第2話 神クラスの奴隷商人だから馬鹿にされました!

「聞いたぞ! さっきも商人が文句を言いながらお前の所から出てきたって! そんなところの奴隷が俺の奴隷兵団に入れると思うなよ!」


 スレイは金色の髪を掻き上げながら大声でそんな事を言う。

 周りの奴隷達も笑っている。

 自分たちの立ち位置に満足しているんだろうな。


 スレイは、ギフト【騎士】のDランクを授かり、自身で奴隷を雇って奴隷兵団を率いてダンジョン攻略等を行っている。

 元々はスレイと僕は家同士が仲良く、僕達も仲が良かった。


『イレドはすごいなあ、みんなに好かれてて』

『イレド、どうやったら君みたいになれるのかな』

『イレド、レイアと婚約したんだって? イレドならきっとうまくいくよ。おめでとう』


 仲が良い。


 そう、僕は思っていた。


 ギフトが明らかになるまでは。


 僕のギフトが明らかになると、家族や周り以上に大声でスレイは僕を馬鹿にし始めた。

更に、僕が家を追い出されると、スレイは僕を探し当て、執拗に付き纏ってきたのだ。


 奴隷兵団なんて率いているのも、僕への当てつけなのかもしれない。

 スレイの奴隷兵団は、奴隷の身ではあるものの高ランクの冒険者で、彼ら自身もそれを誇りにしているし、スレイも度々それを自慢してきていた。

 きっとこう言いたいのだろう。


『お前の所の奴隷なんか要らない』と。


 スレイはニヤニヤと笑みを浮かべたまま、隣にゴツイ男の奴隷を置き僕に対し威嚇させ、女奴隷の身体をまさぐっている。

 本当に何をしにきたのだろうか。


 そう思っていると、スレイは手を挙げ奴隷達に指示を出し、口を開いた。


「今日は、そんな売れない奴隷商人イレドに奴隷をやろうと思ってな」


 そう言って連れてきたのは、身体が鱗だらけの女の子だった。

 歩くのも辛そうでふらふらし、肩で息をしている。


「……スレイ、この子は?」

「ウチの奴隷だよ。魔法が多少使えるらしいから買ってやったんだが、毒竜と戦った時に、毒か呪いにやられたみたいで使いものにならなくなってな。……やるよ。俺はもう要らないから。売る為の奴隷を買うのにも金が要るだろう? ただでくれてやるんだ。感謝しろ」


 上からの物言い。

 女の子は、要らないと言われ絶望に染まる。


 見れば分かる。奴隷兵団の中でも身体はボロボロで汚れもひどい。

 ここを追い出されたらもう行くところがないんだろう。

 ふと彼女と目が合う。青い目に僕が映る。


 怯え、恐れ、悲しみ、絶望、そして……

 ああ、君も『そう』なんだね……。


「……分かった。じゃあ、この子はウチで引き取る。ありがとう」


 僕がそう言うと、スレイは心底愉快そうに顔を歪め嗤う。


「あっはっは! こんなヤツも引き取らなきゃいけないくらい追い詰められているのか!? 分かった分かった! じゃあ、今後もゴミが出来たら持ってきてやるよ! なあ! おい! 笑え!」


 スレイの周りの奴隷達が大声で笑っている。命じられてか、それとも自分の意思か。

 いずれにせよ、気分は良くない。


「あー笑った笑った。いいだろう、くれてやるから、感謝しろよ」


 スレイが奴隷売買の手続きを手早く済ませ去って行く。

 といっても、今回は隷属契約の放棄だけなので、確認程度だ。

 あとは、ウチで再度隷属契約を結べばいい。


「じゃあ、精々売れるようにがんばれよ! 神クラスの売れない奴隷商人のイレド君……!」

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