞ! みんな!」
「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」
僕達の命を懸けた戦いが、始まろうとしていた。
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