第20話 神クラスの奴隷商人なのに最強獣人奴隷が武闘大会で売れません!

 帝国から来た道場主アアルが放った一言。


『そんな女々しい戦闘奴隷など論外であーる! 大体条件も価格も論外なのであーる!』


 それは、僕をキレさせるに十分な一言だった。

 リオの価格が800万ゴールドで論外?

 衣食住の安定、愛なき性行為の禁止、リオの好きなピンクのかわいい部屋を用意する事、そして、絶対しあわせにすること、この条件が論外?


 論外なのは……テメエだ。


「テメエ、ごらああ! テメエェエエ!」

「あーるぇええええ!?」

「いいかあ! ウチのリオはかわいいものが好きなかわいい子なんだよ! 顔も美人顔なのに、かわいいものが大好きなんだよ! すっごいかわいいギャップだろうが! 花だって、お花さんって呼ぶし、凄く一生懸命育てるし、花が咲いたら報告しに来る時のしっぽぶんぶん付きのわんわん笑顔は最強無敵のかわいさなんだよ! いいか、リオにかわいいは絶対だ! なぜならば! リオは最強にかわいいからだ!」

「も、もういいよぉ……ご主人様……」


 は! ま、また、やってしまった!

 アアルとかいう道場主が怯えている!


 ごめんリオ! とリオの方を見ると、屍の山。いや、死んでないか。やったのはリオだから加減してるだろうし、呼吸してるっぽいし、とにかく、道場の人たちが積まれていた。

 その横には、リオ。顔をたてがみで隠しているので表情は見えないが、しっぽを物凄く振っているので、機嫌が悪いわけではなさそうだ。よかった! って、いや、よくない!


 買い手に思いっきりキレてしまった。


 あああ、またやってしまった!


「ご、ごめん! リオ!」

「待って! ご主人様……今は、近づかないで……今、近づかれると、ボク、ヤバいかも……!」


 近寄ろうとする僕をリオが止める。

 うわああああ、ごめん、リオ! せっかくのチャンスを僕が潰したから!

 そんなヤツ許せないよね! ごめん!


「いや、あの……売れなかった件は気にしてないから、その、ちょっと、はあ、ふう、ちょっとね、ヤバいだけだから……その、うん、大丈夫。ちょっと呼吸を整えさせて……」


 必死で深呼吸を繰り返すリオ。何があったんだろう?

 視てあげたり、魔力譲渡してあげたいけど、近づくなって言われたしな。


「ん? あ! ご主人様! アイツが!」


 気付けば、アアルが遠くまで逃げ出していた。


「く、くそ! なんて国だ! あーほあーほ! クソ奴隷商とクソ奴隷が! 帝国の力でお前らなんか……覚えていろであーる!」


 遠ざかっていく男。けど……


「「今……なんて言った?」」


 また、キレたぞ。ごらぁ……。


「リオをクソ奴隷って言ったのか、てめええ!」

「ご主人様をクソ奴隷商って言ったのか、おまえええええ!」


 絶対に許さん!


「リオ! アレやるぞ!」

「うん! ご主人様っ!」


 僕の言葉で一気にぱあっと明るくなったリオが尻尾をぶんぶんさせながら僕の方へと跳んでくる。

 僕が脚を思いっきり振って蹴りの構えをとると、軽業師のようにリオは僕の足に乗って身体をぎゅっと縮こませている。


「お願い! ご主人様!」

「うあああああああ! 【奴隷神蹴ドレイブシュート】!」


 輝く足が思い切り蹴りを放つと、それに合わせて、跳ねたリオが矢のような速さで飛んでいく。


 神スキル【奴隷神蹴ドレイブシュート】。

 奴隷商人神スキルの一つで、本来は奴隷神落パイルドレイバーと同じく、逆らった奴隷用の技らしい。

 だけど、僕とリオは気づいたのだ。こういう使い方もあるのではないかと。


『合体技だね!』とリオは喜んでいたけど、そんなに嬉しい? 合体技って。


 ともかく、ただでさえ、脚力のあるリオに、僕の神スキルが組み合わさると、とてつもない速さと勢いで飛んでいく。


「は? ひ、ひえええええええ!? あーるぅええええー!」


 そして、男はアール指定の見せられないようなヤバすぎる姿で壁に叩きつけられていたのであーる。


 そして、彼らは、いつの間にかやってきていた王国兵に捕まってどこかへと連れ去られていった。

 何か罪でも犯していたのだろうか。


 何はともあれ……。


「ああぁ……また、売れなかった……ごめんね……リオ~……」


 先に帰ってしまい此処にいないリオに謝る。

 リオはなんかすっごく慌てて、ウチに帰ってしまった。


「まあまあ、気にしない方がいいですよ、イレド様。それに……今回の活躍でリオの価値は上がったと思います。……880万ゴールドといったところでしょうか」


 ヴィーナが慰めるように投げかけてくれた言葉にはっとする。


 確かに! あの道場は帝国でも有名な道場らしいし、武闘大会優勝という箔は、リオの奴隷としての価値を上げたはず!


「そうだね! きっといつかいい人が貰ってくれるよね!」

「ええ……『良い人』がずっと大切にしてくれますとも……」


 ヴィーナが何故か妙にしっとりとした色っぽい目で僕を見つめる。

 気恥ずかしくなって僕は少し早歩きで前を歩く。


「よーし! 今日はリオ頑張ったし、ご褒美に何かかわいいものでも買って帰ってあげよう! あ、でも……」

「大丈夫ですよ。お金は私がなんとかしますから。……イレド様はいつも通り、私達奴隷の事だけ考えて下さればよいのです」


 ありがとう! ヴィーナ! よーし! 次こそウチの奴隷を買って貰うんだ!

 今日からまたがんばるぞ!

 かわいいリオの為にももっともっとがんばらないと!






 その日の夜。


「はあっはあっ……!」


 どうしてこうなった?


 僕は、帰ってからずっと部屋に籠っていたらしいリオの所に優勝祝いの花とかわいいお人形を持って行ってあげた。

 そしたら、リオの部屋のドアが人一人分だけ開いて、顔の紅いリオと色々話をしてたら引きずり込まれた。


 そして、今、リオに似合うピンク色のかわいい天蓋付きのベッドに押し倒されている。


「リオ……えーと……これは……?」

「ご、ご主人様が、悪いんだよ……! いっぱいかわいいって言うし、いっぱい頭撫でてくれたし、ボク、今、発情期なのに」


 忘れてた。

 獣人には発情期がある。

 この時期は異常に気持ちが昂るそうだ。でも、今日の武闘大会で男の人たちと戦ってる時そんなそぶりなかったよね?

 僕、ただ扉の前でお花と人形あげて、褒めて、頭撫でただけ、なんだけど……。


「ご主人様の匂いは……危険だよ。だから、近づかないでって言ったのに……こんなうれしいことされたらもう……!」


 眼が血走っている。ヤバい。肉食系だ。あ、獅子獣人だし肉食か。じゃなくて!


「ご主人様、ボク、ツラいよぉお……」


 切なそうな声でくぅ~んと鳴くリオ。


 だが! だがしかし!


 僕が彼女の発情を鎮めるのは、その、なんか違うんじゃないだろうか!

 よくないんじゃないだろうか!

 だって、僕は飽くまで、奴隷商人で……リオはたいせつなたいせつな商品で……。


 っていうか、去年もこういうことあったぞ!

 あれ? そういえば去年こういうことがあったから、リオの様子をよく見ておいてって僕、ヴィーナにお願いしたよね!

 ヴィーナ! なんでこういうところだけ抜けてるのさ!


「ご主人様、一線だけは、一線だけは越えなくていいから……今夜だけ付き合って……! じゃないと、ボク、他の男の人襲っちゃうかも……!」


 それだけはダメだ。今のリオの力で襲われたら誰でもひとたまりもない!

 リオを犯罪者にするわけにはいかない……なら、僕の方が……!

 けど、一線『だけ』ってなんかすごく不安なんだけど、けど……リオの、ため……!


「ええい! どんとこい!」

「わおーん!」


 結局、こうなるんだなぁああ!

 僕が血迷ってリオに対して暴走して一線越える前に、良い人の所に売ってあげなきゃああ!

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