第21話 神クラス奴隷商人の最強獣人奴隷なので、ご主人様を頑張って騙します!
【リオ視点】
「ねえ、リオ! 今度行われるこの武闘大会に出てみない!?」
「ぶぼおおおおお!」
ご主人様と一緒にご飯を食べている時、ご主人様にそんなこと言われたせいで、一気にかきこんでいたキヤルのおいしいご飯を吹き出してしまった。
サジリーが風魔法で器に戻してくれてもったいないことにはならなかったけど、ボクの心臓はバクバクだった。
「リオ、落ち着きなさい」
ビスチェがそういって水魔法で出してくれた綺麗な水をくれたので、一気に飲み干す。
「んぐんぐんぐ……ぷはあ! はあはあ、え? ご主人様、今なんて?」
「だからね、今度また武闘大会が開かれるらしいんだ! それで、リオがそこで活躍したら、注目浴びて君が売れるんじゃないかって!」
ま、まずい……武闘大会はまずい……。
ボクは、去年ご主人様に黙って武闘大会に出た。
目的は、自分の価値を上げるためと、優勝賞金だ。
だけど、その時は色々あって、ご主人様にバレるわけにはいかなかったからみんなに協力してもらって、ボクは風邪を引いたふりをしてこっそり出場。そして、ご主人様が武闘大会に来ちゃわないようにスコルに嘘の診察をしてもらってご主人様を家から出られないようにしてもらった。
そして、余裕で優勝した。
その時はすっごく嬉しかったけど、その後何も知らずに風邪を引かせて御免と申し訳なさそうに謝るご主人様を見て、胸がきゅぅうううんとなった。
それで、『き、気にしないで! もう、ボクは元気だから! 大会で優勝したくらい……あ、こ、今度、今度大会があったら優勝出来そうなくらい元気になったから!』って色々変な事を言ってしまった。
嘘は、苦手だ。
ヴィーナには、
『時として、吐くべき嘘もあるのです。イレド様の心の負担に私達がなってはいけませんから』
と言われたから、一生懸命嘘ついたけど、ツラかった。
なので、せめてものお詫びに、お花さんをあげたんだけど、その時の笑顔がかわいすぎて、色んな意味できゅぅうううんとなってしまった。
そして、去年の事を嘘つかなきゃいけないのと同時に、もう一つ理由があった。
(ボク、武闘大会出禁なんだよね……)
ご主人様の力になれると思ってあまりにもはりきりすぎて、全員一発で倒してしまった。それで、大会が一瞬で終わってしまって、すっごい時間持て余して、恨めしそうな目で言われたのだ。
『もう参加しないでください』と。
だから、今度は武闘大会に出られないのだ。
「えーと、えーと、ど、どどどどどうしよっかなー」
ご主人様に見つめられ、大量の汗が流れ落ちてくる。
ヴィーナの方を見ると目を伏せてもぐもぐ食べている。
けど、もぐもぐのスピードがいつもより早くて細かい、今日はもぐもぐもぐもぐもぐ! って感じだ……!
ヴィーナも焦ってる。ボクが嘘へたなせいで!
こ、ここは、正直に言うしかないか!
そう、ボクは思ってたのに、
「リオのかっこいい姿見たいなー」
「出る」
ボクは間髪入れずに言ってしまった。
ご主人様の言葉が嬉しすぎて反射で言ってた。
ヤバい! でも、うれしい!
「うん! がんばろうね、リオ!」
「え? あ、うん、あははははー、がんばるぞー。は、はじめてのぶとーたいかいがんばるぞー」
どどどどどどうしよう! 出禁なのに!
「よーし! リオが不安吹き飛ばせるくらい、いっぱい僕と特訓しよう!」
「わおおおおおん!! やるぞぉおおお!」
あああああ! もう! ボクのバカバカバカ! 考えなしぃい!
でも、でも、ぶんぶんするしっぽと同じで気持ちが高ぶって止められないんだぁあああ!
って、アレ? これ、なんだっけ?
去年も……まあいいか!
ご主人様の特訓特訓特訓! 二人きりで特訓!
うれしいよぉおおおおお!
「わおおおおおん! ボク、がんばるよ! ご主人様の為に!」
うん! ご主人様がいっぱい褒めてくれたらボク嬉しいからね!
頑張るね! ご主人様!
「というわけで、武闘大会に出たいんだけど」
「出たいんだけど、と言われましても……!」
大会準備をしている冒険者ギルドの担当者のところにいくと、すごく困った顔をされた。
でも!
出ないと、ご主人様が悲しむ!
「お願い! 出して!」
「無理ですって! 貴方、前回大会なにしたか覚えてないんですか?」
「今回は、盛り上げるから! そうだ! 左腕一本でしか攻撃しないから! お願い!」
「……え? ああ、それなら………やり返すチャンスだと思って、みんなやる気出すかなあ」
ボクの獣耳にはちゃんと聞こえていたけど、全然問題ない。
左腕一本でも負けないし、ご主人様の前で格好悪いところは見せられないし。
「でもなあ、うーん」
それでも、うんうん唸ってる担当者さん。
その時、ぱっとボクは思い出した。
「ああ! そうそう、ヴィーナに言われてた。えーと『スポンサー、ラッティ商会』」
「!!! あ、ああ! ああ! 分かりました! そうでしたか! でしたら、ええ、参加できます! ただし! みんなの為に左腕一本でお願いしますね」
なんだろ、ラッティ商会って、そういえば、ティアラが良く言ってた気がするけど。
まあ、何はともあれ、武闘大会に出られる! 左手一本で!
そして、帰ってヴィーナに事情を話すと、
「分かりました。では、大会当日に腕が折れたことにしましょう。治療できるはずのアリエラとアクアは風邪を引いたことにします」
流石、【
一瞬で作戦を考えてくれた。
だけど、その作戦の準備が一番の難関だったかもしれない。
「ワタシ達は」
「ごしゅじん様と一緒に大会見られないんですか……?」
アリエラとアクアが悲しそうな瞳で見ていた……。
ごめぇええんん!
「アリエラ、アクア……気持ちは分かります。せっかくのイレド様との武闘大会応援デート。最高です……! こほん、ですが、リオの為に、お願いします」
「「でも!!」」
「観戦中にイレド様の汗を拭いた布をお土産に持って帰りますから」
「「いってらっしゃい!」」
ご主人様の、汗を拭いた、布……ゴクリ……。
流石……ヴィーナ。
そうして、ヴィーナ達のお陰で大会に向けての心配はほとんどなくなった、ハズだった。
でも、ボクは忘れていたんだ。ボクにとって、最大の危機が迫っていることを。
「よーし! リオ! 最終日の今日は、僕も対奴隷戦闘スキルを使うから遠慮なく飛びかかってきて!」
「はあはあ……う、うん!」
ご主人様が心配そうにボクを見る。そりゃそうだ……特訓の前からボクはボロボロだった。
大会前にも関わらず、ボクの身体と心はボロボロだった。
何故なら、ボクは……発情期に入ってしまったのだ!
ご主人様の匂いがキツい。
油断すると、襲い掛かりそうになる、えっちなほうで。
獣人の優れた嗅覚がツラい……!
だから、少しでもそうなってしまわないように、ご主人様に近づくのも、最低限に控えて心がすっごくボロボロになったし、無茶苦茶にしてしまわないよう徹底的に身体をいじめ抜いてからご主人様との特訓にのぞんだ。
「てやあ!
ご主人様が蹴り飛ばそうとボクに向かって、ボクに向かって、ボクに向かって来てくれる!
いただきまー……じゃない!
ご主人様の神スキルは、本当に凄いから本気で止めないとヤバい!
ご主人の神速の蹴りを受け止める。
ご主人様の足いい匂いうわおおおおん!
ずっとこんな感じで、ボロボロの状態で、ボクは大会最後の特訓を終えた。
「リオ、頑張ってね! 君がいっぱい活躍してくれることを祈ってるよ!」
うう、ご主人様……!
「でも、怪我には気を付けてね……無理だけはしないで」
うう、ご主人様ぁああああ!
がんばるがんばるがんばる!
ボク、絶対に無理せず優勝してみせるからね、ご主人様!
わおおおおん!
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