第34話 神クラス奴隷商人の万能女中奴隷なので、王宮夜会を潰そうとしたイビリメイドは美しくなく葬られます!
【ミレイ視点】
「ミレイ、お前が今度、兄上主催の王宮夜会でリーダーとしてやっていくそうだな」
見知らぬ男に連れられて、色んな所に連れ回されながら辿り着いた場所には第二王子がいらっしゃった。
「はい、仰る通りです。デュオ様」
「よくここまでやってくれたな。闇魔法の使い手であるお前には期待していたが、まさか、ここまでのし上がってくれるとは」
王や兄であるネオ様と同じ美しい金髪にも関わらずだらしのない醜い体つきをしたデュオ様がいやらしく笑いながらこちらを見ている。気持ちが悪い。だが、わたしのとっては使いやすい豚だ。
「お褒めに預かり光栄です」
「そこでだ、俺は兄上を困らせたい」
なるほど。
「王宮夜会を滅茶苦茶にすればよろしいので?」
「物分かりの良い女は好きだよ。やれるか?」
「勿論。お任せください」
わたしのギフトの一つは【闇魔法使い】だった。
そう高くないギフトだったのだが、【女中】と合わせれば、色々出来ると考えていたのだけど、わたしは間違っていなかった。
闇魔法には【洗脳】というスキルがある。
けれど、わたしのランクでは使いこなせない。
だからこそ、警戒されずメイドになれたのだが、わたしはこれを生かす方法を思いついた唯一の女だった。
噂話を流しながら弱い洗脳を一緒にかける。すると、うっすらではあるが、相手の心の中に入り込み噂話を信じるようになる。
ライバルを落とし、自分をよく見せるよう噂を流していくと、他の馬鹿な女中達は洗脳されて、どんどんわたしはなり上がっていった。
第二王子も都合のいい男だった。
第一王子には効かなかった洗脳が、第二王子には少しではあるが効いたのだ。
これで第一王子を落とし、第二王子が王位を継承するようにでもなれば、わたしはとんでもなくなり上がれるだろう。美しい服をきて、美しい宝石で飾り、優雅に過ごす。
これはその美しいわたしが本来いるべき場所へ行くための儀式のようなものなのだ。
なのに、厄介な女が現れた。
どこからか呼ばれてやってきた女中教育係の女。
こいつには何故か洗脳が効かなかった。
包帯だらけの不細工の癖に、あの言葉遣いを直せ、マナー違反を直せといちいち五月蠅い。
その前に顔を治してきなさいな。
そして、第一王子はあの女にも王宮夜会に参加するよう促してきた。
何故? リーダーであるわたしの意向を無視して?
教育係だから王宮夜会に関する提案を受け入れろと第一王子が言ってくる。
こんな醜い女の提案がいいはずがない。だけど、今疑われるわけにはいかない。
くそ。
汚い汚い汚い女だ。何か汚い手を使って、取り入ったに違いない。
だけど、わたしは思いついたのだ。
あの女にも第一王子にも恥を曝させる方法を。
洗脳を利用して、王宮夜会担当のメイド全員を当日体調不良で休ませる。
包帯女の噂と、お茶で調子を悪くしたようなわたしを見て、メイド達はみんな自分も体調が悪くなった気がしてきたようだ。馬鹿な子達。
そして、それを伝えた時のあの女の声。傑作だったわ。
表情は分からなかった。だってぇ、包帯まみれだもの。
********
「い、一応、城の方に事情は話し、他の女中が来てくれます。だけど、他の女中は急遽で。今夜のメニューやプログラムもさっき確認したばかりで」
どういう状況になっているか様子を見にいくとあの女が主らしき男に言い訳をしていた。
しどろもどろになっている。あれだけ偉そうにしていたあの包帯女が。
こみあげてくる笑いが堪えられない。
わたしは近づいて、包帯女に声を掛ける。
「大変ですわねえ~」
わたしは、今たいへんなんですよーとお腹をさすりながら、包帯女を見下ろす。
「まあったく、どっかのメイドのせいで、せっかくの王宮夜会が失敗に終わってしまいそうですわね~。偉そうにいちいち色んな事を指摘してくるから~、その心の傷も身体に響いているのかもしれませんわね~」
ああ、気持ちいい! 不細工の癖にしゃしゃり出た女がビクリと震えている!
「まあ、でも、立派な完璧なメイドの先生がいらっしゃいますので、なんとかなるとわたくしは信じておりますわ~。まあ、その顔で王族貴族の前に出られるなら、ですが」
「……!」
わたしがそう言うと、包帯女はぐっと身体を強張らせて拳を握りしめている。
あはははは! あれだけ偉そうにしていたあの女が! 何も言えずに俯いている!
気持ちいい! 気持ちいい! ああ、気持ちいい!
わたしは笑わないよう、声で紛らわせる。息が苦しい。
「ああ~、おなかがいたいたい。早くお医者様に見て頂きませんと」
「ほう、丁度良かった。私は医者だ。みて差し上げようか?」
そんな声が聞こえる。見れば、包帯女の主の向こうに、もじゃもじゃの女。
「へ……?」
「心配いらない。私はこれでも、医療大国ディクラ一の医者と言われていた。腕は確かだよ」
何この女。
顔は、美人と言えば美人かしら。まあ、不潔なようですけど。
ってそれより、医者! しかも、あの噂に名高い医療大国ディクラの!? しかも一番!?
こんなもじゃもじゃ女が!?
いや、それより、仮病だとバレたらまずい!
「え、ええと、でも~」
わたしが理由を考えている内に、スコルと呼ばれていた女がわたしの身体に魔力を奔らせ始める。まだ何も言ってないのに、失礼な女ね!
けれど、これで異常が見つからなければ……どうなる……?
そ、そんなことがあるものか! こんな不潔女の診断なんて突っぱねればいいのよ!
「ふむ、確かに、これはお腹のあたり、よくないな」
「で、でしょう!」
あは、あーっはっはっは! やはり、あの女の仲間は同じね!
馬鹿で間抜け! 仮病よ! 仮病! それが見抜けないなんて!
「薬を飲んだ方がいいね、何かいい薬はあるかい? ティアラ君」
え? 後ろから小さな女が現れて道具袋から高級そうな袋に入った薬を取り出す。
ううん、綺麗な刺繍の入った袋ね、いいわね。
そんな事を考えていると、ティアラ? というチビ女がすすめてくる。
なに、この女、人なつっこい感じがして嫌いだわ。男に媚びるタイプじゃないかしら。
「これなんかどやろか? 東洋から伝わる高級薬! 今日はアンタみたいな人と知り合えた記念や今回はタダにまけたるさかい、今後ご贔屓に頼んます!」
「え、ええ、ええ! 分かりましたわ。おほほ、いい香りで飲みやすそうなお薬ですね」
袋ごと渡される。
こんなに綺麗な袋まで一緒なら突き返すのも申し訳ないわよね。
こういう綺麗な袋はわたしの元にいた方がしあわせでしょうし。
「あ~、よければこのお水をどうぞ~」
いつの間にか、もう一人女がいて、水を持って立っている。
びっくりして受け取ってしまう。
「さあさあ、体の不良は早めに治すのがいい。飲みたまえ、ほらほら、悪いんだろう?」
お水と薬。
まあ、薬であれば、飲んでも大丈夫でしょう。
こんな馬鹿女共なら薬飲んだから治るーとか考えて、それでどっか行くでしょ。
「あ、じゅ、準備がいいわね。では、いただきますね、おほほほほ」
わたしは、薬を水で流し込む。
そういえば、この水をくれた女も、『わたし普段ぼーっとしててぇ』とか言って可愛がられそうな感じだ。いやな女。絶対嫌われている。
「……んぐ、あら、お水も薬も飲みやすくて、美味しい…………」
今まで頂いた色んな薬の中でも一番といっていいくらい飲みやすいものだった。
ふふふ、やっぱり馬鹿女共ね。わたしの仮病に騙されて、治ったと更に騙されればいいわ。
「ありがっ……はが! あ、あ、あああああ!」
突如として襲ってくるお腹の痛み。
お腹がぐるぐるする。いや、本当にぐるぐるしているような気がする!
なに、これ……!
顔がとてつもなく強張っている気がする。
きっと殿方には見せられないわような顔になっている!
あの包帯女の主は別よ。対象に入らないわっ……て!
ぎゅるぅうううううううううううう!
あ……よろしくない。これは、よろしくないわ!
淑女としてあり得ない大事故が起きてしまう。
どこかで用を、たさないとぉおおおおおお!
わたしは必死にお尻に力を入れて走り出す。
お尻に力をいれているせいか、ひどい内股で不細工な走り方をせざるを得ない。
あの、クソ女共ぉおおおお!
覚えていろ! あああ、クソ!
そして、わたしがようやく動けるようになったころには、もう王宮夜会は始まっていた。
「ま、まあ、あの状況であの包帯女なら、どうやっても貴族達は騒ぐだろうから、問題ないでしょ」
わたしはそう思って自分の部屋に戻ろうとすると、第二王子の取り巻きの方がいらっしゃる。
「おい! 貴様! どういうつもりだ?!」
「え? ちょっ……ちょっと!」
男がわたしの服を掴んでぐらぐらと揺らす。
「王宮夜会は今までになく盛り上がっているぞ! お前、ちゃんと仕事をしろ!」
「い、いえ、わたしは……わたしは仕事をしました! あの状態で王宮夜会なんてあの不細工にできるはずがありません!」
「……! じゃあ、自分の目で見るがいい!」
髪を掴んだまま、連れていかれる。
こんな乱暴なやり方で……! 何がなんだかわからない!
この男は何を言ってる!? 王宮夜会が開かれている?
盛り上がっている?
そんなはずはない。
何が起きているの!? というか、この男、本当に女の扱いを分かっていないわね!
絶対にモテないわ、コイツ!
連れられてやってきた王宮夜会の入り口の扉の前。
その隙間から会場を覗くと、確かに、盛り上がっていた。
しかも、バカ騒ぎなどではなく、感動や拍手、称賛の言葉で溢れかえっていた。
その中心には仮面のメイド達。
「イレドメイド衆と名乗る者達が、動きや魔法で盛り上げ続けているのだ。そのせいで、主はおかんむりだぞ!」
確かに、あんな仮面をつけたメイドにも関わらず、みなそれを受け入れ、普通に接している。
それだけ受け入れられたのだろう。
声をわざわざかけに行く者まで居る。
何故! どこの馬の骨かも分からない女中が!
そう思っていたら、一人の仮面女中を見つける。
あの女は、見覚えがある。
「まあまあ、お任せください。私が責任を持って、阿鼻叫喚の宴にしてあげますわ」
わたしはそういって準備を急ぎ、着替えて大広間に入る。
なるほど、あの女が不自然にならないよう、わざわざ仮面までつけて、いいお仲間ね?
でも、周りの貴族、特にお嬢様達はどうかしら?
あんたの火傷跡を見て悲鳴なんてあげちゃうんじゃないかしら?
あ、あそこには、ヴェリスアリア家のレイア様じゃない。
ストロベリーブロンドのいやらしい髪だから良く分かるわ。
あの女は汚いものが大嫌いだそうだから。
きっと悲鳴をあげて叱責にするに違いないわ!
『なに汚いものを見せているの』って!
わたしはその辺の女中から仮面を剥ぎ取り、あの火傷女に近づく。
近くに居るちょっとがっしりした男っぽいメイドと笑いあっている。不細工のくせに。
そして、ふらつきこけた振りをして、仮面の後ろを止める紐に指を掛ける。
「ざまぁみなさい」
わたしは思わずそう声を溢してしまう。でも、そうでしょう。
貴方のような不細工が簡単に認められるなんておかしいじゃない!
さあ、不細工顔曝せっ!!!
そう思っていたら、隣のメイドが庇うように抱きしめる。
ちい、よけいなことぼっ……!
「ぼが?」
口の中にいつの間にか、水が?
なにこれどういうこと? 魔法?
わたしはひとまず窒息してはいけないと呑みこむ、けど、大丈夫だったのだろうか?
「自分のやった罪を告白しいや。じゃないと大変なことになるで」
どこかで聞いた声がした。
そして、
ごぽり
わたしの中で何かが動いた気がした。
そして、その動きは激しくなり、治ったばかりのお腹がぐるぐると……!
「あひゃーーーー!」
まただ! またわたしのおなかが……そして、お尻が……!
う、うぅううううう……!
見ると、周りの方々が、こちらを見て口元に手を当てている。
「ひ、ひどい顔……」
顔? いつの間にか、仮面が外れている。誰が!?
見れば、第二王子の近くに居る仮面デカ女が仮面を手に持っている。
けど、今それよりも……わたし、どんな顔をしている!?
顔がひどく強張っているのは分かる。
けれど、しかたないじゃない! こんな顔でもしないと出そうなのよ!
どういうこと!? さっきの声……!
自分のした罪って、今日の……?
でも、そんなことをすれば……。
わたしが迷っていると、お腹がどんどんと暴れ出す。
「み、みなさま! わ、わた、わたくしは!」
そう叫ぶと、少しお腹の動きがおさまる。や、やっぱりそういうことなんだわ!
このまま告白すればわたしは第二王子に……でも、ここで醜態を晒すくらいなら!
あとは、なんとか誤魔化すしかないわ! あの馬鹿王子ならなんとかなる!
「本日! 仮病を使い、休み、そこにいるメイド長を困らせようとしたメイドでございます!」
お腹が治まる。けれど、少し黙っていると、またお腹が暴れ出し、
「そして、わたくしがっ……ああっ……何故、そんな愚かな事をしようとしたかというと……!」
「お前ら、あの不審者を捕らえろ!」
次の瞬間には、第二王子の取り巻き達に捕らえられて、運ばれた。
ほ、ほほ、ざまーみろ!
なんとか耐えきったわ! これでいい! これでいいの!
あとは、第二王子に理由を聞いていただくだけ!
大広間から連れ去られていく。
あの火傷女はまだ抱きしめられたまま。
くそ! くそ! あのクソ女のせいで!
全部上手くいかなかった!
いつか必ずお前を地獄に落としてやる!
「おい、何馬鹿な事を話そうとしたクソ女」
冷たい声が、第二王子デュオさまから男たちに運ばれていくわたしに放たれる。
「いえ……デュオ様、お聞きください……実、はっ……!」
ぐるるるるるる!
そんな! また、おなかが……今までで一番激しく……。
「……あー! ちょっと……! もっと丁寧に! 丁寧に運んでくれないと、お腹が! お尻から! あ、あああああああああ!」
口に出すのも憚られるほどの醜態を晒してしまった。
しかも、殿方の前で。
いや、第二王子の、前、で……。
「何かも漏らすクソ女が、お前のせいで折角の『俺の王宮夜会』になるはずが台無しだ! おい! 舌でも喉でもいい、こいつの声を聞くのも不快だ! 黙らせろ」
そして、わたしは、闇魔法を使う間もなく声を奪われ、お風呂も何もない牢獄に入れられた。
家族には罵られた。恥さらしだと。
友達は誰も会いに来なかった。いなかったのだろうか。
そして、あと来たのは、
「こんばんは。ああ、喋らなくて結構です。私も貴女と喋りたくなんてありません。それに、こっそり来たので、騒がしくしたくありませんし。いや、喋れないんでしたっけ? ですが、一言言っておきたくて。私、主様に愛されているって貴方のお陰で分かりました。こんな火傷の跡があっても私のことを美しいって……ふふふ。え? もしかして、私が貴女を殺しに来たとでも思いました? ごめんなさい、私は貴方如きで手を汚したくないの。愛する主様の為にも。では、ご機嫌よう」
ふわりと挨拶をしたあの女は、音もなく消えていった。
そして、
わたしは、次の日、色んな罪を擦り付けられ、首を吊られ死ぬそうだ。
きっと、垂れ流し、汚い死体になるだろうと。
ほんとくそだわ。
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