神クラスの奴隷商人のハズが一人も売れません!

だぶんぐる

第一部【一人も売れない奴隷商人】編

第1話 神クラスの奴隷商人のハズが一人も売れません!

「ふざけるな! お前の所の奴隷なんて一人も買えるかよ!」


「ああ! お待ちを!」



 また……売れなかった……。

 僕は自分の店の前で崩れ落ちる。


 僕の名前は、イレド。奴隷商人だ。

 別に奴隷商人になりたくてなったわけじゃない。

 僕にはそれしかギフトがなかったからなっただけだった。


 ギフト。

 この世界の人間の誰もが与えられる才能。

 【戦士】や【魔法使い】、【料理人】や【商人】そう言った才能の事をギフトと呼び、その才能の中から向いているものやなりたいもの、もしくは、その中でもランクが高いものを選ぶのが普通だ。


 ランクは、下がFから上はS。Sは世界を探してもほとんどいない。普通、DかEスタートくらいで修行してBになればいい位。Aになれば一流。Sは神と呼ばれる。


 そして、大体、3~4つ程のギフトが与えられる。


 だけど、僕はたった一つ。しかも、【奴隷商人】。


 抗って、他の職業を目指してみたけどダメだった。他の職業に関する才能が微塵もなかった。


 ギフトは、その人の人間性が現れると言われている。

 そのせいで僕はかなりいじめられた。

 なんてったって、たった一つのギフトが【奴隷商人】。しかも、Sランクなのだ。


 奴隷商人の神となれるような人間性ってそりゃ友達になりたくないだろう。

 そして、家族にも。


 でも、僕はその道を選ばざるを得なくなり、家を追い出された。


 その後、とある奴隷商人に弟子入りし、勉強していたのだけど、『お前の育てた奴隷なんて売れない』と追い出された。


 なけなしの手持ちの金と、師匠に連れて行けと言われた僕が育てた奴隷達がどこからか手に入れてきてくれたお金で細々と奴隷商を営んでいるが、一向に売れない。


「はあ……神クラスの奴隷商人なんて嘘っぱちじゃないか……」

「どうされたのですか? イレド様」


 僕のすぐ傍で鈴のような声が聞こえてくる。

 近い。

 耳元だ。息がかかってくすぐったいし、感じる湿度が変な気分にさせる。


「やめて、ヴィーナ」


 紫髪で褐色肌のスレンダーな女性が妖艶な笑みを浮かべながら離れていく。


「ふふ、興奮しましたか?」


 彼女の名はヴィーナ。僕が初めて買って育てた奴隷だ。

 彼女は、今、僕の秘書のような事をやってくれている。


 奴隷に店の事をやらせているのかと他の奴隷商人に驚かれたが、人を雇う余裕がないのだ。

 仕方ない。

 しかも、彼女は有能で、僕の身の回りの事はほとんど彼女がやってくれている。

 有能で美人だ。でも、売れない。


 まあ、今、売れると僕がとても困るので、彼女は最後の手段にしている。


「興奮、したから、むしろやめて。これで僕が君を襲って子供でも出来たらどうするの」


 身重の奴隷なんて売れるはずがない。

 僕より頭のいいヴィーナだって分かってるよね?


「あ、あの……! 望むところなんですが……!」


 なんでだよ。


 真っ赤になってヴィーナがぼそぼそ言っているが、意味が分からない。

 一人も奴隷を売れない奴隷商の嫁になりたいなんて正気の沙汰じゃない。


 ヴィーナはちょっとおかしいところというか、不思議なところがある。それが売れない原因なのかもしれない。


 あとは……


「足……治せなくてごめんね。一人でも売れて、お金が入ったら治療費にでも回せたらと思っていたけど……」


 ヴィーナは右足がない。出会った頃から。まあ、足だけでなく他もボロボロだった。

 だから、安く売られていたのを僕が買い取った。

 それから色んな治療を施したけれど、足だけは治せていない。

 せめて、義足だけでも作ってあげたいのだけど、義足に使える程のお金はないらしい。


 ヴィーナが言ってた。

 ヴィーナが言うなら間違いない。

 だって、ヴィーナのお陰でなんとかなっているんだから。


「いいんですよ。お気になさらないでください」


 紫の美しい髪を掻き上げながら、優しく微笑んでくれる彼女を見ると本当に申し訳なくなる。

 ヴィーナとは一番長い付き合いだ。

 思い出だっていっぱいあるし、思い入れも正直一番あると思う。

 翠玉のような瞳を見つめていると、色んな思いが溢れてくる。


何か言わなきゃと口を開こうとした瞬間、ウチのメイドをやってくれてる奴隷のキヤルがやってくる。


「ご主人様、スレイ様がお越しです」

「またか……」


 僕は溜息を吐きながら、声を溢してしまう。


「イレド様、私が……」

「いや、いいよ。アイツは僕が対応するから」



 ヴィーナが対応しに行こうとするのを制して僕は、スレイの元へと急ぐ。


 スレイは、屈強な男奴隷と妖艶な女奴隷に囲まれながら笑っていた。


「やあ、スレイ。今日はどうしたんだい? ウチの奴隷を買いに?」

「そんなわけねえだろ! お前のところの奴隷なんか誰が買うかよ!」


 短く斬った金髪のいやらしく嗤う冒険者は、僕をあからさまに見下していた。

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