第44話 神クラスの奴隷商人なので、最高の奴隷達と真の大災害と戦います!

 大災害スタンピードは、みんなのお陰であっという間に終わった。


「は、はは……信じられない……」


 驚きっぱなしのスレサヴァさんの視線の先には魔物の死体の山、海、とにかく死んでいた。


 今日のみんなは神懸かっていた。

 そして、それが自分の大好きという発言だったとは信じられない。

 もしかしたら、彼女たちは……


「はっはっは、雑魚とはいえあれだけの数を滅ぼすとは、人もやるではないか」


 その声は天から降り注いだ。

 大きな声ではなかった。

 だが、だれの耳にも届き、だれもが天を仰いだ。


 そこには、怖いほどに真っ白な、白い男が浮かんでいた。


 危険だ。

 自分の中の奴隷神図が奴隷たちの危機を叫び始める。


「さて、神の前だ。頭が高いぞ」

「みんな、防御……!」


 ダメだ、間に合いそうにない!


「神スキル!【奴隷神衣ドレイスーツ】!」


 白の男が手をおろすと白い魔力が押しつぶすように落ちてくる。


「あがあああああ!」

「きゃあああああ!」


 方々で悲鳴があがる。

 そして、立っているものは誰もいなかった。


「ん? はっはっは! 素晴らしいな。これで死なぬとは。そこの男、お前のスキルのようだな。誉めてやろう」


 白の男は心底楽しそうに笑う。


「君は一体誰だ……?」


 僕は、僕とスレサヴァさんをかばってくれたヴィーナを支えながら白の男に問いかける。


「ワタシか、ワタシはお前らの言うところの魔神。魔神ジールだ」

「魔神……ま、魔神ジール、君は何をしにここに?」

「ふむ、おかしな事を言う。お前らがワタシの封印を解いたのだ。あの洞窟の奥深くに施された封印を壊したのだぞ」


 魔物が押し込まれたせいで何かあり得ない事態が起きたのだろうか。

 だけど、その方法は、今はどうでもいい。


(こいつをどうすればいい?)


 今の一撃だけでも分かる。

 格が、違い過ぎる。


 ウチの奴隷が奴隷神衣でなんとか耐えられたレベルだ。

 その気になれば一気に殺すことも出来るだろう。


 今の状況ではどうやって倒すかじゃない。

 どうやって一人でも多く生き延びさせるかだ。


「お、お願いします。みんなを見逃して頂けないでしょうか?」

「ふうむ……お前は、自分の立場が分かっているようだな。お前、名を何という?」

「イレド、です」

「……! ほう、イレド、イレドか……ふふふ、ははは! いいだろう! イレド! こやつらを全員見逃してやろう!」

「本当ですか!?」

「ああ、お前がワタシのものとなるならば、そうだなあ、奴隷となるのであれば、あとはいらん。見逃してやろう」


 ジールは、そう言った。

 僕に、断る理由はない。

 みんなを、守れるなら。


「分かりました。では、みんなとの奴隷契約を解除するのでお待ちいただけますか?」

「ふむ? まあ、いいだろう。早くな」

「イレド奴隷商の奴隷を、スレサヴァさん、貴方に託してよいでしょうか?」


 きっとこの人なら大切にしてくれる。


「……分かった」

「そして、売って頂くときに絶対に伝えていただきたい条件がありまして。まず、彼女にちゃんとした衣食住を与える事、そして、性行為に及ぶ場合は必ず同意があってからでお願いします。そして、最後に……必ずしあわせにしてあげてください、と」

「ふ、なるほどな、君は……分かったよ、必ず守ろう」


 スレサヴァさんの悲しそうな微笑みを見て、僕はほっと胸をなでおろす。

 僕は目を閉じみんなの事を思いながら魔力を奔らせる。


 目を閉じておいてよかった。

 みんなの顔が見えなくて済むから。


「みんな、今までありがとう……さよなら」

「待ってくださいっ……! イレド様っ! やだ! イレド様ぁああああ!」


 ヴィーナの悲痛な叫び。

 ごめんね、ヴィーナ。

 でも、僕は……君達を守ることが出来るのなら……。


「僕の奴隷を解放する」


 そして、僕は奴隷が一人も売れない奴隷商人から、奴隷が一人もいない奴隷商人になった。


「では、貴方の奴隷となりましょう。どこへとなり、行きましょう」

「そうかそうか。では、早速お前の出番だ」


 ジールはそう言うと、僕の首を掴み、ヴィーナ達に向ける。


「な、にを……?」

「はあっはっはあ! ひい、苦しい、面白い茶番だったぞ。誰がそんな約束を守るか。ばあか。さあ、まだ喜劇は続くぞ! 女ども! この男を助けたいだろう! ならば、ワタシに絶対の忠誠を誓え。人間にしてはなかなかの美人揃い、楽しめそうだ。ワタシに仕えろ。そうすれば、コイツだけは生かしてやろう」

「その約束を守ってもらえる保証は……?」


 ヴィーナが、そう聞くと、ジールは意味が分からないといった様子の声で


「はあああ? 立場が分かってないようだなあ。お前たちは従うしかないんだよ」


 そう、言った。


「さあ、ワタシに永遠の忠誠を誓うのだ! この男の前で、たっぷりと辱めをうけさせてやろう、いたぶってやろう。そうすれば、男は生き延びることが出来るぞ。さあああ、この魔神ジール様に、魂を売り渡せ!!!」

「っけんな……!」

「は?」


 魂を? お前に? 売る?


「お前になんかにあいつらの魂は! 一人も売らねえよっ!!」


 僕は、全力で叫ぶと、不思議な力があふれ出てくる。


「はあああああ!? これは……まさか! くそ! ヤツがしゃしゃり出てくるとは!」

「うわああああああああ!」


 必死で指を引きはがそうともがく。何かわからないけど、力が湧いてくる!


「くそ、くそくそくそ! お前は、やはり不快だな、死ね……っ!?」


 ジールは、何かに気づき、自分の足を見る。

 そこにはあの串を、ジールの足に突き刺したコリーがいた。


「この、串をくれた、お兄さんは絶対に、殺させない……!」

「コリー?」

「そんな串程度で何が出来っ……」


 ジールが崩れ落ちる。

 見れば、足が緑色に染まっている。


「竜毒なら、竜の毒ならお前にも効くだろ! ばーか!」


 アクアが叫んだ。アクアの毒か!


 ジールの手の力が緩む。


 僕は思い切り振りほどいて力いっぱいこぶしを叩き込む。ふっとぶジール、この力なら、いける!


「……お客様、彼女たち、奴隷を欲しがるのなら、絶対に守っていただきたい条件が、ございます」

「はあ?」

「まず、彼女にちゃんとした衣食住を与える事、そして、性行為に及ぶ場合は必ず同意があってからでお願いします。そして、最後に、必ずしあわせにしてあげてください……それが出来ないのなら! とっとと消えろ! クソヤロー!」


 これだけは譲らない! 僕の何を失っても絶対に!

 それが出来る客がいないのなら、


「みんなはずっと僕の奴隷かぞくだ!」

「はっはっは! その通りだ! イレド君! お返しするよ!」


 スレサヴァさんが契約魔法を再びつなげてくる。

 僕の中につながりが再び生まれる。

 けれど、今までよりずっとずっと強固なつながりが!

 みんなの、ヴィーナのおもいが流れ込んでくる!


「イレド様!」

「くそがあああああああああ!」

「お前だけには、僕の奴隷を絶対に売らない!」

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