第8話 神クラスの奴隷商人だけど魔導士の魔族奴隷に授業をまかせます!

 リオの戦闘訓練が終わった次の日、


「アクア、今日はね、魔法を勉強しよう。ウチでも珍しい魔法の使える奴隷、アリエラだよ」

「アリエラです。よろしくね、アクア」

「よ、よろしくお願いします!」


 青い肌で赤い目、髪の毛も灰色でアクアも分かっているようでちょっと緊張している。


 アリエラは魔族だ。

 魔族ゆえに差別を受け、酷い環境で暮らしていた。

 それも暫くは続かず、奴隷にされ、酷い目にあっていたのを僕の親友が見かねて連れて来た奴隷だった。


 魔族ではあるけれど、別にそれが問題あるとは思えない。だって、彼女はとても優秀で素晴らしい魔法使いだったから。ここに来た時点でギフト【魔導士】のBクラス、ここで成長してAクラスだった。でも、それを認めてくれなかったらしい。魔族ってだけで。

 みんなと同じご飯や寝床を与えると『ここここここここわい……! ワタシ、何されるのぉおおお!? 邪神の生贄ぇええ!? ふふふふ太らせてからってことぉおお!?』と震えていた頃が懐かしい。

 毎日毎日褒め倒して自己肯定感を上げ続ける日々。

 そして、トラウマといえる人物を倒した彼女は今となっては、自信にあふれている。


「でででででできるかな、こんなゴミムシに、人の指導なんて……」


 そうでもなかった。


「アリエラ、僕はいつもアリエラの魔法は凄いって思ってるよ!」


 僕が声を掛けるとアリエラは変な顔をし始めて、


「ふひ」


 とだけ言い、アクアの為に作ったという教科書を開き始めた。

 よかったよかった。あれ? そういえば、僕、今もずっと毎日アリエラ褒めてない?

 いや、でも、アリエラ。いっつも何か言ってほしそうだし、言ったら頑張ってくれるしな。

 そう思っていると、アクアがリスみたいにほっぺたパンパンにしてこっちを見ている。

 かわいい。


「アクアも凄くなれるって信じてるからね、がんばって!」


 そういうとアクアはぷしゅーと口から息を吐き出し、顔を真っ赤にして、


「はい! ごしゅじん様の為に魔法を勉強します!」


 そう言って、凄い勢いで教科書を開いていた。

 ……うん、君が高く売れる、僕喜ぶっていうことだよね? がんばってね。


「では、アクア、今からワタシが魔法を教える。まず最初に覚えるのはご主人を治す回復魔法」

「はい! 絶対覚えます!」


 うんうん、奴隷が自分の主人を守ることはとっても大事だからね。

 それに、自分が怪我した時にも便利だ。


「ご主人様、怪我をしても大丈夫ですからね! ちゃんと覚えてアクアが治してみせます!」


 うん、僕を見て言ってるけど、僕は良いんだよ。奴隷商人であって、一時的な主従関係なんだからね。


「まだ、覚えてないのに言わないで。それにイレドを、ご主人を治せるのは一番優れた魔法使いって決まってるの」


 初めて聞いたんだけどそのルール。まあ、アクアがなんかやる気出したのでよしとしよう。

 そうして、アリエラによる魔法教室が始まった。


 だけど、


「ああ、上手く教えられない、ワタシはゴミクズ……」

「覚えられないわたしもゴミクズ……」


 二人して落ち込んでいた。

 初級の回復魔法で躓いていた。

 元々、アリエラは非常に複雑な術式を覚えて魔法を発動させるタイプで、かなり頭の良さがいる。けれど、アクアは一足飛びで、膨大な魔力だけ手に入れてしまっている。

 そのせいで起きるズレだとアリエラ達は思っているようなんだけど……。


「う~ん、リオの時はアクア一日の体験だけで凄く上達早かったんだけど」

「やはり、ワタシがゴミクズ……」

「い、いえ! あのリオさんの時は、リオさんの攻撃を受け止めるのに必死だったので」


 なるほど。必要に応じて身体が反応したのかもしれない。

 その瞬間、僕の神スキル【奴隷神道ドレイブ・マップ】が発動する。

 そして、その声を頼りに僕は、


「えい」


 自分の骨を折る。


 ばき。


「え、ええええええええ!?」

「ご、ごしゅじん様、今、ばきってばきって」

「うん、多分、ひびが入ったね。アクア、治してくれない?」


 僕が腫れて変色し始めた腕をアクアに差し出すと、アリエラが横から詠唱を始める。


「森の精霊よ、我が望みをかなんぶぅう!」


 僕はそれを【奴隷神操ドレイブ・コントロール】で口を操り、塞ぐ。

 そして、アリエラの赤い瞳を見つめる。

 大丈夫だよ、君はしっかり教えてくれてる。

 あとは、アクア次第だから、僕を……。


「ご主人は、ほんと馬鹿……」


 アリエラは納得してくれたのか、詠唱を諦め、背を向けて俯いている。


「な、何をやってるんですか!? アリエラさん! ごしゅじん様を!」

「アクア、君がやるんだ」

「で、でも!」

「アクア。君は怖がっているんだ。自分の身体から魔力が離れることを。竜鱗病を思い出してしまうから」


 そう告げるとアクアはようやく自分が魔法を使えない理由に気付いたようで、手の平をじっと見つめて震えている。


「大丈夫だよ、アクア。君はもう大丈夫。だから……僕を信じて!」


 何度も何度も僕の奴隷達に言ってきた言葉。

 そして、その言葉を届けるためにたくさんたくさん思い出を重ねてきた。

 まだ、アクアとの思い出は多くない。

 けれど、


「僕はアクアを信じてる! だから、アクア! ……そんな僕を信じてくれないか?」


 アクアは、震えながら、近づく。

 一生懸命詠唱を紡ぎながら、必死な形相で自分の過去と戦っている。


 信じるなんて奴隷にとって一番難しい事だ。

 だけど、僕はいつか信じあえると、そう信じている!


「アクア、大丈夫! もし、魔力がなくなっても、僕が【奴隷神実ドレイ・フルーツ】でいくらでも回復……」

「【初級回復魔法】! 【初級回復魔法】! 【初級回復魔法】! 【初級回復魔法】! 【初級回復魔法】【初級回復魔法】【初級回復魔法】【初級回復魔法】【初級回復魔法】【初級回復魔法】【初級回復魔法】【初級回復魔法】! 」


 多い多い多い多い!

 オーバーヒールだよ、そんなの!


 アクアは初級回復魔法をいとも簡単にやってみせた。しかも、連発。


「や、やはり、魔法は愛だね、ふひ」


 アリエラは一人納得したようで、ここからは大丈夫だと僕向かって頷いていた。

 そして、アクアは、


「からっぽですぅ~。ごしゅじん様~、いっぱいがんばったから、いっぱいごしゅじん様の魔力をください!」


 かわいい。

 ようし、いっぱいあげようね。


 そして、大量の魔力譲渡でツヤツヤになったアクアと、魔力枯渇する勢いで見本みせつつ何かを囁いてうまく誘導するアリエラ、二人が自信を取り戻したようで楽しそうに魔法の授業を行っていた。


 一つ魔法が出来るようになる度にこっちを向いて出来たアピールをしていたので、アリエラに怒られてた。

 でも、アリエラも、教えましたよアピールしてたよね。


 ウチの奴隷達は本当に優秀で、かわいい。


 ただ、魔力許容量が多すぎる二人に魔力を吸われ過ぎて、今日は初めてくらいカラッカラになってしまった。

 その上、何故か自分で骨を折ったことがヴィーナにばれていて、凄く怒られたし、危険な事をしない為にと一緒に寝る羽目になった。


 まあ、僕は絶対に、手は出さないけど!

 ヴィーナ、その、挟むのはやめて、骨はもう治ってるし、罅が入ってても、そんなので治らないから!

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