第9話 神クラスの奴隷商人だけど万能女中奴隷にメイド教育をまかせます!

「女中のキヤル、です。宜しくお願いします」


 今日は、キヤルによる女中講座だ。


 キヤルは、働いていた屋敷で火事が起き、全身大やけどをし、捨てられた。

 道端で倒れている彼女を拾って、ウチの奴隷にした。

 全身包帯まみれの彼女は本当に気配りが凄くて、やさしい。その上、料理や掃除など女中技術は本当に素晴らしい。


「私の仕事は、いかに、あ、主様に笑顔で過ごしていただくか。それを常に考えながら働きます。その為に、命を賭けています」


 うん、キヤルは本当に一生懸命だ。もう少し肩の力を抜いてほしいくらい。


「キヤル、そんなに力を入れなくてもいいからね。僕は、キヤルのお陰で毎日快適に暮らせているし、感謝してるからね」


 ちょっと落ち着くように、頭を撫でながらそう言うと、キヤルは全身を震わせて、


「……はいっ! ありがとうございます! これからも私の全てを尽くし、全身全霊をもって、主様の生活を支えて見せます」


 あれ? 僕の話聞いてなかったのかな?


 キヤルがどんどん興奮していってる。それにつられてか、さっき自分の頭をさすっていたアクアも滅茶苦茶興奮している。何故?


 そうして、途轍もない勢いで女中教育が始まってしまった。


「いいですね! アクアさん、此処が主様のお仕事部屋です!」

「こ、ここが……ごしゅじん様の……!」

「髪の毛一本見逃してはいけません! 全て回収するのです!」

「はい!」


 ん? 回収? ん、そうか、うん、ゴミ回収。

 違和感はない。けれど、僕の髪の毛とかは分けて瓶に入れられるのはなんでかな?

 そんなに一緒にするのがいや?


「此処がお風呂です! 回収しなさい!」

「はい!」


 うん、僕のと奴隷達のを分けるのは分かるよ。

 やっぱり男と一緒なのはなんか気持ち悪いよね。


「台所です! あ、主様! ちょっと外してください!」


 え? なんで?

 けれど、完璧にピッカピカにしてくれるキヤルの言う事だ。

 心配はないだろう。


「これ……あ……じさまの、フォー……です」

「ええ……キヤ……ぱい、大胆……ふわあ……わた……も……」


 すっごいひそひそ声で喋ってるけど、なんだろうか?

 ちょっと背筋がゾクッとするなあ。


「洗濯! こ、これが、主様の服です! 嗅いでばかりいるんじゃありません!」

「は! す、すみません!」


 そんなに匂いチェックするほど臭いかなあ?

 まあ、客商売だし、匂いには気を付けよう。


「嗅ぎながら畳むのです!」


 なんか違う気がする。


「キヤルせんぱい、こ、こ、これは……」

「これは……ごくり……あ、主様の、下着です」

「ストーップ! それは僕が今日は畳むから!」

「な、何を言うのです! 立派な女中奴隷となるには、主の下着くらい畳めなくてどうします! さあ、一緒にやりますよ! アクア!」

「はああああああああい!」


 うう……なんか、とてつもなく恥ずかしいので、僕は部屋を後にした。

 そして、その後台所に戻って、


「お料理です! 身体に良さそうなものを選び抜き、気持ちよく美味しく食べていただくことを想像しながら作りなさい」


 けれど、アクアは今まであまり料理をやってこなかったのか苦手そうだった。


「うう……!」

「アクア! 自覚なさい! 貴方の手のかけた料理が主様の、血となり肉となることを! 貴方が主様の身体を作り上げるということを!」

「うわあああああああああ! ごしゅじん様の身体はわたしのものぉおおおおお!」


 よくわからなかったです。

 僕には、難しすぎて、でも、ご飯は美味しそうに出来ていたのでよかった。


 そして、みんな揃っての食卓。


「あ、あう……」

「アクアはまだ慣れないようですね」


 ヴィーナが僕にあーんをしながらそう言った。

 ちなみに、腕の骨にひびを入れたせいで、スキルを使う以外の腕の使用をスコルに禁じられて、こんな風に当番制で僕の腕の代わりをやってくれている。

 『奴隷であればこのような事も出来ねば』とヴィーナに熱弁されたけど、そういうもんなのかなあ?

 それはさておき、ヴィーナの言葉にアクアは苦笑いを浮かべる。


「そ、そうですね。前にいたところでは、器にいれられた食べ物を奪い合っていたし、その、ましてやごしゅじん様と一緒だなんて……」


 そう、僕は奴隷達と一緒に食卓を囲んで一緒なものを食べている。普通はありえないだろう。

 まあ、部屋が多くないし、衛生的に、食べ物がある場所は少ない方がいいし、それに、


「僕がみんなと一緒に食べたいんだ」


 僕は家族に捨てられた。

 けれど、女々しい事にやっぱり仲の良かった頃の食卓が幸せで、どうしても思い出してしまう。


「いつか、みんなとは離れてしまうだろうけど、それまでは、みんなと家族でいたいんだ」


 そう言うとみんなは笑って頷いてくれた。


「ええ、いつか離れてしまうかもしれませんけど、いつかがいつくるのかは分かりませんけど……」


 ヴィーナが鋭い指摘をしてくる。

 うう……頑張ります。一人でも売れるように!


「わたし! うれしいです! ごしゅじん様とみんなと、こんなきれいなところでこんなにあったかいご飯が食べられて!」


 アクアァアアアアア! イイ子だね! 本当に!


 そして、アクアはどんどんメイドとしての技術を、家をしあわせにする技術を楽しそうに覚えていった。


 その後も、ウチの奴隷達による奴隷教育によりアクアはどんどん成長していった。


 正直、ウチの奴隷が優秀過ぎて、僕は簡単なアドバイスと、あとは、よくわからない頭撫で係に任命されていた。まあ、神ランクのせいか、頭撫でただけですごいみんなやる気になってくれたかし、重要な仕事だと熱弁されたからいいんだけど。


 そして、ヴィーナのお墨付きも出て、アクアはイレド奴隷商の商品となった。


 だけど、


「はっはっは! イレド! 奴隷を買ってやろうか!?」


 久しぶりの客は、スレイだった。

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