第22話 神クラス奴隷商人の最強獣人奴隷なので、ご主人様に頑張ってって言われます!

【リオ視点】




「ええぇええええええええ!?」

「ごめんねー、ご主人様。でも、大丈夫だから、頑張ってくるよー」


 武闘大会当日。

 スコルに外れないようしっかり巻いてもらった右腕の包帯を見て、ご主人様にびっくりされる。


「だ、ダメだよ! 折れてるのに大会なんて出せるわけないじゃないか! っていうか、アリエラかアクアに治してもらったら……!」

「二人は風邪を引きました。スコルの診断で絶対安静だそうです」


 ボクはボロが出ちゃうからとヴィーナが基本喋ることになった。


「奴隷に風邪引かせちゃうなんて……奴隷商失格だよ……」


 ご主人様がしょんぼりしてる……そんなの見ちゃったらボクもしゅーんってしちゃうよ。


「イレド様……イレド様が気に病む事ではありません。彼女達は……寒中水泳をしていたのです」

「なんでぇえええ!?」

「イレド様の奴隷として少しでも成長しようと、ああ、そうそう、あと、リオの必勝を祈願して滝に打たれていたからそっちかもしれません、ねえ、リオ?」

「ええっ!? ああー、うん、そんなきがしてきたなー」


 思わずしどろもどろになってしまう。

 ヴィーナはすごい。流れるように嘘を吐く。


 でも、知ってる。ヴィーナはボク達の中でも覚悟が違う。


 ご主人様とイレド奴隷衆が一緒に生きるためなら自分の手を汚すことをためらわないのだ。

 もし、それが明らかになって、ご主人様にどう思われることになっても、今を大切にしている。


「そんな……ことまで……! 二人ともなんて良い子なんだっ! ヴィーナ、経営苦しい時にごめんだけど、二人にお見舞いの品を買って帰ろう!」

「はい。今日の武闘大会応援デート……ごほんごほん! 武闘大会をイレド様と一緒に見に行けない分、喜ぶものを持って帰ると約束しておりますので、ご安心ください」


 ヴィーナは優しく微笑む。ご主人様と交わす一言一言がとても幸せだと本気で思っている。

 そして、ヴィーナはそう言いながら、まるでご主人様が興奮してよだれを垂らしたかのような動きで布を取り出しご主人様の口元を拭う。


 あ、二人の『喜ぶもの』だ。

 こういうところも本当にヴィーナはすごいなと思う。

 感心してると、ご主人様が心配そうにボクの右腕を見ながら近寄ってくる。

 ちょっと、ヴィーナ! ヴィーナ! ヴィーナ!


 拭った布をじっと見つめてうっとりしてないで、たすけてー!


「リオは……」

「だ、大丈夫だよ! ご主人様! 左手だけなら出ていいって言われたし……す、スコルから! 危なくなったら棄権するし、左手一本でもご主人様の奴隷なら戦えるってところを見せるから!」


 あっぶない! 危うく大会の担当者から左腕一本ならいいって言われたって言いそうになった!

 ご主人様を騙せたかなと見てみると、瞳を潤ませてこっちを見てる。へ?


「リォオオオオ! なぁんて君は良い子なんだ! 分かった! 僕はみんなと一緒に観客席から応援するからね! 危ないと思ったら僕止めに入るからね!」


 そう言うとご主人様はボクを思いっきり抱きしめてきた。


 わ、わ、わ、わおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんん!


 はわわわわわわ! 腰にご主人様の腕がぐるりと、匂いがふわりと、は、発情期がぐらりと!

 ボクは泣く泣く鼻呼吸を止めて、声を絞り出す。


「ごごごごごご主人様! そそそそそそんな大胆な! この時期にそれはキツ……!」

「うおっほん! イレド様! 人が見ています。それにリオがとんでもない風を巻き起こしているので、やめてください」


 ヴィーナの声でご主人様が慌てて離れる。

 ボクはもうへにゃへにゃになってへたり込んでしまう。そして、思いっきり深呼吸。ぜえぜえと情けない呼吸をしてしまっている。


「ご、ごめんね……臭かったよね……奴隷達みんなに不快な思いをさせないように、今後は香水とか……」

「「「「「絶対にダメ(です)!」」」」」


 ダメだ! 絶対にダメ! 今は発情期だから暴走しそうでヤバいけど、ご主人様の匂いが嗅げなくなったら本気でずっとしょんぼりしちゃう! マズい、想像だけで泣きそう……!


「こほん、イレド様。奴隷に特定の香りがついているのを好まない買い手もいます。絶対に、絶対に、香水はいけません」


 ヴィーナ! 流石ヴィーナだよ! うんうん! 香水ダメ絶対だね!


「と、とにかく! ボク、左手一本でも頑張ってくるから、ご主人様……その、いっぱいボクを応援してくれると嬉しいな!」

「勿論! いっぱいいっぱい応援するよ!」

「わ、わふん……うん! ボク今日は優勝できそうな気がするよ!」


 やばいやばいやばい! もうご主人様のなにもかもが興奮材料になってしまう!

 声も笑顔も全部好きすぎる! そんなご主人様が応援!

 うれしすぎるよおおおお!

 ずっとしっぽが勝手にぶんぶんしてしまってたけど、ボクはそれを抑えることができなかった。

 だって、うれしかったんだもん!


 ただ、もうあとちょっとご主人様分をとっちゃうと、ヤバかったから、ご主人様と離れられてよかったかもしれない。

 さみしいけど……。


 控室では、まだ一回戦前だから、いっぱい人がいた。

 けれど、みんなボクを避けていく。


 まあ、ほとんど吹っ飛ばした事ある奴らだしねー。

 どいつもこいつもご主人様を馬鹿にしたからぶっとばした。


 ただ、今回は左腕一本という情報は事前に流れている。

 これは、大会の担当者に懇願された。


『絶対にただ貴女が出場するというだけ、という情報が流れたら! 知らない人以外全員棄権しますから! 先にこっそり伝えさせてください。貴方は左腕一本で戦うんだ、と!』


 なので、大会出場者には連絡がいったらしい。

 ボクは左腕一本だけで戦うと。


 それで勝てると思ってる時点で、修行不足なんだよなあ。


「おい、そこの女奴隷」


 そんなことを思っていると、厭らしい嗤いでニヤニヤしてる気持ち悪い男が近づいてきた。

 すごい、コイツ見てると発情が落ち着いてきた。見たことないヤツ……他国から来たのかな?


「お前、出場者らしいが片腕とは正気か? ……まあ、いい。闘技場に立った時点で、お前は敵だ。ナニをされても文句言うなよ、へっへっへ」


 気持ち悪い。見た目も匂いも手の動きも気持ち悪い。

 なんかすっごく気持ち悪い嫌な匂いが懐からするし。何を持ってるんだ?


 早く離れたいと思って、ボクは控室を出て、新鮮な空気を吸いに行く。


 ああ、ちょっとだけご主人様の匂いがするなあ。


 我慢できなくなって、遠くから観客席のご主人様を探していると、サジリーとラブに体を寄せられ、ジェルに前から抱き着かれ、後ろからヴィーナに抱えられてた。


 むぅうううううう!


 仕方ない。

 ご主人様に前回勝手に大会に出たことをばれない為の工作でみんなぎゅっとしてるんだってわかってる。

 あの周りにいる大観衆だって、冒険者ギルドで雇った『えきすとら?』だし。


 でも、でも、うらやましぃいいい!

 あと、みんな、絶対別の目的あるよね、サジリーもラブも真っ赤だし、ヴィーナもずっと頭嗅いでるし、ジェルに至っては、こっち見てにやあっとしてない!?


 がるるるる……!


 ちょっとふてくされていると、いつの間にかボクの試合の番。

 ちょっと、暴れたい気分だな……。


「がんばれぇええええええ! リオォオ!」


 ご主人様!?

 お、お、応援してくれてる!


 嬉しいぃいいい!


 ご主人様ご主人様! ボク頑張るからね! 見ててね!

 よーし、気分がいいから、対戦相手の君は手加減してあげるね!


 わおーん!

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