第7話 神クラスの奴隷商人だけど獅子の獣人奴隷に訓練まかせます!

「じゃあ、アクア。君を立派な奴隷として育てていく」

「は、はい!」


 この一週間、キヤルのご飯や、ヴィーナによるお世話、スコルの診療と、僕の定期的な魔力譲渡によって、すっかり身体は良くなっていた。

 緑色の髪は艶を取り戻し、身体も痣もなくなり、ちょっとふっくらしてきたように思う。

 うん、女の子はこの位元気そうなのが一番。


「あの、ごしゅじん様。わたしの身体、変ですか?」

「あ、いや、ううん。すっかり綺麗になったね。嬉しいよ」

「はわわわ! きれきれきれ……!」


 アクアは、急に顔を真っ赤にし始め、いや、顔だけじゃない! 身体全体真っ赤なんだけど!

 僕は、慌てて、アクアの異常を調べようと近づいたら、アクアが慌てて逃げ始め、追いかけっこが始まってしまった。


 まあ、準備運動には……ちょうど、よかったかもしれない……ぜえぜえ。


「アクア。君は、僕が視たところ、戦闘能力が高い。だから、S級冒険者になって、ミリオンクラスの奴隷を目指そう」

「ええ!?」


 アクアが驚いている。別に不思議な事はないんだけど。

 どうやらアクアは、竜鱗病にかかったことで、普通の人の何十倍もの魔力を身体に溜めることが出来る上に、魔力で竜の鱗を生み出せるようになっていた。


 半竜人といえる身体になった彼女はとんでもない資質の持ち主と言えた。

 いや、もしかしたら……。


 ともかく、魔力量は十分だ。

 だから、不思議な事は何一つない。アクアなら、なれる。



「そ、そんなミリオンクラスの奴隷って、超高級奴隷じゃないですか!? そ、そんなの……」

「大丈夫大丈夫。ウチの奴隷はほぼミリオンクラスだから」

「はああああああ!?」


 アクアが驚いている。まあ、それもそうか。

 なんでミリオンクラスの奴隷が売れないのかって話だよね。

 まあ、僕のせいだ。だから、僕が頑張らなきゃいけない。


「アクア。僕、頑張るから、君の為に。だから、一緒に頑張ってくれないかな」

「い、い、いっしょに……わたしの……ために……? ふぁああ……。は、はい! わかりました! わたし、頑張ります! ごしゅじん様の為に」


 アクアが、よほど気合が入ったのか顔を真っ赤に、鼻息をふんすふんすしながら拳を握りしめている。


「君が、何不自由ない生活が出来るよう素晴らしい貰い手についてもらえるよう、僕もがんばるよ!」

「はい! ごしゅじん様の為にがんばります!」


 アクアとかみ合ってない感じがする……。

 きっとまたヴィーナが何か入れ知恵したんだろう。後ろでヴィーナがうんうんと頷いているんだもん。


 まあ、いっか。目的は同じはず。



『高く買ってもらえる奴隷に』



 こうして僕とアクアの奴隷育成が始まった。


「アクア、まずは基礎体力からだ。これは、彼女に担当してもらう。リオ」

「はいよー、ご主人様~」


 僕の1.5倍はありそうな大柄なリオがやってくる。

 銀のたてがみのように広がった髪を揺らしながら、身体も筋肉も、その、胸やお尻とかも何もかもが大きな彼女がやってくる。

 彼女は、僕の奴隷戦士として、奴隷が売れない間、僕の奴隷として冒険者の仕事をこなしてくれている。


「やあやあ、君がアクアちゃんだねー。リオだよ。よろしくー」


 アクアがビクッとする。そりゃそうだよね。いきなりこんな大きな女の子に呼ばれたらビックリするだろう。

 そっと僕の袖を抓まんでこっちをちらりと見ている。


「あ、あの……ごしゅじん様……」

「アクア、彼女は君の師匠だ。しっかり教えてもらうんだ。それに、心配しないで。リオは、花一つ踏めない程の優しい女の子だ。まあ、敵は容赦なく潰すけど……」


 リオは、自身の銀のたてがみをいじりながら照れている。しっぽもぶんぶんしすぎて土煙がすごい……。後半聞こえなかったのかな。


「も、もー、ご主人様ったら、ボ、ボクが、や、やさしいだなんてー」


 ただ、それは本当に事実だ。リオは獅子の獣人で、しかも、『戦士』の神クラスギフト、通称【武神】を持って生まれた。

 だけど、当時余りにもその強力すぎる力を操り切れず、人を殺めてしまった。


 そして、その罪の意識から自ら犯罪奴隷になったのだ。


 ただ、持ち前の正義感故に、非道な買い主に当たると、どんな制約で痛みを与えられても、殺してしまうので、最終的に買い手がいなくなってしまった。


 そして、僕の所にやってきた。その時の彼女は何もかもに疲れ果てているようだった。

 彼女は死を望んだ。だけど、奴隷商人である僕はそれを許さなかった。

 彼女は泣き喚きながら狂ったように襲い掛かるのを僕は神スキルで止めた。


 僕の神ランクスキルで制約をかければ、リオの力を抑えることが出来たのだ。

 リオは、制約された力でなら何も怯えることなく花や人に触れることに感動し、泣いていた。


 それくらい優しい子だ。


「……だから、大丈夫。信じて」

「はい! ごしゅじん様を信じます!」


 ん? そういう話だっけ? 

 まあ、いいや。なんでかリオとアクアが意気投合し始めたみたいだし、


「よーし! アクア! ミリオンクラスになって、ご主人様をお金持ちにしてみせるよー」

「はい! がんばります!」


 いや、僕は金持ちなんて高望みはしないから、君達が一人でも売れてくれればうれしいんだけど。

 ただ、僕の脳内で、奴隷の成長の最善ルートを示す神スキル【奴隷神道】がその発言を止める。どうやら、彼女達に言わない方が良いらしい。けど、本当に怪我とかはしないでほしいだけどね。


 そんな僕の思いは届かなかったのか、リオとアクアの訓練はとてもハードだった。

 え? 初日からそんなにやる? ってくらいだった。

 余りに必死の形相で、それだけ頑張ってくれる感動と、心配が入り混じる。


 訓練が終わった後、アクアが疲れ果てて倒れ込んでいる。


「おつかれさま、アクア」

「はぁ、はぁ、はい、ごしゅじん様」


 僕はアクアに水筒を渡す。アクアはそれを飲み干すと、


「ありがとうございます。ご、ご主人様はご主人様なのに、こんなことまで……」

「君達が高く買ってもらえる奴隷にするのが僕の仕事だからね。この位なんでもないさ」

「あ、あのぅ……ごしゅじん様」

「ん? なんだい? アクア」


 アクアは水筒で顔を隠しながら上目づかいでこちらを見てくる。


「わたし、立派な奴隷になりますね!」


 何と健気な子なんだろう! 絶対良い所に貰われるよう頑張らねば!


「ごしゅじん様のお側にいるために!」


 あれ? そういう話だっけ? 


 けど、僕はそのアクアのキラキラした目を受けてまで反論することが出来ず曖昧に笑った。


「あっはっは! アクアは筋がいいからね! 直ぐにご主人様の護衛になれるよ! まあ、まだしばらくはボクのポジションだろうけど」

「ま、負けません!」


 いや、君達、目的をはき違えないでね。君達は立派な奴隷になって、買われていくのが大事なんだから。

 いやいや、さっきまで物凄い勢いで戦ってたのに、まだ戦う気?

 そうして始まった戦闘訓練はとても激しくてみるみる内にアクアはレベルを上げていった。

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